23・判明
「あーよく寝た」
起き上がってソファに座る彼の金髪を見てというよりも彼自身を見て彼女を思い出した。
インティーナはどうしているかしら。
「お礼なんていいのよ!私は何もしていないわ」
謙遜ではなく本当に何も出来なかった。
彼の投与した薬はそんなにすごいものなのかしら。
「治ったから帰るよ、ありがと」
もう帰るというので私は玄関まで見送ることにした。
「そうだ貴方、名前は?」
イレーサーの知っているお薬屋さんなのか、後で問う為、彼の名前を聞くつもりだったのを忘れていた。
「えっ!?」
名前を聞いたとたんに挙動不審になる。
「名乗るほどのものじゃないし…」
どうして彼はこんなに汗をかいているの。
そんなに名前を言いたくないのかしら。
「おーい!シャーレア!インキーノ!」
声をかけられて私はうしろを振り向く。
声をかけたのはドロウノだった。
インキーノ、とは隣の彼の事だろうか、そうたずねようとしたところ彼は怪我も治ったばかりの身体でありながら全力で走りだした。
「まって!!」
病み上がりのようなものなのに、走るなんて危ない。
いま私は彼を止めに走っている。
もちろん黒のローブをかぶったままで。
「二人とも!待ってくれ!」
後ろを振り返るとドロウノがいた。
「ぜ…つかれた…」
彼が立ち止まったことで私はすぐに追い付く。
「まったく…だから待てと言っただろう」
「なんで二人とも息切れないの」
怪我をしたのなら無理をしないでほしい。
ボロボロになりながら身体を酷使している人を見ると、生前の母を思い出してしまう。
「病み上がりなのに走ったら危険だわ!」
思わず怒鳴ってしまった。
「ごめん」
ばつが悪そうに帽子を深くかぶる。
「まあまあ…何が何やらわからないがバカナーノ(インキーノ)が勝手に逃げただけなんだ君が憂うことはない」
ドロウノが彼をチラりと見ながら言ったと言うことは、インキーノという名で合っていたのね。
「それにしても…どうして名前を教えてくれなかったの?」
隠すほどの事ではないのに。
「なっなんとなく」
インキーノは何故かほっとした様子だ。
二人ともそれぞれ別々の方向から手をふって、帰ってしまった。
ドロウノは歩いて、インキーノはホウキでだ。
ドロウノもホウキを持っているのだからホウキで帰ればいいのに。
そうすればズルズル引きずらなくてもいいだろうと思った。
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「ああよかった…」
余計な邪魔が入ったせいで焦った。
シャーレアは名前で俺の正体に気がつくと思って
いたから
あえて教えなかったのに、名をバラされてもまったく気がつかれなかったのは幸いだ。
いつものように貴族の屋敷へ薬を持って行く。
「ほら薬だよ」
ビンをコトり、軽くテーブルへのせる。
「ああ、いつもすまない」
貴族の男は若いというのに栄養が片寄り過ぎている。
「この黄色い果実ばっかり食べてるからアレルゲンが蓄積されるんだよ」
俺は思わずため息をつく。
「君も食べてみればわかる」
「共食いになるから止めておくよ」
緑のトゲトゲ、黄色いトゲトゲのフルーツ、固そうで食べたくない。
「そうか」
貴族の男は残念そうに黄色の果物を掴むと
緑の葉の部分を一枚一枚引きちぎる。
花占いでもしているのだろうか。
やはり果物は固いらしく貴族の男はテーブルの角にそれを叩きつけた。
「顔に似合わずワイルドなことするんだねー」
「仕方がない…ナイフを使うか」
綺麗に皮を向き中から黄色の実が出てきた。
「あ、パイナッツーとかいうやつだ!」
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「パパ、こんな朝早くから仕事にいくなんて…」
いったいなんの仕事だろう。
イレーサーも珍しく留守にしていたし。
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「首尾は?」
近くの山頂で、爆発音が響く。
「数が多くてどうしようもないね」
といいながら白髪の男が何か粒のようなものをばら蒔いて、破裂させ異質な生物を消し飛ばした。
「あいつらも毎日毎日しつこいな」
黒髪の男は大剣を岩に突き刺し、一息つく。
「でも、そのお陰で金が入るんでしょ?」
白髪の男は子竜の残骸を踏みつけ、微笑んだ。