表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

 

 時間よとまれ。


 とまっておくれ。


 あなたの時間よ、とまっておくれ。



 

 はいはい。わかってますよ。何度も何度も、しようのない方ですね。それでも私とあなたじゃあ、どうしたって結ばれませんよ。


 あなたは年をとりませんが、私は年をとるんですよ。


 確実に、確実に、老いへと向かっているんですから。私は死に向かって歩いているんですから。




「あのおばあさんなんで一人で喋ってるんだ?」

「さあ、私にもわからん」




 おい、そこの。佳代子さんを悪く言うな!


 いやですよそうさん。恥ずかしいわ、そんなに声をを張り上げないでくださいよ。



―――――――――――あなたにとって私の命は、セミのようでしょう。

 不思議ですね。

 私にとっても、あなたの命は、セミのようですよ。




+++

 

 突然ですが、こんにちは。俺の名前は岩崎弥太郎。ごく普通の、自称不真面目中学生だ。

 ところで、俺のことを知っている奴はいるか? 俺はこのへんじゃ、ちったぁ名の売れたワルだったりする。母ちゃんなんかは、悪ぶってみたくなるお年頃なんだよ、なぁーんて俺のことをカッコ悪く言ってるけど、俺はカッコ悪くはない。まぁ、格好良くもないんだけど。



 今日は五月の十五日。二年生になってから初めての中間テスト、前日(、、)だ。俺は不真面目だから教科書を持って返らなかった。全部置き勉だ。自分でも素晴らしいことをしたと思う。

 まぁ、母ちゃんに知れたら、ゲンコツ一発食らうだろうけれど。

 それはさておき――――俺が物置と化した勉強机に向かって勝ち誇ったような笑みを浮かべていた時のこと。

――――――ピンポーン

 インターホンがけたたましい音を奏でた。

 なんとなく、俺には押した相手が想像できたので、無視する。

「ピンポーン!!!!」

 無視。

「ピンポンピンポンピンポン!!!!」

 無視、無視。

 ――――――出来なかった。

「うるっせえな! 普通にインターホン押せよ!! 口で言ってる奴初めて見たわバカ!」

 ドアを蹴破らん勢いで開くと、案の定、幼馴染の上杉うえすぎ善花ぜんかが何やら怒った様子で立っていた。

「いーくん! なんですぐ開けんのよ! 私めっちゃまっとっとよ! おかげで隣のおばちゃんにめっちゃ笑われた!」

 予想以上の怒り具合に、俺は若干たじろぐ。

「じ、自業自得じゃねえか」

 俺の言葉は尻すぼみになった。

 善花が、変な呼び出し方をしたのが悪い。あんな風に叫ばれて、出られるわけがない。

 と、出るのがただ面倒くさかったという本音にそれらしい理由を上書きする。

「いーくん家いたやん。 すぐ出てくれたら私、あんなふうに叫ばんかった!」

 善花はどうしても俺にごめんを言わせたいらしい。

 俺はなんとなくため息をつく。

 変な意地が、俺の周りをアホ面で踊っているような気がした。そのアホ面が俺にけっして謝るなと告げている。

「なんで叫んでたんだよ」

 そう言いながら、俺は謝るまいとここに誓った。

 善花が言いにくそうに、顔を歪める。俺が、なんだよ! と問い詰めるとようやく重い口を開いた。

「……電気代、もったいなか」

 ここで、説明をしておくと、俺の家はかなりの貧乏だった。親父がいないのが一番の理由だけれど、それ以外にもいろいろと問題があった。――幼馴染の善花も当然そのことは知っているわけで。

 そんなことを気にして、口で言ってくれていたのか。インターホンのお金ぐらい微々たるもんだろうが。

「あーくそ」

 頭をガシガシかきながらそうつぶやくと、善花は俺をキッと睨んだ。

「とりあえず入れよ」

 善花は納得のいかないような顔をしながらも俺に従う。

「……悪かったな」

 囁くような声になってしまった。これじゃあ善花には聞こえてないかと思って、ちらりと顔を伺うと、善花の勝ち誇ったような顔が目に入った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ