11・水と炎
“あるよエレメンタルクリスタル”
つい先程、本当にすごいことを平然とした顔でサラッと言われた。
あくまで想像上の鉱物が、あるなんてにわかには信じがたい、けれど彼が嘘を言っているとも思えない。
「どこにあるの…もしかしてこの屋敷?」
さすがに彼が持っているとは思えないこの屋敷に探し求めていたあれがあるなんて、あるにこしたことはないのだけど、やっぱり信じたくない。
彼は伝説なんて馬鹿馬鹿しいと思っていそうだから今日までこの話はしなかった。
「…誤解させたみたいだね僕が言いたいのはそれが存在することは確かだってこと」
確証がないから不安だったけれどイレーサーがあると肯定してくれたからそこは安心した。
「ついでに一部が屋敷にあることもね」
一部、ということは現物があるわけではないのかしら。
「一部…どういうこと?」と尋ねるとすぐに答えてくれた。
「あれは属性のある石を集めてはじめて完成するんだよ」
どうやらイレーサーは私よりあの石に詳しいようで、私の知らないようなことも話してくれた。
さすがにフェアじゃない、彼に教えられることはなにもないだろうけれど
私に何か聞いてほしいと伝えてみる。
すると、どうして皇子が好きなのかと聞かれた。
根本から誤解されていたので、そこに至る経緯を全て話した。
「まさか皇子を狙ったのがそんな理由とはね」
イレーサーはあきれたのかこちらを向いてくれなくなった。
「ねえさっきここに一部があるって言ったじゃない」
なに色の欠片があるのかとてもきになる。
「さあね?パーツは目覚めさせてからやっと属性が解るらしいから僕にはわからないよ」
たしかエレメンタルは火、水、木、土、雷だったはず。
彼のイメージはクールな青き水かしら。
「石は全部で七つある…でも使われるのは六つだけだよ」
――――どうして1つ余るのかしら。
七つ全てのほうがなんだかやりがいがありそうなのに
「残りの一つは存在してはいけない物だからさ」
存在してはいけない、それは一体―――。
「多分城にもあるかもねクリスタルの欠片が」
つまり彼等は欠片を持っているから
本物だと勘違いしてああ書いたのか、と納得できた。
「クリスタルの欠片集め、協力してもいいよ」
頭の回る彼の協力は非常に心強い。
むしろこちらから頼みたいくらいだった。
「ありがとう!」
こうしてクリスタルの欠片探しが決まったはいいけど、問題がもう一つあった。
つまることカラーズとのお茶会の件である。
「ところでお茶会のことなんだけど…」
あんな条件を出すくらいだ外出は嫌なのかもしれない。
「いいけど、もう皇子に会って機嫌をとる理由、ないよね?」
たしかに皇子に近づいたのはエレメンタルクリスタルが貰えると思ったから
他にエレメンタルクリスタルが手に入る手段があるなら会う必要はなくなる
だからといってお茶会をすっぽかすのはさすがに酷い。
今度のお茶会はなかば私から約束したようなもので、参加は人としての義務だわ。
「でも城に欠片があるかもしれないからやっぱり皇子に取り入ったほうがいいかもね」
――――ついさきほどまで城を嫌がっていた人間の発言とは思えない。
「ちょっとどういう風の吹きまわし?イレーサー、さっき私がお城に行くことに不満そうだったじゃない!」
こちらにとってはそれでいいけれども
なんだか‘ふ’におちないのはなぜだろう。
===
お茶会当日、一緒にいく筈だったイレーサーは準備に忙しいからといっていた。
なので後からくるらしい。
身支度に2時間もかかるなんてどこのお姫様なのかしら。
「お招きいただき光栄です殿下」
イレーサーはいつもとは大違いで丁寧な立ち振舞いでカラーズに挨拶をする。
長い付き合いだからわかる、内心では皇子だとか、そういう偉い立場の人に敬いの気持ちは少しもないのだと。
「堅苦しい挨拶は抜きで、ハーブでも飲め」
カラーズ、とうとうハーブ自体を飲むことにしたというの。
イレーサーはハーブが嫌いというわけではない
けれど仕事以外で薬草の類いを見るのは嫌だといっていた。
どす黒いオーラがイレーサーの周りから漂っている。
「ハーブ…ハーブティーだ」
――――言い直した!?
どうやらハーブそのものではなかったらしい。
きっと彼の頭にはハーブのことしかないから間違えたのね。
ぜひ、前世がハーブの女の子と結婚してもらいたい。
「美味しいです」
珍しい、あのイレーサーがとてつもないほど満面の笑みを浮かべている。
天変地異の前触れでないといいのだけれど。
「私達は蜂蜜で十分ですから」
クリアはカラーズに対抗意識を燃やして蜂蜜に薔薇のジャムを入れ、みてくれだけでも豪華にした。
「…」
イレーサーは何も言わないが、なんとなくクリアを憐れんでいるようだ。
「ところでカラーズ、結婚はいいの?」
このあいだの一件で実質結婚の話はなくなった筈
つまりこの話題、うまくいけば参加賞として欠片を貰えるかもしれない。
「そういえばこの前の殿下の奥方を決める祭りのようなもので…女性達の間で“エレメンタルクリスタル”というものが人気でしたね」
それを察したらしいイレーサーはフォローを入れてくれた。
「もしやシャーレア…」
まずい私がカラーズに近づいた理由気づかれた。
「なっなに?カラーズ」
声が裏返りそうになるのを我慢する。
「その友人と結婚でもするのか?」
――――よくないけれどよかった。
どうやらバレてはいないようで、結婚の話題を持ちかけたことでイレーサーと私が結婚の発表をするのだと勘違いをされてしまったらしい。
「クリアはどうなの!?」
話を反らすため、まったく想像もつかない彼に話をふってみる。
「俺も気になっていたところだ」
カラーズがのってくれた。
「フッ…そういう話は女遊びの一つでも覚えてからにしてください皇子?」
逆鱗に触れる前に方向性を別にもっていかなくては。
「イレーサー殿は?」
クリアはイレーサーに話をふる。
なんだか少し違和感があるけれど、何がかはわからない。
「そうですねできればシャーレアのようなタイプは遠慮しておきます…殿下は彼女のような女性はどうですか?」
いままで言われたことがない、ものすごく失礼なことを言われた。
きっとカラーズの気を引くための芝居だと思いたい。
「悪くはないな」
カラーズからは意外な答えがかえってきた。
「皇子が女性を誉めるとは…国が滅びますね」
クリアは相変わらずものすごく失礼なことを平然と言っている。
「そうだ僕、さっき話していたエレメンタルクリスタルに興味があるんですよ」
と言うイレーサーに、カラーズは少し考え込む
その姿を見て私は、彼の頭にハーブ以外のことはあるのかと失礼なことを思ってしまった。