12・木
「これのことか?」
約一分後、カラーズが、首から下げたアクセサリーを見せる。
「おそらくは」
彼はそんな身近なところに持っていたのか、きっと大切なものなのだろう
「それ、とても綺麗ね」
キラキラしていて美しいのはみてとれる
これはおべっかではなく本心で言った。
「シャーレア、手を出せ」
カラーズは石のついたペンダントを、私の手の平にのせて握らせた。
「え!?」
まさかなにも言っていないのにあっさり手に入るなんて、何かの罠だろうか
それとも無意識に物欲しそうな目で見ていたのか
ともかくくれるというのだからありがたく貰おう
としていたら誰かに足を踏まれた。
「でもこれ家宝でしょう?受けとるわけにはいかないわ》
狙ったようなタイミングで、クリアが裏声を使い私の代わりに返事をした。
ちなみに足を踏んだのはイレーサー、まさかこの二人打合せでもしたのかしら
でもカラーズは気がついていないようだわ
――――
僕は彼女のことだからありがたく石を頂戴すると言って、企みを自らバラすだろう
そう思って足を軽く踏み、代わりに台詞を言おうとした。
すると、皇子の付き人の青い髪の男が先に台詞を発した。
おそらくは皇子が国宝の石を勝手に女に貢いだからだろう。
――――
皇子の考えなしの行動に呆れていたところ
シャーレアが石を受け取って、返事をするのかと思っていると硬直しながら隣の男を見ていた。
今石を渡されては困るので私が皇子を踏んで止めてやろうとしていたのだがまさか隣の男がシャーレアのを踏むとは思わなかった。
事故か故意かはわからないがすかさず断りの台詞を言っておいたが、当然二人には悟られている。
皇子はシャーレアばかり見ているからかまったく気がついてはいないようだ。
―――
「いや受け取ってくれ」
受け取りたいのは山々だけれど何度も邪魔が入って困る。
「う…《いいえ!》
イレーサーに口内へクッキーを詰められて話せなくなった。
するとまたクリアが裏声を使って代わりに返事を。
「いやいや遠慮はするな」
ずいっとカラーズが迫る。
<そんなに言うなら頂くわねありがとうカラーズ>
とうとうイレーサーまで裏声を使ってしまった。
もう何も言わないでおこう。
「おや…皆様お揃いで茶会ですか?」
聞き覚えのある声がして振り替えってみる。
「ペンネス!!久しぶりね」
にこっと皇子に挨拶するペンネスに威厳のある出で立ちを作り出したカラーズ
彼を見たとたんあからさまに不機嫌になるクリアにどうしたのだろうとイレーサーと私は顔を見合わせた。
―――
勝手に皇宝を渡すなと文句を言われるのを覚悟でシャーレアに渡してみたが、クリアは何も言わずに平然としていた。
嵐の前の静けさか、ただたんに皇宝に興味がないのか。
それより意外だったのはシャーレアが受けとるのを躊躇っていたことである
彼女はもらえるならなんでも喜びながらもらうのかと思っていたが、どうやら違ったようだ。
『皆さんお揃いで茶会ですか?』
貴族の男がやってきたので、姿勢を正す皇子らしからぬ素の自分ではいられない。
―――
庭園の特殊な百合を見に城へ来ていたところ
黒髪の少女が来ていると城内で噂になっていた。
黒髪の少女、確実に、最近城に訪れたシャーレアが皇子に見初められたのだろうと思い、試しに見物に行ってみる。
それにしても白いローブの女性は行方不明と騒がれていた。
使用人の独断、または勘違いだったのだろう。
「…久しいですね」
シャーレアと話してみたかったが皇子の前で彼女に砕けた態度はまずい。
―――
あれっきり屋敷にも訪ねていなかったけれど、久しぶりにペンネスと会えた。
「…この間と話し方が違うのね?」
カラーズの前だからかしら?
「皇子の未来の奥方にそんな態度はとれません」
未来の奥方、何を勘違いしているのペンネスは。
「ペンネルテス・ドットマク興、最近は派手な服装からそこそこ地味な格好に落ち着きましたね」
クリアがなんだか嫌みたっぷりに言う。
彼のなにが気に入らないのかしら。
ペンネスは文句を言わず反応に困っている。
皇子の側近とはいえクリアより立場が上のはず、というかたしかにこのあいだは派手さから
地味目に寄っていると思ったけれど
身分を抜きにしてもあの嫌みたっぷりな顔はない。
「…阿呆には見えない服でも着たら」
まるでクリアと打合せをしたかのごとく火に油を注いだイレーサー。
というかうまく流されたけれど―――
「シャーレアはまだ若い、妻などにはならない」
まさか父より若い彼から子供扱いされるなんて。
「そうなのですか?…私なら彼女も候補に入りますが…余計な真似をしてすみません」
ペンネスは若いけれどカラーズより少し年上に見える。
そんな彼だって私くらいの女の子と結婚できるのに、不機嫌になるなんて
カラーズは大人の女性が好みなのか
いいえ、彼はきっとハーブしか見えないのね。