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第3話 過去

今日は50分授業が長く感じた。入学式の次の日で、ホームルームや校内見学だったからかもしれないが、一番の大きな原因は、今日は久しぶりに他の人と下校できるということが楽しみでたまらなかったからかもしれない。小学3年のあの日以来、ずっと1人でさびしく家に帰っていた。小学3年のあの日とは・・・・




4年前 8月3日 登校日 2時間目 学活


「きりぃつ。・・・・・・・・・きょうつけ!・・・・れい!」


「おねがいします!」


「はい。みんな今日、宿題もってきましたか?」


「はーい!」


ぼくにとってこの宿題はいじめだった。


「じゃあみんな机の上に絵を広げて。」


先生がそういうと、みんな堂々と丸められていた画用紙を広げ、隣同士で見せ合っていたが、ぼくは広げなかった。

すると隣の鹿島が無理やりぼくの絵をうばい、広げて大声で言った。


「せんせー。牟田の絵は偽物です!!」


みんな一斉にぼくたちのほうを見た。先生は不思議そうにこっちを見て言った。


「どうして?」


「だって、牟田のお父さんはもういないもん。」


教室ないがざわめき始めた。


「もしかして幽霊じゃない?」


「そうだきっと幽霊だ。幽霊、幽霊・・・・」


1人が手を叩き『幽霊』といい始めると、それはだんだんクラス全体に広がり、大きくなっていった。


「幽霊、幽霊、幽霊・・・・・」


「やめなさい!幽霊じゃないわよ。写真を見て描いたのよね?」


「うん。」


ぼくは涙を目に浮かべ、うつむきながら頷いた。


「写真をうつして書いたものは絵じゃない。」


隣の鹿島はまたぼくの絵にケチをつけてきた。


「しょうがないでしょ。牟田君のお父さんはこないだ、人を助けるために亡くなられたんだから。」


「先生違うよ。牟田お父さんは家族のために死んだんだよ。牟田んち貧乏だから、牟田の父さんは自分が死んだら、家族がお金をもらえるから死んだんだよ。母さんが言っていた。」


「なんてこと言うの!」





その時の担任の先生は一番よく俺に対するいじめに対処してくれたが、4年から6年までの担任は授業中に俺がいじめられていても、見て見ぬふりをしていた。それもあっていじめはエスカレートしていき、去年なんか最悪だった。


苦い経験を回想していると4時間目が終わった。もう下校だ。


「じゃあ今日はここまで。井崎。学級委員としての初仕事だ。」


井崎とは隆志のことだ。2時間目のホームルームで学級委員に立候補した。学級委員は男子1名。女子1名の計2人で、他に男子の立候補者はいなかったため無投票で決まった。女子の方は数人が立候補に名を上げ、話し合いで決めることになったが、言い争いが始まり明日、くじで決めることになった。


「気をつけ!!!・・・・礼!」


「さようなら!!」


今日一日の授業が全部終わった。俺は引き出しの中の物を鞄にしまっていると、後ろから篤史が肩を叩いて飛び跳ねてきた。


「帰ろうぜ、誠!!」


俺は大きく頷き鞄を肩にかけた。準備完了、あとは隆志だけだが隆志は席にいなかった。

篤史は俺が何をしているのか察知したのか、俺の肩を叩き、指で隆志のいる方へ示した。


隆志は廊下で先生と何か話していた。学級委員だから明日の朝からやらなければならない仕事があるのだろう。俺たちはしばらく話をして待つことにした。すでに教室内の人口は、ピーク時より半分以下に減っていた。


「誠。お前をいじめたやつは何組なんだ?」

「え〜と・・・・確か5組と7組。」


「何人いるんだ!?!?」

「3人。他にも小学校の時に俺をいじめてきたやつはもっといる。この3人がリーダだった。」


「そっか・・・・。」


話がすぐに途切れてしまった。お互いコミュニケーションはそんな得意な方ではなかった。早く隆志と先生の話は終わらないだろうか。早く戻ってきてほしかった。俺たち2人を唯一つなぐのが隆志だからだ。


話は長引き、教室内には誰もいなくなった。他のクラスももう終わって静かになり。さっきまで一言も聞こえなかった隆志と先生の話が廊下に響き、聞こえてきた。


2人の沈黙はまだ続いた。俺は話のネタを探した。するとそこへ、いかにも体育教師という感じの先生が右脇に学級日誌などを挟み廊下を歩いてきた。たしか2組の先生だ。俺たちが目に入ったのか後ろから教室に入ってきた。


「何しているんだ?早く・・・あぁ・・・」


どうやら俺たちが隆志を待っているという事に途中で気づいたらしい。


職員室にそのまま帰ると思いきや、教室の後ろのロッカーの上に、脇にはさんでいた物を置き、俺たちのほうへ向ってきた。


「お前達は小学校一緒なのか?」


親しげに話してきた。俺たちは互いに顔を見合わせ、首を横に振った。


「違うのか。ってことは新しい友達か。できるの早いな・・・。」


そして、間をおきさっきより小さめの声で言ってきた。


「実は俺とお前達の担任の右田先生は同級生なんだ。」


意外だった。俺たちの担任は40後半のおっさんに見えるが、この2組の先生は30代に見える。その2組の先生は俺たちの耳のそばでこそこそと話してきた。


「なあ、俺と右田先生どっちが若くみえる?」


「そりゃ、宇田津先生に決まっているじゃないですか!」


篤史は大きな声で即答した。


「そうだよなぁ。もう・・・お前の体育の成績5!」


「宇田津先生!!何をこそこそと。」


隆志と右田先生は話を終えて、こっちを見ていた。


「何もしてないですよ・・・・・・・さっきのは冗談だぞ。」


そういうと足早に去って行った。


「待たしてすまんな。気をつけて帰れよ。」


そういって右田先生も宇田津先生の後を追いかけるようにして去っていった。

隆志は準備を済ませこっちに来た。


「帰ろうぜ。」


そういって3人は教室を後にした。1組、2組、3組の教室は3階で、残りの4,5,6,7組の教室は2階にある。どちらにも静けさが漂っていた。


俺たちは隆志が入ったこともあって話しは盛り上がった。これまでで一番楽しい下校だった。しかし、そのムードを壊すかのように、藤見川にかかるあの橋が見えてきた。


「お前、ここで落とされたんだってな。」


篤史はなぜか知っていた。きっと隆志が教えたのだろう。俺は頷いた。


「ひでぇえなぁ。・・・・ていうかさあ、何で、お前いじめられているんだ!?顔は普通だし、体格もそんなに悪くない。なあ、どうしてだ!?」


俺はこの事は話そうと決心していたが、いざとなると言葉に詰まってしまった。

それを見た隆志は俺を気遣い、話を変えようと何かを言おうとしたが、俺がさえぎった。


「・・・父さんがいない・・・から・・・。」


2人は目を丸くさせ驚いていた。


「それだけで!?・・・なんで父さんいないんだ!?離婚!?!?」


篤史の口からは機関銃のように質問が飛んできた。


「違う・・・・死んだんだ。」


突然空気が重くなり、沈黙した。やっぱりこんな話するべきじゃなかったのだろうか。俺も話すのは嫌だった。だが篤史はまた聞いてきた。


「なんで死んだんだ?」


「殉職。俺の父さん警察官だったんだ。この街の交番で勤務していた。」


俺は2人にすべてを話し始めた。



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