17・雑草
シャーレアはペンネスと話終えて屋敷に帰ろうとしていた。
「…馬車がない?」
しかし困った事に待たせていた筈の馬車が見当たらない。
どうしたものかとその場に立ち尽くしていると、すぐに御者が現れた。
「済まねえお嬢さん馬車の車輪が壊れててなあ…」
御者はその理由をシャーレアに説明しする。
晴れた日ならまだいいが風の強い日に歩いて帰るのは
ローブが飛ばされる可能性もあり今日は少し嫌だとシャーレアは思った。
「代わりの馬車を手配しておいたからそっちに乗ってもらえんだろうか?」
御者は代わりの馬車を手配してあるという。
「おじさまありがとう!」
シャーレアは嬉しく思い、最低限の感謝を伝える。
「まっさかお嬢さんみたいなお金持ちにお礼を言われるなんてなあ…」
御者はしみじみと嬉しそうにしている。
そこに馬車の音が近づいて、しばらくすると御者の声が聞こえる。
「来たぞおっさん」
御者は赤い髪の少年だ。
「わるいな車輪が壊れちまってよ…」
御者は壊れた車輪を指差す。
「ふーん」
少年はシャーレアに近づくなりじっとりこちらを見て、顔をしかめてため息をついた。
====
「俺こんな怪しい奴乗せんの嫌だね!」
初対面でいきなり酷い挨拶をされてしまった。
「こら!お客に向かって」
御者のおじさんは少年を叱る。
「自分の姿を晒せないなんて恥ずかしい生き方してる奴なんじゃないか?」
黒いローブのせいでまたも暗殺者と間違われてしまったらしい。
元々髪が目立つから纏っているだけなのに、そんな誤解をされるなんて―――――
「じゃあ俺帰るからな」
私は馬車に戻ろうとする少年を引き留める妙案を思い付いた。
「待って馬車の中ならローブを取れるから!!」
ローブで疑われているなら疑いを張らすには取って姿を見せればいいだけなんだもの。
「ったくしかたねえな…怪しい武器とか隠してたら追い出すからな」
少年はしぶしぶ乗せてくれたので私はローブを取った。
「これでも私が暗殺者に見えるの?」すると少年が目をぱちぱちとして驚いている。
「珍しい…金髪じゃないんだなお前も異国から来たのか?」
少年は不思議そうに呟く
「いいえ、父は異国生まれだけど私が生まれたのはこの国よ貴方は異国の人?」
赤髪、フラワー国のスパイシェ地方かしら。
「おうフラワー国から来たスパイシェ、つぅ町だ」
どうやら当たったらしい。
「やっぱり!」
行ったことはないけれど植物を扱うフラワー国の中でもシパイシェ地方は香辛料を扱っていて、とても熱気のある場所だという。
前にパパがそこに住みたいと言っていたから知識だけはあった。
「辛いもの好きか?」
少年はキラキラとした目で聞いてくる。
「えっと私の父がとても好きだからよかったら上がっていく?」
私はどっちとも言えないのではぐらかす。
「そうか…!」
せっかく自分から歩みよってくれた少年に普通とは言えなかった。
「私はシャーレア、貴方の名前は?」
自分から名乗ってから聞いてみる。
「フィード」
答えてくれるかわからなくて不安だった。
「炎のようでかっこいい名前ね」
と言うと、フィードの機嫌が悪くなり話してくれなくなった。
――――
「着いたぞ…ってでけえ屋敷だな」
フィードはちゃんと屋敷まで送り届けてくれた。
「ありがとう」
家に上がってもらおうとしたら、フィードは帰ろうとしているのでどう引き留めるか悩んでいた所に―――――
「そこの少年、ちょっと待ちなさい」
凄まじいスピードで屋敷からパパが出てきたのだ。
「うわなんだこのオッサン」
パパはフィードの肩をガッチリ掴む。
「その唐辛子も真っ青なくらい真っ赤な髪、君スパイシェ出身だろう?上がっていきなさい」
にこにこと恐ろしいほど機嫌のよさそうなパパはフィードを引きずり込む。
「すっげえ力!腕とれる!はーなーせーよー!」
パパにはフィードの頭が唐辛子に見えているのかしら。
「多分死にはしないわー」
私はイレーサーの屋敷でクッキーでも食べる事にした。
というかイレーサーの屋敷がいつのまにか隣に移動している気がするのだけれど、近くなったならそれにこしたことはない。
特に気にしない事にしておきましょう。