16・光
シャーレアはベッドに入り眠ろうとしているが目が冴えて中々寝付けない。
目を閉じてもペンネスと話した記憶が頭の中で再生される。
(私ペンネスの事が妙に気になっているんだわ。)
ここまで考えてしまうのは彼との話が途中で終ってしまったからだろうか、シャーレアはどう立ち回れば良いのかわからなくなった。
シャーレアは重大な事に気がつく。
(貴族だから来客は珍しくないんでしょうけれど来客の可能性があるならペンネスは私にいつでも来いとは言わなかったはずよね―――?)
平民の自分にはわからないがおそらく貴族は暇ではない稀に例外の暇人がいてもペンネスは忙しそうな貴族だとシャーレアは推測してみたがすぐに否定し別のの理由を考えはじめる。
ペンネスは城で会った時に、自ら屋敷に招こうとして、いつでも屋敷に訪れる事を許可していて
茶会の時も屋敷に来いといいながら日付を指定しなかったのだから。
(…最近になって知り合ったのかもしれないわね)
シャーレアは自分を納得させ眠りについた。
――――――
イレーサーは先程目撃した事を話した。
「彼女でなければ石の力を解放しえる筈がないのにか、まずいねびっくりだよ」
驚いたっというわりにぺイプラーは冷静で、焦りなど面に出ていない。
「ところで…なんだか屋敷の距離が近くなっていないかい?」
近いなんて云うものではなく近頃日増にペイプラー屋敷とイレーサーの屋敷の距離が狭まり、もうお隣さん状態だった。
「気が付いたんだ?」
イレーサーは残念そうに言う。
「まあ近いほうがあの子を守りやすいか」
ペイプラーは自ら納得する理由を作る。
しかしイレーサーが家の距離を縮めた本来の理由は、自宅からペイプラーの屋敷まで歩くのが面倒だからだったのだが
ペイプラーは知るよしもない。
イレーサーはある事をハッと閃く。
「…僕がここに移住すればいいんじゃない?」
イレーサーの提案にペイプラーは苦笑いを浮かべている。
「どれだけ歩きたくないんだい、イレーサー?」
やはり企みはバレていた。
「まさか、僕はちゃんと彼女を護る為に言っているんだよ…もうこの屋敷で守ることにしたから」
押し切ろうとするイレーサーに、ペイプラーはこう返した。
「私はね、屋敷に身内以外がいるのがどうも落ち着かないんだよ」
溜め息をつきながらやれやれといった態度を取る。
「ふーん」
イレーサーはペイプラーの言葉の殆どは嘘だとわかっているので聞く耳を持たない。
「本当の事を言うと依頼料の上に食事代まで君に払うのかと思うと懐が寒いんだ」
最もらしい事を言うペイプラーに、イレーサーは確かにそうなると理解した。
「でもすっごく稼いでるよねドラゴンマスターって」
イレーサーは疑いの眼差しでペイプラーに詰め寄る。
「とにかく帰るんだイレーサー」
スルーして帰宅を促した。
「嫌だねか弱い僕が夜中に外を歩くなんて」
イレーサーがあまりにもしつこく居座ろうとするのは別な原因があるのだろうとペイプラーは考えた。
「ありがとうイレーサー、そんなにまであの子を心配しているんだね」
にこにことひやかし半分のペイプラーが言う。
彼が恥ずかしがって帰るだろうと考えたからである。
「そういことじゃあなくて依頼だから…」
表面上は冷静だが、案の定イレーサーは羞恥し、自分の屋敷に戻ったのだ。
――――
早朝、カラーズは庭でハーブを食べていた。
世話ではなく食べている。
しかも調理されていない千切りたてのをだ。
「皇子、そんなのかじって美味しいですか」
ハーブの茎をかじるのは旨いか否、聞くまでもなくまずいだろう。
「イライラする」
カラーズがストレス解消にミントの葉をむしゃむしゃと食んだ。
彼が苛立つ原因、おそらくはシャーレアがここのところ姿を見せないからなのだろう。
「シャーレアに会いたいなら連れて来ますよ」
こう言えばカラーズも大人しくなるだろうか。
「なら連れてきてくれ」
否定しようとするかと思えば意外とあっさり認めた。
初めからハーブなんか食ってないで素直にシャーレアを連れて来いと言えば良いものをこのハーブ子は本当に面倒くさい。
私は一瞬でシャーレアの住む屋敷に着いた。
私はドアをノックする。
「はい?」
すぐに家主とおぼしき男が出てきた。
「すみませんシャーレアさんはいらっしゃいますか?」
たずねると男はクスりと微笑み。
「シャーレアなら彼氏とデートにいっていますよ残念でしたね」
彼は私がシャーレアに用があると誤解しているのだろう。
「いや用があるのは私では…」
それだけは訂正しなければ、私がしてもいない失恋をするなど認めたくない。
「またまたいいんですよ誤魔化さなくても貴方の考えていることはわかってますので」
いや全然わかっていないな
この人間、話を聞く気などないだろう。
「ではシャーレアさんにこうお伝えください、皇子が城で貴女を待っています、とても会いたくてしかたない。と」
言い終えぬ前にドアを閉められた。
――――
「つまりあの青い髪の男が皇子か…?いやまさか…皇子が外を歩く筈が」
ブツブツと呟くペイプラー。
「どうしたのパパ」
気になったシャーレアはたずねる。
初めからシャーレア家にいた。
なぜなら彼氏とデートなど追い返す為の嘘であったから。
「青い髪の知り合いはいるかい?」
シャーレアをたずねてきたのだから本人に問えばいいのだ。
「クリアの事?皇子の側近よ」
この辺りでは聞かない変な名前だ。
「彼がどうかした?」
シャーレアはいぶかしむ。
「いや、なんでもないが…」
クリアという男が伝えてくれと言った事を言うか言うまいか、考える。
「さっきそのクリアという彼が皇子が君に会いたくて泣いていると聞いたんだが行かなくていいんだよ」
言うだけ言ったが、後は知らない。
「カラーズには悪いけれど用事があるのよ…」
シャーレアなら行くと言い出すと思ったので意外である。
というか皇子を呼び捨てにする仲なのか。
「出掛けてくるわ言っておくけれどお城じゃないわ!!」
フリだろうか、それとも本当に別の場所に行くのかシャーレアの行き先は私にはわからなかった。
―――
「ペンネスー!」
私はペンネスの屋敷を訪ねた。
「…そんなに叩かなくてもちゃんと聞こえるぞ」
無意識の内に力強いノックをしていたらしい。
「ごめんなさい」
私はドアとこの前の事で謝った。
「いや、いいんだが屋敷の前でレディを待たせたら噂になる。取り合えずは入ってもらえないか」
ペンネスの言う通り屋敷に上がる。
「気にしているのか」
またソファで向かい合うペンネスが話を切り出した。
「え?」
私が何を気にしていると言いたいのだろう。
「この頃城で見かけないのでな、君に会えない事をカラーズ皇子が寂しがっていた」
なんとなく疑問を抱いたことがある
ペンネスはカラーズをカラーズ皇子と呼ぶ
この国に皇子がカラーズ一人しかいないなら名前を強調しなくても皇子だけで解る筈。
「ねえペンネス、カラーズ皇子の他に皇子がいるの?」
思いきって問う私にペンネスは唖然とした。
「この国の皇子はおそらく五人程いるだろうな」
ペンネスが笑いながら言う。
「じゃあカラーズが第一皇子?」
奥方を選ぶ茶番があったのだから皇の後継者はカラーズ、第一皇子だと考えるのが普通だ。
「いやカラーズ皇子は第二皇子だ…第一皇子は病で――」
ペンネスは口をつむいだ。
それだけで第一皇子は亡くなったことはわかる。
「後は第三皇子のスノーズがいたんだが踊り子と駆け落ちしてしまったらしい」
皇子が踊り子と駆け落ち――――?
「随分すごいのね」
頭がおいつかない元々禁断の恋や玉の輿など頭になかったから踊り子が皇子と恋したと聞いてもどう反応したらいいかわからなかった。
「後二人は妾の子と養子だ」
残りの皇子の事をペンネスが話した。
「そんなに皇子がいるのに養子をもらう必要なんてあったの?」
妾の子ならよくある話だけれど皇が養子をもらう必要はあるのかしら
「まあ第五皇子は優秀だと聞くからな後継ぎはさすがに無理でも次期皇の参謀にはなるだろう」
ペンネスの説明は解りやすいので理解できた。
「でも私が会った事のある皇子はカラーズだけなのよ?」
やはり皇子でも意味は通じる筈だ。
「そうだったのか?私は君がすでに他の皇子と会っていると思っていたんだが」
ペンネスは皇子に取り入ろうとしているんだと疑っているのだろう。
「…それで本題に入るぞ、カラーズ皇子は君を信頼しているようだ」
(カラーズが信頼している?初めから信頼しているから城でお茶会をしたりしたのよね?)
今更過ぎる事ではないかと思う。
「というのも私がこれまで知らなかっただけだがな…疑ってすまなかった」
なるほど、ペンネスはカラーズを心配していて、ようやく疑いは晴れたのね。
「聞きたかったんだが皇子に会いにいかなかったのは私が言った事を気にしてなのか?」
確かにペンネスに遠慮したのもあるかもしれない。
けれど―――――
「それもあるけどペンネスが気になって仕方なかったから解決するまで他の事は考えないようにしていたの」
素直に考えを話してみるとペンネスは視線を反らして合わせようとしない。
「それは嬉しいな」
何にたいしての意味かはわからないけれど
ペンネスに嫌われてしまったのかと思っていた私は、彼の方から嬉しいと言ってくれた事で安堵する。
その後は茶会でクリアに嫌われていた疑惑やイレーサーの事を話しているうちに楽しい時間はすぐに過ぎていった。