第7話 警察官になろうぜ
俺はすべてを打ち明けた。二人に話しながら回想していると、何度も父さんの笑顔が浮んだ。俺に向ってピースをしている父さんが。
俺の目には自然に涙がたまっていた。
「ごめん・・・なんか回想していたら、涙が出てきた。」
そう言いながら、二人の顔を見ると二人とも泣いていた。この話をして泣いてくれたのはこの二人が初めてだ。
「今度・・・・三人で誠のおじさんの墓参りいこうぜ・・・・・。」
突然、隆志が言い出した。同級生がこんな風に思ってくれたのは嬉しい。
だんだん、いままでいじめられていた事を父さんのせいにしていた自分が、腹立たしくなってきた。
「なんか変だよな。親父がいないからいじめられるって。」
篤史は言った。俺の話を聞いてこう思うのは当然だ。
「保護者が・・・俺の父さんのことを嫌っていたんだ。」
俺がそういうと、目をカッと開き、驚いた様子で俺を見た。
「じゃあ、保護者がお前をいじめるように仕向けたって事か!?」
「俺の推測だけどね。俺の父さん礼儀とか規則に厳しい人だったから。そんな父さんのことを立派な人だという人がほとんどだったけど、嫌う人も少なくなかった。現に、父さんを殺した犯人は、俺の家の近所に住んでいるおっさんだった。」
「マジかよ・・・・。近所のおっさんが犯人って・・・・こえぇ〜〜。」
「でも、初めから父さんを殺そうとしていたわけではないけどね。」
そういって篤史は身震いさせているのに対して、隆志は物凄い怖い顔をしていた。今にも雄叫びをあげそうな感じだ。
「許せねぇな・・・その保護者・・・許せねぇ・・・・」
隆志は思いっきり拳を握った。俺と篤史は顔を見合わせる。
「おい、隆志・・・お前ここ右だろ。」
気がつくと、俺たちは小さな商店街の中央の交差点まで来ていた。
すると隆志の顔はすぐにいつもの様に戻った。
「じゃあな。」
そういって隆志は目を赤くして人ごみの中に消えていった。
ここからは篤史と二人だ。またさっきのような沈黙が戻るのだろうか?そんなことを考えながら一歩踏み出した。
どこの学校も今日が始業式で、休日並みに子供、学生がうろついている。
「あいつすげ〜よな・・・。」
篤史が突然、隣で言ってきた。隆志のどこがすごいのだろう。
篤史は俺の上に浮ぶはてなマークを見つけたのか、笑っていった。
「あいつさ、昔からいじめには厳しいやつなんだ。」
「なんで?」
俺のその一言で篤史が立ち止まった。・・・ヤバイ・・・聞いてはいけないことだったか。
俺はなんて篤史に言おうか悩んだ。
すると、篤史が俺にそっと耳打ちした。
「あいつの弟、いじめで自殺したんだ。」
やはり、聞くべきではなかった。
隆志にそんな過去があったのか。あんなに明るい笑顔の裏には、暗い悲しい顔があるのだ。
「だからあいつは怒っていたってわけ。」
そこからまたも沈黙が続いた。俺が返事をすればよかったものを、言葉がうまく出ずに言えなかった。
「俺さあ、こないだ親父とケンカしたんだ。俺が勉強しないで遊んでばかりいたらキレちゃって。その時はさあ・・・『親父なんかこの世からいなくなればいいのに』とか思っていたけど、誠の話聞いて、そう思っていた自分に腹が立ってきた。家に帰ったら謝ることに決めたよ。ありがとな、誠。」
俺は嬉しかった。
篤史と俺は全く逆のことを考えていたが、その考えていた自分が腹立たしくなっている面で同じだ。俺の父親は自分がどう考え直したって戻ってこない。けれど、篤史の場合は、父親は存在し、考え直すことで篤史の中で消えかかっていた父親が戻ってくる。俺は篤史がうらやましかった。
「親父の存在って当たりだと思っていたけど、本当は違うって事に気づいたよ。
・・・・・実はさあ、俺の父さんも警察官なんだ。」
「そうなの!?」
俺は無意識のうちに言葉が出た。ますます篤史のことがうらやましくなった。
「あぁ、ひょっとしたら誠のおじさんのことを知っているかもな。」
そうかもしれない。俺は篤史の苗字を聞いてみた。
会ってから半日たったが、まだ苗字を知らなかった。そんな自分がちょっと恥ずかしかった。
「俺の苗字!?・・・・大方。大方篤史だけど・・・。」
大方・・・!?確か父さんの死ぬ時にいた部下の苗字がそうだった。・・・まさか!?
俺は大方巡査のことは自分の頭の中で回想するだけで話していなかった。俺が見た父さんを話しただけだった。
だから当然、篤史は知らない。もし篤史がこの事をおじさんに話せば・・・・。
「ちょ・・・」
「俺さあ警察官になるよ。誠も警察官になろうぜ。隆志も入れて三人で目指そう!」
ちょっと待って!と言おうとしたが篤史に消された。
「なんで急に?」
「つべこべ言うな。じゃあ俺ここ右だから。また明日な。」
そう言って小さく手を振って別れた。この後、どうなるのだろう。自分の息子の同級生の父親が、殉職した上司だと知ったら・・・。考えても無駄だ。考えるのをやめた。