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かくれONI  作者: モコモコアリエス
第一章 予感
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*無知~後編~

こっちに、来ている。

匂いを感じる。音が聞こえる。“奴”らの存在を近くに感じる…


「拓、こんな道通って大丈夫なんスか。」

「しょうがねぇだろ。隠し通路はここしかねぇんだよ。」

人一人が屈んだ状況でようやく通ることができる道は倒れたコンクリート同士がうまい具合に支えあってできている。これは自分たちがいた建物から隣の建物へ移ることができる道になっていて外からはただの瓦礫にしか見えない、本物の隠し通路だ。

ここは康が見つけてきたこの道はこの建物を知り尽くした俺でさえ気づかなかった。あんな能無し化け物が気づくはずがない。そうは思いながらも前に出す足はゆっくりと慎重になっている。なぜだろう、あっちの建物についてはよく知らないからだろうか…この胸騒ぎはなんだ。

「鴻上、少し…急がないか?」

大森にそういわれて現実に戻る。わりぃ…といい視線を前に向けたその先で2つの赤い光が瞬いた…


「!?」

バカな…固まった体に大森達がぶつかる。しかし俺を襲った衝撃はそんなものとは比べ物にならない。遠く離れていたはずの光は徐々に、徐々に…確実に…近づいてくる。

“奴”の匂いと共に。

「あ、あいつだ!!!!」

西田が大きく声をあげたためすぐさま制したが時すでに遅し。光のスピードは格段に上がりこちらに迫る。奴らの耳が常軌を逸していることは周知の事実、なのにこの馬鹿は…!!!

「待て!戻るな!!」

一発殴ってやろうと振り返れば既に10メートル程離れた西田が大森越しに映る。さっきの声で他の“奴”も俺らの居場所を大体把握しただろう、こっちに向かってきているに決まっている。今戻るのは自殺行為だ…!しかし小さく放った声はいくら迫力があっても西田には届かない。こんなときこそ落ち着いて行動するべきだ、例えにして悪ぃけどあーゆう奴は遅かれ早かれ、確実に捕まる。

「くそ!!」

この態勢では奴らのスピードに敵わない。けど、諦めるわけにもいかない。

俺は今にも崩れそうなコンクリートの壁に大きく体をぶつけた。パラパラと薄汚れたコンクリートが今は懐かしい雪のように舞い落ちる。茫然としてる大森はほっとくとして、今できる最善のことをやるんだ。もしかしたら自分の上のコンクリートが崩れて死ぬかもしれない、もしかしたら何も起こらず“奴”に捕まってしまうかもしれない。けど俺は、負け犬になんてなりたくねぇ。





全く!とんでもない目に合ったスよ!!

西田徹は崩れたコンクリートに隠された例の通路からよいしょと脱出した。体を伸ばすと長いこと曲げていた腰がボキボキと唸る。さて、どこに逃げようか。とりあえずここにはまだ“奴”は来ていない。もとはといえば、あんな狭い道で奴らから逃げられるわけないんスよ。拓とは数か月やってきたけど、今回ばかりは呆れたッス。

…たしかここを左に行けば壊れた窓があったスね。そこから出てもうおさらばするッス!

そぅっと道の角から顔を出し様子をうかがうが、奴らの気配はしない。窓から外を覗き見てもそれは同じだった。

「俺ってば、ツイてるッスね~」

念の為もう一度背後を確認する、やはり“奴”はいない。フン、と口角を上げて窓に足をかけた。

「   」

ん?何か聞こえた?…拓達、捕まっちまったんすかね。でもごめん俺は助けに行かないッスよ、わかってくれるッスよね?俺ら、“友達”だし。

悲しげになった瞳は一瞬で消え失せる。ここは弱肉強食の世界。人を騙し、弄び、使うことができた者だけが生き残れる。そう…

「えっ…」     「ァァァ…」

彼は信じていた。

軋む体に、押し潰される体に、確立された強さを叩き込まれながら。



(*元5話)少し残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。


くそっくそっくそっ!!!もう“奴”の匂いをこんなに感じる、ここまで近づかれたのは久々だぞおい。

コンクリートはパラパラと舞うだけで崩れる素振りも見せない。たかが人間の男ごときじゃ無理ってか?俺はここで奴らに捕まるのか?…いや、俺は捕まらない。この世で人間が俺だけになっても、他人にどれだけ蔑まれても!かまわねぇ、生き残るためならなんだってしてやる。

壁にぶつけすぎてズキズキと痛む体をゆっくりと壁から離し、絶望にうちひしがれている大森に決意の目を向けた。

「大森…」

返事はない。

「俺は必ず生き残る。そのためならお前だって見殺しにできる。…だから、お前ももっとちゃんと生きろ。」

もう大森を見ることもなく、俺は1つ大きめのコンクリート片を手に取った。そして、

「さっさと来い!ノロマ!!」

全力でそれを前方に投げると先の暗闇からすぐさま“奴”の鳴き声が響いてきた。

ガサ…

ガサガサガサ

ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ…

来る。

俺は身体をぼろいコンクリートにくっつけた。そして

「アアアアアアアアアアア!!!!!!」

“奴”が俺の視界を埋め尽くした。頭でっかちについた丸く、大きめの赤い瞳が俺を見た瞬間目に角を立てる。あぁ、こえ。“奴”が俺よりも2倍位太い腕を振り上げた。あれを食らったりなんかしたらただでは済まないだろう、俺なんかより圧倒的な破壊力もってそうだし。

俺なんかより。

「はっ!」

腕が向けられた瞬間に態勢を低くし、その下を通り抜ける。俺より少しデカくて、ノロマだから簡単なことだった。案の定“奴”の手は空を切りコンクリートの壁にぶつかると、みるみるうちに大きなヒビが刻みこまれていく。しかし崩れるには至らない…“奴”は壁を見て首を傾げるとこちらを振り返った、その瞬間に思い切り殴り飛ばしてやる。あっ…意外と柔らか…

「ァァァ!!」

日々の生活により鍛え上げられた一撃は予想以上に強く、“奴”がすぐ後ろのヒビが入った壁に体を強く打ちつけた。パラパラと今まで以上の粉が舞う…まだかよ!!いつ崩れんだ?!

「ァ…ァァ…」

壁に手をつき起き上がる姿は尻尾がなくて頭が小さければ人間のようだ。まあ、二つある時点でかけ離れてるけど。

「-っ!!」

体を強い衝撃が襲い、肋骨が軋んだのが分かった。が、なぜ?それは理解できなかった。気づけば俺は5メートルほど飛ばされていて“奴”が狂ったように鳴きながら手と恐竜のような尻尾をしきりに動かしていたのだ。逆鱗に触れたのか?茫然とその光景を見ていた俺の目を覚まさせたのは大森の、なき声だった。

「うあぁぁぁぁあ!!!」 「アアアアアアアア!!!!」

大きく生えた爪は彼の頭に食い込んでしまっている。

「た、助けてぇ!!鴻上くん!!!」

何も聞こえず、考えられない頭にいつか見た映画のような光景が映る。そうか…そうだったんだ。俺たちは“奴”に捕まるんじゃない。

殺されるんだ。

大きな紅い血溜まりが、持ち上げられた大森の下にできていた。



(元6話)

“奴”が離した手から力なく大森が落ちる。うっ、と俺は思わず込み上げてきた吐き気をどうにか堪えた。捕まったら…いや、見つかったら殺される。大人たちと…同じだ。

『いいわよね、あなたたちは。殺されないんだから。』

…殺される。 どこかで信じてる自分がいたんだ。俺たちは殺されないと、どこかで信じていた。だからさっきもあんな無茶できたし、どこか心に余裕を持っていた。現実は、違うんだ。

“奴”が足音を立てて近づいてくる。生き残る…俺は、生き残…

「ァ・・・?」 「ん・・・?」

ガタガタと空気が揺れている気がする。地震ではないだろうが確実に揺れていて粉が降ってきている。なんだ…?そう思い何気なく上を向くとガラスが割れたような音が一瞬し、大量の粉をまき散らしながら俺たちよりはるかに大きいコンクリートが降ってきた。今までの衝撃により壁が崩れたのだ。俺と“奴”は先ほどまで4メートル程離れていて、俺の足先には今崩れたコンクリート片がある…“奴”はいない。

逃げ…られる? …俺はまだ…生き残れる!!

待ち望んだ外へと俺は駆けだした。




誰もいなくなってしまった部屋を抜け出し、わずかな思い出のある建物から離れてもう結構経った気がする。廃段から“奴”が大体どこにどのくらいいるかは確認したから、その道を避けてここまで来た。まだ“奴”には会っていない。

「みんな…大丈夫なのかな…」

“友達”だったんだと実感したばかりだというのに気になってしまって気が気じゃない。振り返れば建物が一回り位小さく見えた。 また1人か、なんて思ってトボトボ歩いているとガタ!と物が倒れた音がし、一気に尻に火が付いた。

ど、ど、どどうしよう。いるの?いるのかな、こ、こういう時はとりあえず落ち着いて…自身に語りかけながらそっと音のした道への曲がり角に立つ。落ち着いて…落ち着いて…息を殺しながら覗き込めば…

「・・・」 「・・・」

紺色の目が、僕を見ている。目が…目がぁぁ!!

「うわあああ✕#*!!!」 「っ!!…ちょ、静かにしろ!!」

叫び声を上げた僕を抑圧的な声で制しながら大きな手で口を覆い隠される。大慌てで手足をバタバタと動かしたものの、先ほどの聞き覚えのある声を思い出しはっとした。

「はぬはぬふん!!」 

「あ?なんだって?」

「はぬはぬふん!!」 *口を塞がれています

「わかんねぇし。」

この金髪に紺色の悪そうな目、間違いなく鴻上くんだ!…よかっだぁ。ボロボロと零れだした涙が鴻上くんの手を濡らし、彼を慌てさせる。

「は?!な、何泣いてんだ、し!い、いくらなんでも!おま、男だろ!」

流れ出した涙は止まらない。これは安心からだろうか?それとも…?

「つーか、ほんとよく無事だったな。お前。」

鴻上くんはどこか呆れた様子で僕を見た後目線を下に移した。

「うん、僕非常階段にいてさ…それで奴らを見つけたんだ。鴻上くんたちは?僕が行った時はもういなかったからさ」

その発言を聞いて鴻上くんはピクっと体を動かし、いつもの鋭い目で僕を見た。何にも悪いことした覚えはないんだけどちょっと怖い・・

「お前…ほんとバカノだな。」

「え?」

その後、僕には鴻上くんが少し笑ったように見えた。それは本当に一瞬ですぐに戻ってしまう。

「西田は途中でどっか行ったからしらねぇ。」

「そっか!じゃあきっと大丈夫だね!西田くんも運動神経良いし!大森くんは?」

「大森は………さっき、はぐれた。」

そう言う鴻上くんの目は揺らいでいる。

「うん、多分大丈夫だよ!また会えると思う。」

きっと、大森くんは捕まったんだ。だから鴻上くんは今ひどい顔をしているんだよね。凄くショックだけど、きっと鴻上くんはもっと辛い思いをしたんだ。

『叶!助けてくれぇぇ!!』

「ね、ねぇ鴻上くん。よ、よかったらぼ、僕と…まだ、“友達”でいて…くれ…ない…かな…?」

鴻上くんは驚いた顔をする。

「や、やっぱダメだよね!ぼ、僕なんて足でまといにしか…」 「いいけど。」

…ふぇ?・・・へ?!驚いて鴻上くんを見上げる

「バカノにもう少しくらい付き合ってやってもいいっつてんだよ。」

嘘。絶対、ダメかと…思ってた。だって、鴻上くんだし。

鴻上くんとしばらく見つめあう…というより僕が固まること30秒、鴻上くんが待ちくたびれたように足をトントンとしだし、最終的に舌を打つ。

「さっさと行くぞバカノ!まだ“奴”はいるんだかんな!」

「あぁ!待って!ちょ、そっちはダメ!」

「なんでだよ!」

「“奴”が2匹…」


僕は、まだ何も知らなかった。

この世界のことも、“奴”のことも、鴻上くんのことも…全ての真意を。

無知編終了となります!前後と分けると読みづらくないか心配のため一旦編集ここまでとします。無駄に話数多くて申し訳ありません。そして、拙い文章にも関わらず読んで下さりありがとうございます!!今後ともよろしくお願い致します。

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