第2話 スタート
突然手渡されたタオルで、ある程度水を吸い取ることができたが、中まで濡れているため、シャツ、パンツが肌にくっついて気持ち悪い。
今日は家に帰ろうか。
一度は考えたが、今日に限って家には家族全員いる。この姿で帰れば親は学校に連絡し、クラスの連中にこの事がバレ、他の小学校から来たやつにもいじめられることになるだろう。それよりも皆に俺が親に報告した、と知られることで、俺が弱い人間だと思われるのがつらかった。
意を消して、校門を突破した。校門からは一直線の並木道が昇降口まで伸びている。当然ここからは歩いているのは同じ中学校のやつらだ。当然のごとく、皆、俺を不思議そうな目で見てきた。そんな視線は無視し歩き続けた。
昇降口の前には先生がいた。それも担任だ。どうやっても避けられない。
もう行くしかない!俺は止めていた足を動かした。
「おはよう!」
「おはようございます。」
皆、普通に挨拶し中へ入っていく。ついに俺が先生の前にきた。
「おは・・・どうした!?今日、雨降ってないのになんでそんなびしょ濡れなんだ?」
「・・・いやぁ・・・ちょっと行く途中で川に落ちちゃって・・・。」
ちょうどチャイムが鳴った。俺は会話をやめ急いで3階にある1年1組の教室に向った。
俺が教室の床を踏むなり、クラスの視線は俺に向けられた。
俺はうつむきかげんで前から3列目、廊下側から3列目のど真ん中の自分の席に座った。
鞄を横に掛け、机にうずくまった。
『皆消えろ・・・・』
そう心で唱えていると急に肩を叩かれた。早速、誰かが俺にちょっかいをかけてきた。俺はそう思い、振り返らずにいると、今度は肩を叩いて声をかけてきた。
「おい!大丈夫か?起きろよ。」
仕方なく顔をあげて振り返えると、そこにはあの救世主がいた。
「まだ濡れてんな。これで拭け。風邪ひくぞ。」
俺はまた新しいタオルを受け取って拭いた。
「隆志の幼稚園のときの友達ってこいつのことか?」
後ろからそう言って現れたのはいかにも野球部という感じの背の高い男だった。
坊主で目力がすごかった。
「そうだよ。・・・・・お前覚えているか?俺のこと。」
俺にはまったくわからない。幼稚園の時はまだいじめられていなかった。小学校の時の悪い記憶のせいでその時の記憶は消えかかっている。
必死に思い返した。
『隆志・・・・隆志・・・・・隆志!?』
「一緒のスイミングスクールに通っていたあの隆志?」
「正解!覚えてくれていてよかったぁ。サンキュー。」
そういって親指を立て笑って見せた。
「俺は、隆志と小学校が同じだった篤史だ。よろしくな。」
そう言って話しかけてきたのは、さっき隆志に話していたやつだ。
笑顔でそう紹介してくれた。
「お前小学校の時からいじめられていたのかよ?あいつら小学校の同級生だろ?」
ゆっくり頷いた。
「こいつ誰かに何かやられて濡れてんの!?」
篤史はあの時いなかったから知らない。でも、誰かにやられたという考えを持つのが普通だ。篤史はちょっと天然が入っていた。
「当たり前だろ!じゃなきゃこんな晴れた日にこんなことになるか!」
「そうだな・・。それにしてもひでぇな。何組の奴だ!?俺が潰してきてやる!」
さっきまでの太陽のような笑顔はあっという間に消え去り、稲妻がほとばしっているような恐ろしい顔になった。眉間には物凄いしわが・・・。
「やめろ!入学して2日目で暴力騒ぎになったらあぶねぇぞ!」
「そうだな。じゃあ俺たちが一緒に登下校してやるよ。」
嬉しかった。こんな怖い男がついていたら、俺はもうあいつらから襲われることはない。
「え〜っと・・・・牟田だっけ?牟田は家の方向どっちだ?街の方か?」
「いや・・違う。・・・藤見川の方・・・・」
「じゃあ俺たちと一緒だ。」
前の扉が担任が入ってきた。
「さぁ、みんな席につけ。」
こんな感じで新しい中学校生活がスタートした。