10・雷
「ねえ、イレーサー、今度お茶会に行かない?」
私は考え事をしているイレーサーに、申し訳ないと思いつつ声をかけて
皇子カラーズとの約束の内容を説明する。
突拍子もなくこんな話をしてしまったけどイレーサーは仕方ないといった表情で話を聞いてくれた。
きっと断られるだろうしまた、城に行くなと言われるのは覚悟した。
「いいよ、ただ一つ条件がある」
答えは意外、あれだけ外出をしぶっていたイレーサーが、参加してくれるなんて、夢にも思わなかった。
「条件?」
いったいなにを要求されるの、やっぱりお金かしら。
貧乏貴族、イレーサーの生活は苦しい、と言っているわりに働いている様子がない。
メイドや執事を雇わなければいいと、いつも思うのだけど、給料が安くても使えてくれるからギリギリ大丈夫らしい。
「お札の束?宝石?それとも旅費?別荘はいいけど屋敷やお城はさすがに無理よ?」
でもお札をそのままなんてちょっと賎しい感じがする。
じゃあやっぱり宝石を買ってプレゼントすればいいわね。
「僕を友人じゃなく、婚約者って事にしてくれる?」
イレーサーの出す条件に私はびっくりしてしまった。
「婚約者!?どうしてそうなるの!?」
彼は友人のなにが不満、というかなにを考えているの。
「本当は当日、皇子の前で婚約者って宣言してやろうか迷ったんだけど」
つまり、いま言われなければ、お茶会のときに婚約者だと嘘を言われてしまうところだった。
「ダミーの指輪も用意したんだ」
そういってただの石が付いたリングを見せるイレーサー。
わざわざ小道具を用意するなんて、ずいぶんと手が込んだ冗談である。
「本気では、ないのよね?」
かくじつに彼は本気、そうだとわかっていても一応は確認しておこう。
「愚問だね」
どうしてそんな嘘をつかせたいのかしら。
そんなにお城がいやなら断ってくれてもいいのに
こうなったらイレーサーの考えをひきださなくては。
「そんなに嫌なら来なくていいわイレーサー」
だいたい彼は楽しくても私だけ損をする嘘をつくくらいなら最初から一人でいけばいいのよ。
そんなことを考えているところでイレーサーに「そんなに皇子とお茶がしたいならさっさと皇子を落せばいいんだよ」と言われた。
しかし彼がなにをいっているのかよくわからない。
たぶん皇子を落とすために必要なのが彼とのお茶会なのだから今すぐカラーズに好きになってもらおうなんて無理。
でもそういうことを差し引いても彼等との談笑は楽しいから暫くは自然に振る舞おうと思う。
「…何かほしいなら僕が手に入れてきてあげるから」
というイレーサー、私の脳裏にピリっと電流が走る。
「イレーサー…お金ないじゃない…!」
目をカッと開いて、口をあんぐりとあけ、オーバーなリアクションをとる。
「お金で手に入らないものとか、薬とか…」
図星を突かれた彼の苦肉の策ともいえる提案は私には魅力にかけた。
お金で手に入らないのは命くらいで、あいにく病気はしていないので薬も必要ない。
―――ダメもとで今もっともほしいアレを頼んでみよう。
「ならエレメンタルクリスタルがほしいの」
言ってみたけれど、どうせ無理の筈、と思っているとイレーサーは微かに笑っている。
「あははは…」
勿論おかしくてではなく、厭きれたほうの笑いだろう。
「冗談よ!さすがに私も伝説上のアイテムがほしいなんてどこぞのお姫様のような無茶難題は…」
笑顔でごまかそうとしてみたら意外な答えが返ってきた。
「あるよエレメンタルクリスタル」