願いつもりて、
鶴を折る。
一羽、二羽、三羽…。
一枚の紙を、三角に、四角に。
折っては願う。彼の人が帰ってきますようにと。
嘴を折り、翼を広げれば、純白の鶴が、ほら、一羽。また一羽。
鶴に穴を開ける。
十羽、十一羽、十二羽…。
鶴の背に、錐を刺して、綺麗にきれいに突き破って。
そうして籠める。私の後悔を。
刺してしまった指の先にも穴が開いて、私の悔恨が漏れて行けば、純白の鶴が、ほのかに染まる。
鶴に糸を通す。
九百九十八羽、九百九十九羽、千羽。
金の糸を、鶴に通して、通して、そして通す。
そうして重ねる。自分の想いを、彼の想いに。
ほんのり赤みを帯びた鶴が、私達の想いを運ぼうと、深紅へと色を変える。
本当は、知っていたのだ。
彼が抱く想いの矛先は、姉を向いているのだと。
姉の穏やかさが愛おしいという彼は、けして私を視界に入れない。
そんな彼に、川を渡らせたのは、私。
束ねた鶴が羽ばたいていかないように、胸にかき抱いて、私は願う。
彼が、還ってきますように。
だって彼は、姉も共に連れ去った。
違う。
姉が、彼を連れ去った?
冷酷な夫を迎えた姉。
彼女が心の奥底に押し込んだ感情は何だったのか。
鮮血にまみれた寝具。
羽織の下で折り重なる男と女。
二度も見た、この光景。
私が連れてきた彼。
彼を連れ去った彼女。
彼女が夫を迎える前夜、揺らめく明かりが影をつくり、
男と女の間で、情が顔をのぞかせる。
そしてもう一つ、灯を反射して輝く何か。
彼と私。彼女と夫。
迎えられた夫は彼に、あるものを握らせた。
そのまま出て行こうとした彼を、引き留めたのは私。
どうか一晩、御情けを、と。
彼は、私のもとには来なかった。
彼がその晩訪れたのは、彼女の部屋。
そうして、二度目の光景がやって来る。
ああ、本当は気づきたくなかっただけなのだ。
彼が求めているのは彼女ではない。
彼が見ているのは、ただ一つ。
私はそれを、金の煌きを、彼に差し出すことはできなかった。
彼を死地に追いやったのは私。
彼女に、銀に輝くそれを、差し出した。
願う。
彼が返ってくるように。
そうして鶴が、完成する。
彼と同じ、心の臓に、突き刺して、
鶴を深紅に染めたから。
読んでくださった方、ありがとうございました。