別れの後に……
窓に雨粒がぶつかっている。
下を見やれば、色取り取りの傘が、咲き乱れる街中を見つめていた。
今の空模様は、私の心を正確に写し出している。
たった今、彼に別れの言葉を告げられた。
『君の事、好きだった。けど、別の好きな娘が出来たから、別れて欲しい』
好きだった……か。
前々から気付いていたんだ。
彼が、最近素っ気ない態度を取るようになってたから……。
連絡しても、迷惑そうな声で返ってきてた。煩わしく思っていたのだろう。
向こうから告白してきて、もうすぐで一年が経つという時だった。
最初の頃は、何も感じてなかったのだが、付き合ううちに彼の良いところが目に付くようになっていき、“彼なら”って想い始めた矢先だった。
『あっ、そう…。うん、わかった』
私は、それしか言えなかった。って言うか、唐突すぎて、何て応えたらいいかわからなくて、曖昧な返事しか返せれなかった。
『こんな時でも、強いんだな』
って、苦笑された。
強い?
私は、強くなんか無いよ。
一年付き合って、私の何をこの人は見てたの?
本当は、泣いてすがりたいほど貴方の事好きになってたんだよ。
でも、理性で押さえて、そう見せてるだけなんだよ。弱いところ何て早々見せれるものじゃない。
気付いてくれなかったんだね。
『じゃあ、な』
彼は、そう言って去っていった。
私は、その背中をただ見つめていた。
でも、これでよかったんだと思う。
だって、二週間後には、私は此所に居ないから……。
辞令の事、彼には話せなかった……。
こうなる事を見通していたから、伝える必要なんか無いと、自己判断していたのだ。
一ヶ月前から、上司に伝えられていた。
『これを受ければ、君のキャリアアップも間違いない。だが、心残りがあるならば、直ぐに絶つか、此方を蹴るかだが…』
上司は、言葉を濁しながら言う。
私の事を想って、前もって教えてくれたのだ。
まだ、社内報にも載っていないことを上司は、私に考える時間を与えるために伝えてきたのがわかった。
この時には、彼の態度が可笑しかったのもあって、もう無理なのではっと思っていたこともあり。
『わかりました。それ、受けます』
って、その場で承諾してた。
彼の事を忘れる為にも、必要なことだと思ったから……。
そして、今日、彼と別れた。
これで、心置き無く移転が出来るよ。
キャリアウーマンとして働いてきた自分。
それなりの実績も積み上げてきたと自負してる。
そんな私を好きだって言ってくれたのが、彼だった。
結局、ダメになったけど……。
「此所にいたのか…」
声を掛けられて、慌てて目尻の涙を拭い。
「何?振られて落ち込んでる私を見に来たの?」
無理矢理笑顔を張り付けて、振り返る。
「何、強がってるんだよ。メチャクチャ落ち込んでるくせに」
奴は、私にそう言いながら、側に来る。
「“何でもお見通しだ”って、顔に出てる。それ、めちゃムカつくんですけど」
強がりを言う。
「当たり前だろ。ずっと、傍に居たんだからな」
奴は、私に近付いてきたと思ったら突然。
ポフッ。
私の後頭部を片手で包むと自分の胸に押し付けてきた。
「ほら、無理するなよ。泣きたければ、泣けばいいんだよ」
って、頭上から優しい声音が降ってくる。
私は、奴の言葉に甘えて、抱きついて泣き出した。
奴は、同期であり、上司であり、幼馴染みだ。
だから、何も言わなくても私の事、理解してくれていた。
一頻り泣き続けて、やっとおさまった頃。
「なぁ、どうせなら俺にしておけよ」
何気ない言葉。
「俺なら、お前を泣かすことしない。だから、俺にしとけ」
奴の言葉に顔をあげる。
そこには、真剣な顔をした奴がいた。
「俺だったら、お前の全てを受け入れられる」
「何で、遠回しで言うの?」
「言いづらいんだよ。ずっと傍に居たから…。居すぎたから、言えないんだよ」
奴は、顔だけじゃなく耳まで赤くしていた。
何か、言い訳がましいんだけど…。
「お前が好きなんだよ。ずっと、一緒にいて欲しい」
奴はそう言って、私の目を覗き込んできた。
「俺は、今すぐ返事が欲しいんだが…」
「今日、別れて直ぐに“はい”何て言えると思う?」
私が言うと。
「あぁ。お前なら、あり得ると思うが」
自信たっぷりに言う。
奴になら、素直に自分をさらけ出せる。
我慢しなくてもいい。
だったら、自ずと答えが出てくる。
「本当にいいの?離れていかない?」
「ああ、お前がいいんだよ。何年お前の傍に居たと想ってんだよ。それに俺から離れることは、絶対にない。お前が俺から離れていっても追いかけるから、覚悟しとけよ」
私の不安を一気に解消する。
「…ん。じゃあ、お願いします」
「こちらこそ、よろしくって事で、一緒に家探そうか?」
って、ニコニコしながら言う。
?
「俺も、一緒に移転なんだよ。しかも同じ場所」
私の疑問にも何でもないように答える。
「なぁ、いいだろ」
「それ、気が早すぎ!」
私はそう言って、奴の胸板を強く叩いた。
読んでいただき有り難うございま~すm(._.)m
幼馴染み多くてごめんなさい(〃∇〃)