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かくれONI  作者: モコモコアリエス
第一章 予感
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Venus~前編~

『ララ…助けて…』

「-っ!!!」

強風が生い茂った木々を揺らし、飛び起きた少女に僅かな朝日を届ける。夢…もうこの夢に何度苦しんだだろう、今では目覚めが悪いだけだ。フン、と鼻で笑うと立ち上がった少女は長い赤髪を頭の上で1つに結わき、座れそうにもない椅子に掛けておいたパーカーを羽織った。

「おっはよー!!」

乱雑に生えている植物をこれまた乱雑に越えて行くや否や茶髪のチャラそうな男…たしか伊藤とかいった奴がアホみたいに幸せ面して近づいてくる。

「きもい、うるさい、私の半径1メートル以内に近づくな、ハゲろ。」

「ひ、ひどい…けど!そんなララちゃんもぶっ」 「私をララと呼ぶな、ハゲろ。」

全く、なんでこんな奴といるのかわからない。ほんっとウザい。

「やぁララちゃん、おはよう。」 「おはよ、ララちゃんっ」

だ~か~ら~!!!…はぁ、やめよくだらない。 事の発端は今から3日前、いつも通りこの山の源水をとりに行ったら道にこの爺(20です)どもが倒れてたから水をぶっかけてやったこと。そしたらなんか水に感動して私に付きまとうようになった。

「ほんとに今日こそどっか行って下さい。私人間嫌いなんで。」

凛とした声で言い放つも爺3人は昨日の残りの肉を食べていて全く聞いていない。…ムカつく。ここは私が見つけた“奴”に見つかってない場所なのに。

大きく溜息をついてまだ丈夫なバケツを持つと、私は森の奥に歩き出した。

「あれ?ララちゃんどこ行くの?」

「うっさい。」


山はそこら辺の平地よりもずっと安全だと思う。葉を踏む音でこっちの音は伝わりやすいけどそれは同じことだし、動物たちの様子で異常は大体わかるようになった。

「きゃっ!」

…蜘蛛には慣れないけど。 だって、気持ち悪いし、可愛くないし。

『ねぇララ、この蝶々可愛いね!』

「なに思い出してんのかしら、バカみたい。」

頭を軽く振った後太い木の枝をくぐり抜ける。本来こういう木は邪魔だし、資源になるから大人の職人が伐るって聞いたけど、伐られないのもいいかもしれない。なんだか地球を実感できるから…

「じゃ、今日もやろうかな。」

開けた先に現れる大きな川。とても清く澄んでいて川底まで見ることができる。バケツを右手の肘にかけ、着ていたパーカーを放り投げると私は川の中に飛び込んだ。




あーあー!!ララちゃん、なんで俺に懐いてくんないんだろ~っていうか殺気ビンビンだし。

伊藤、現在21歳の男は肉を平らげた後ごろりと横になった。 あの美しい髪、美しく輝く黒真珠のような瞳、雪女とも言える白い肌!…そして、あの胸!!!!良い。デカすぎないのがいい!

「ってバカやろー!何考えてんだ俺ぃ!」

自身を自身の拳で殴りつけるとそばで寝ていた“友達”2人がむにゃむにゃとしたため口を塞ぐ。今あの子は一体何をしているんだろう、あーいいぞ、いいぞ俺。そう…これが

「これが恋だぁ!!」

ぐっと拳に力を入れて寝ていた上半身を起こす。俺はもう止まらなーい!!そう!止まらなーい!走り出した恋とは止まらぬものなのだ!!

よし、俺は決めた。行こう、あの子を、ララちゃんを探しに! アナタノことが、スキだから。

体操部のようにシュッと立ち上がると伊藤は走り去った。


恋は盲目…

その言葉の意味を知ることになるとは知らずに…残された2人の男はにやりと立ち上がった。



(2)

あぁー気持ちいい!!!少し冷たい川の水は先ほどまでの僅かな苛立ちをすっかりと忘れさせてくれる。海と違って色とりどりの魚がいるわけではないが、毎日新しい魚を見かける。初めは痛くて開けなかった目も開けるし、ゴーグルなんて必要ない。私たちは道具がなくても生きていける。そう、こんな風に…!!

がしっ!と大きめの魚をしっかりと掴み逃げられないように抱え込む。魚も逃げようと必死だけど、逃がさないんだから! 私はそのまま川底を強く蹴り上げて外へと向かい、水で満杯になったバケツに魚を導く。こうすることで陸に上がった途端暴れられることもないし。ま、コツはいるけどね。

「十分っ。」

1人で満足気に笑い、バケツを持ったまま陸にあがる。

「笑顔も可愛いね、ララちゃん…」 「・・・!い、い、」

でれっとしたキモイ顔であいつが、い、伊藤が見て、見て・・・

「いやぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」 「ぐぼは!!!」



「おい、まだか。」

「まだです、すいません…」

俺は今、ララちゃんが捕まえた魚を探していますっ…み、見つかるわけねぇ。けど…

「何よ、頭水に突っ込んでほしいの?」

「殺されそうだからいいです…」

折角あのジャングル森を抜けて奇跡的にララちゃんに会えたのに…俺は運がなかった。まさか、水浴び中に会うとは。…ん?いや、違うぞ。俺は超ツイているではないか!!だって、ララちゃんの水浴びに…!!

「わーバカ野郎!俺!」 「ちょっと、鼻血出てるわよ。」

天使だ。俺にはきっと天使がついているんだ、Angelだ。な、なら俺はきっと、確実にララちゃんと結ばれるはずだ。なら、いつコクっても…

「な、なによ変な顔して。」

「好きです、ララちゃん」

その後俺の鼻血が増したことは言うまでもない。


「ねぇねぇ、ララちゃん、ごめんってば。」

「うるさい死ね。」

この男、あり得ない。本当にありえない。私のシャツ姿を見た挙句魚を逃がし、それで告白とかふざけてるにも程がある。私も何振り回されちゃってんのかしら、くだらない…私はこんな奴らとは違うんだ。こんな奴ら

「!!」 「ん?どしたのララちゃん?」

この静けさ…鳥たちが一匹もいない、虫たちがみんな反対側に逃げてる…何かしら…

「ラーラ 「うっさい!!」 ぶふぉ」

この能天気は!何にも感じないのかしら!脳みそ腐ってんじゃないの?!よくここまで生きてこられ…

「あ、もしかして心配してんの?」

「はぁ?」

「大丈夫だよ。今日ちょっと荒れるだけ。」

…え? 私の疑問と驚きが入り混じった顔を見て伊藤はクスッと笑った。な、なんか気に食わない。

「俺さ、こんな状況になる前、気象学を専門に勉強してたんだ。まさかこんなことに役立つなんて思ってなかったけどね。」

気象学?こんなチャラそうな金髪ピアスが?なんか、信じらんないんだけど…

「へぇ、そう…」

それ以上伊藤は何も言わなくなって、どこか遠い目をしていた。懐かしいとか、そういうのだと思う。けど…天気荒れるっていうだけでこんな不快になるなんて、なんか本当に私人間離れしたみたい。変な感じ…


ララは明るいのにも関わらず暗闇に包まれた森の奥を見て軽く溜息をついた…



(3)

「はぁ!?ちょっと!どういうことよ!!」

いつもの場所に戻るなりキーンと響くような大声が辺りを覆った。いつもの場所…それはすなわちララが寝起きしている場所ということになる。そこは廃屋で雨風はある程度しのげる場所ではあったのだが、とにかく狭いためララ以外は使えなかった(入れさせてもらえなかった)のだ。しかしそこにいるはずのない人物が、あの伊藤の友達のブタが2匹いる。あわあわとする伊藤をよそにララは鬼の形相で彼らを見ていた。

「ララちゃん、今日は荒れるんだよ。外にいたら…いやいやどうなるかわからないからさぁ。」

「そんなのあたしの知ったことじゃないわ!出て行って!!」

「団体行動した方が“奴”から逃げやすいんだよ?ララちゃん。目標が拡散するからね。」

「ここはあたしが 「ままっ、ララちゃんいいじゃない今日だけ。今日だけでいいからさ。」

・・・結局、今日だけここは豚小屋になることになってしまった。けど私が女だからという理由で伊藤は部屋を葉っぱ等で仕切り、男3人は交代で見張り役をすることにしたらしい。全く、たまったもんじゃないわ。“奴”よりもこいつらの方が厄介、さっさと捕まればいいのに。

ガタガタと家が震えはじめた中、私は早々に眠りについた・・・


『私、今の世の中がどうしても嫌いになれないの。“奴”は怖いけど…“奴”のおかげで、ララに会えたからっ!!』

「  」

『うん…約束だよ、ララ』



あぁ…風のせいだ。あの日もたしか、このくらいすごい風だった。木々が折れそうなくらい揺れ動いて、土砂降りの雨が降って…いつも、思い出す。思い出させられる。風のせいだ…

「あれ?起きちゃったの?」

ん・・・?あんたは、豚1号?!なんでこっち側にいるのよ!

「んー!ん!!・・・」

え?

「あー、ごめんね?あんまり騒がれたくないんだ。」

え?何?どういうこと?なんで声が出せないの?なんで2号もいるの?なんで手が…動かないの?な、なんで…

「ララちゃんの喘ぎ声…聞きたかったな~。」

あ、喘ぎ声って…

「やっぱ?俺ら男だし?ララちゃん女の子だし?これって、運命だと思わない?」

そう言って顔を近づけてくる豚1号の息は豚のように荒くなっていて、嫌に口角が上がっていた。きったない顔が私の視界を埋める。離れようとしても、離れられない。寝てる間に手を何かで縛られたらしい……もしかして…

「さて、どんなことしてみる?ララちゃん。」 『何をしてほしい、ララ。』

お、犯され…

「言っとくけど、伊藤は来ないよ?今見回り、あいつの番だから。」

嫌だ。

「こことか…さ。どうなの?」

私にサワラナイデ…

『ララ。』

・・・。

「ララちゃん?」 『ララ?』

どいつもこいつも…ララ、ララ!ララ!!嫌いだ!大嫌いだ!!お前らみんな、何もかも!死ねばいいのに!!


その時、廃屋が大きな音を立てて崩れた…。

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