15・土
『今はまだ理由を話せない、けれど…』
戸惑うペンネスに、シャーレアは苦し紛れの約束をした。
するとその直後、裏口の戸を叩く音が鳴ったので、ペンネスは即座に飯能する。
『すまない別の客人が来てしまったらしい』
そう言われて大事な客だと判断したシャーレアは屋敷を出て待たせている馬車に乗る。
―――――――――――
ペンネスの屋敷から家へ向かっている。
あれから何とか誤解を解こうとしたけれど彼の反応は確かめられなかったわ。
しばらくして屋敷に着いた。
「パパは…まだ帰っていないわね」
父はいつも夜まで帰ってこない。
食事の時間まで私は自室にいよう。
「あら…」
リビングから二階の廊下に出ると、私の部屋のドアが軽く開いている。
パパが一度帰ってきて私の部屋を見たのかしら。
それでドアを閉めるのを忘れた―――?
ふと後ろから気配が、背筋は凍り鳥肌が立つ同時に背後から肩を叩かれる。
「きゃああああああああってパパ早いのね?」
噂をすればパパが現れた。
「一旦帰宅した時、一緒に出かけようとしたんだが、部屋にいなかったからね」
パパは残念そうに言う。
タイミングが悪かった。
今日パパと出かけて明日ペンネスの所に行けば疑われるのは変わらなくて
も弁解をしっかりできたかもしれない。
廊下で何をしていたのかパパに聞かれた私はついさきほど起こった事の経緯を話した。
「いま帰ってきたばかりよパパが帰って来るまで部屋にいようと思って、そうしたらパパが…」
パパは目を反らした。
「…ところで今日はどこに行っていたんだい?」
この聞き方…パパはきっと城に行ったと思っているんだわ。
嘘をつくのはいけないけど―――
いやでも帰っている途中に少しだけ彼の顔を見たのだから嘘にはならないわ。
「イレーサーのところよ」
とっさにパパも知っている彼を持ち出した。
「そうか…今日パパはシャーレアと出かけられなかっただろう?だから変わりにイレーサーを連れて行ったんだ」
まずい、このままでは嘘がバレるわ。
「でもさっき帰ってくる途中にイレーサーの顔を見たのよ!」
私は焦りながらも苦し紛れの言い訳をした。
「つまりその前に別の場所に行っていたと?」
やはりパパに隠し事は通用しない。
「ごっごめんなさいお城にはいってないわ」
これはさすがに往生際が悪かったわ。
「そういう事じゃないんだが…」
パパは何かに気がついたように部屋の辺りを視る。
「シャーレア、部屋の扉を開けたかい?」
パパは訝しげにドアを見つめたまま尋ねる。
「開けていないわ」
ただパパが閉め忘れた筈のドアが開いているだけなのに、どうしたのかしら。
「少し部屋に不振な輩がいないか見てくるからそこに居るんだよ」
そう言ってパパは私の部屋に入ってドアを閉めた。
不振と言われても盗られる高価な物なんて私の部屋にはほとんどないわ。
幸い大事ペンダントも大事な本も今日は持ち歩いていたもの。
「すまない、杞憂だったでも念の為、大事な物は肌身はなさず持ち歩くんだよ」
たしかに万が一を考えると移動は馬車だから道に落とす事はまずない。
だから落としたら訪ね先か馬車内を探せば見つかりそうだから持ち歩いたほうがよさそう。
「もう夕飯にしようか」
――――
男は複数の来客を見送り、一息つこうとしていた。
「邪魔するよ~」
しかし裏口からけたたましいノックをされる。
「今日は来客が多いなお前で4人目だ」
裏口から入って来た騒がしい客人に、男はため息をつきながら言った。
「約束のブツが完成したよ」
依頼した物を渡す彼は先程までの騒がしい姿からは想像も出来ない冷たい顔だ。
「ブツと言うと、まるで私が怪しい物を作らせたように聞こえるのだが」
男は顔をしかめる。
「いや~一度コレやってみたかったんだよねえ…!」
テーブルにビンを乗せて客人は達成感の笑みを浮かべた。
――――
『いるかい』
声のトーンからして、初めから僕がここに居ることはわかっていただろう。
冷静な声で玄関のドアを激しく叩く男は奴しかいない。
『どうかしたのペイプラー」
ドアは叩くものではなく、ノックするものなのに彼はワザとなのかいつもドアをドンドン叩いている。
まるでドアを壊そうとしているかのようだ。
『それが、一緒に出かけようとしたシャーレアがいなくてねぇ…』
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人々が寝静まる深夜、イレーサーは怪しい男を屋敷の近くで見かけた。
「君…コソコソ何を嗅ぎまわっているの?」
牽制の為に声をかけるイレーサー。
「…貴様には関係のない事」
ローブで顔を隠した男はイレーサーから距離を取りチョーカーに付いた石に触れて、そのまま姿を消してしまった。
「奴は一体…そんなことより報告しなくちゃね」
イレーサーは即座に隣の屋敷へ向かった。