無知〜前編〜
はじめまして、閲覧ありがとうございます!只今この小説は話数を減らす作業をしていますが作者がバカなため話の削除法がわからず、無〜前編〜と無知2、3が被っています。誠に申し訳ありませんがご了承下さい。早めに改善します。
「康人くん…捕まっちゃったね。」
つい、呟いてしまった。泥や埃でひどく汚れたコンクリートを赤い炎が照らす。ガラスなどとうの昔になくなった窓から寂しい風が火を弄び、去っていっては呆れたため息がやけに大きく響いた。
「しょうがねぇだろ。」
ただでさえ重い空気をより重くしてしまった俺はごめん、とつぶやく。再びの沈黙…
この人たちと“友達”になったのは1週間前。1人になってしまい寂しい気持ちをぐっと抑えながら元渋谷を歩いていたら声をかけられた。“友達”は多い方がいい。それは昔からの常識的考えだろう。だけれど、昔と今ではその理由が全くもって異なる。 昔“友達”っていうのは楽しい時間を共有する、互いに心を許しあって対等に交わっている人。を指したらしい。俺らのいう“友達”は極端に言えば…囮。自分が捕まらないための、道具。“奴”らに狙われても散らばれば目標が拡散するわけだから、確率が下がるんだ。…まぁ、もう二度と会えない可能性もあるけどね。
「…い。おい!バカノ!!」
「ううぇ?!な、何??」
耳元で大声で声を上げられ思わず変な声がでてしまう…ちなみに、バカノっていうのは、認めたくないけど俺のことで 叶 っていう名字から由来している。反論しないのは俺が本当にバカで、情けない奴で、ビビりだから。
「聞いてたかよ…今の話。」
「あ…っと、ごめん。」
明らかな怒りマークを浮かべながら舌打ちした彼は鴻上拓斗。“友達”のことだから俺もよく知らないけれど鴻上くんは普通じゃないようなオーラを持っている。16歳で俺とはタメなんだけど体格も性格も全く違う。正直、骨格が気になるくらい(特に肩)細くて、デカいんだ。身長は180超えてそうだし、運動神経もありえないくらい良くて、良くて…イケメンなんだ。目つき悪いから怖いけど…ていうか怖いけど。髪も金髪だから…もうヤンキーに感じる。だから違うオーラを感じるのだろうか…
「いいか?耳の穴かっぽじってよ~く聞いときやがれ。」
コンコンと廃校から前に持ってきた白チョークを床に打つ。そんな様子にもう慣れてもいいはずなのに慣れない俺って…
「今回で康が抜けちまって、俺らはお前と西田と大森んで、俺の4人になったわけ。だから今まで使ってた逃走術は使えねぇんだよ。」
「うん」
「だから今度は新しい作。もしも俺らが4人でいるときに“奴”に出会ったら。」
・・・
「適当に逃げる…!(キラ)」
「は…?」
随分カッコよく良い作戦みたいに言ったけど…
「それ、作戦な…」「あぁん?」 「…ごめんなさい。」
バラバラに逃げるって、どこも作戦じゃないよね。それに、なんで絵書いたの…?思わず言いかけた言葉は例の威嚇に押しつぶされて、そのまま消えてしまった。
「しょうがないよ、カノくん。」
少し高めの声が耳に入り絵を見ていた顔をあげると控えめな性格の大森くんが作られた笑みを浮かべていた。それに続いて西田くんがこくりこくりと頷く。
「猫だまし作戦はいい案だったけど5人じゃないとできないし。康も…いっちゃったから、完璧じゃなかったんだよ。そんなのは使えない…。」
「4人じゃいい案も出ないっすよ。」
こうやって空気が重くなるのは1日に数えられないほどある。笑った日など、いつが最後か分からないし「おもしろい」と思うこともなくなってしまった。
それくらい俺らの日々は、苦痛だったのだ。
案が浮かばないときには 親が、大人がいたら って思う。でも、大人はしばらく見てない。俺の親は殺されたらしい。らしいっていうのはそのことを兄貴から聞いたからだ。そんな兄も…
「おいバカノ。もう寝るから火消すぞ。」
「あ、うん。」
やめよう。こんなこと考えても仕方がない。
灯りと共に過去の想いも消えた。
(元2話)
全く、呆れちまうぜ。
暗闇の中拓斗は大きく息を吐いた。バカノが来てしばらく経ったが未だにあいつのことが理解できない。なんなんだあの運動能力の低さ!!女みてぇだ…肌白いし、足遅いし、ビビりだし!!なんで今まで逃げてこられたんだか俺にはわからねぇ。
実はめちゃくちゃ強いとか!…いやねーだろ。この間屋根飛び移るだけで怖気ずいてたしな。
実はめちゃくちゃ頭良いとか!…いやねーな。つーかここで頭良くても意味なんかなんもねぇし。
実はめちゃくちゃ・・・もういいか。可哀想だな、うん。
こんな暗い夜は特に自分が動物なんだって実感する。初めは電気のない夜はなんも見えなくてただ不安になりながら耳を澄ましてた。しばらくしたら鼠が歩く音も聞こえるようになって、異質な“奴”の匂いも少しは分かるようになり、今では暗闇も昼間のようによく見える。
{ガツーン!!}
…バカノはまだ見えねぇらしい。もうこんな生活何年も送ってんのに…わっかんねぇな、俺には。
何も映らない天井を見、麻袋を体にかけると彼はゆっくりと目を閉じ直後に寝息をたてはじめる。寝れるときは寝ておかないと駄目だという兄の教えに従って。
しかし、ほんの数秒後に大きく目を見開いたかと思うと飛ぶように起き上がり、足音一つ立てずに壁にピッタリとくっつくと破壊された建物の隙間から外を覗き見た。
「なっ…!!」
そして慌てて口を手で押さえる。
ありえねぇ。
これは夢なんじゃないかと、願い、疑う彼の瞳に…30程の“奴”が映った。
「おい!おい、起きろ!!」
小さくも迫力のある声で寝ている西田たちをがくがくと揺さぶり、叩き起こす。寝ぼけた顔がうっすらと目を開けるや否や奴”のことを話す。だってそうだろ…!
“奴”は多くても5人行動。なのに、今回は大量…あいつらは何考えてんだかほんとにわかんねぇなおい!!
「あれ?カノはどこッスか??」
そういわれてみればバカノがいない。
「どこいんだよあのバカは!!?」
怒りながらも先ほど耳に届いたガツーンという音を思い出し背筋が凍る。もしかすると、もうすぐ近くに…?
いや、そんなはずはない。“奴”の匂いは感じなかった!あんな大量にいるんだ、感じないはずがない、俺を信じろ…!!バカノはバカだから
「拓斗!どんどん近づいてくるぞ!」
はっとその言葉で我に返った。…そうだ、そうだよな…俺たちは…
“友達”じゃねぇか。
「来い!こっちに抜け道がある!!」
(元3話)
うぅ…痛いなぁ。ここの天井低くなってるの忘れてた。
ぶつけた額はきっと赤くなっているだろう、僕は撫でるように額を触った。暗闇には流石に少し慣れたけどまだ完ぺきには見えない。視力はいいから、昼だけは自信があるんだけど…
「鳥目ってやつかな?ビタミンBかCかDが足りないんだよね。…どれだろっ」
ボロボロになった階段はもはやどこが1段目なのかわからない、まだ形が残っている段も自分の足が乗れば崩れてしまうかもしれない。ここは鴻上君たちが眠る場所から左に曲がったところにある元非常階段。空はどんよりと重たく、いつもなら綺麗に見える星々も雲に隠されてしまっている。
「ちょうどいい…のかな。」
そんなことをぼそりとボソリと呟いて上へと向かう廃段にそっと足をかけた。
ここを上がりきれるようになったらバランス感覚が養われて、細かい体重移動もできるようになる。そしたら逃げる時転びにくくなるし、細い道も走れるようになる。
そう、康くんが教えてくれた。僕がまだ康くん達と“友達”になりたてで、運動神経悪いことが明るみになり始めた矢先だった。一緒に登り切りたかった…
「わぁ!!!」
あ、危ない…色んな意味で…。新たな廃段と化した段に足をとられたせいでバレリーナ並に足を開き、慌てて口を押え、険しい表情をしている自分はかなり滑稽だ。うまーく微妙に体重を移動しながら再び足を揃える。
大きく溜息。これは安堵なのか、それとも…
「ん?」
ふと、何気なく外に向けた視界に見慣れてしまったそれが映る。
「ん?んん?!」
じっと目を凝らしてそれを見つめ、疑問は、確信へと変わり恐怖を生み出す。
「う、嘘…」
震えるからだ。溢れだす汗。大きく開く目。彼もまた鴻上拓斗と同じ絶望に塗れた世界を見ていた。そして彼も思う、夢だ。と…しかしこれは紛れもない事実で“奴”は挙動不審に、大きな頭を幾度も動かしながら、確実に近づいてきているのだ…そして
「キシャァァーーーーーーーーーー!!!!!!!」
異様な鳴き声と共に、“奴”らは駆け出した。僕らに向かって…
ビクっと大きく肩を上げた後に安定が崩れ、脆い階段は崩れる。自分が戻ってきたこともしばらく気づかなかった。
は、早く逃げなきゃ。逃げなきゃ、捕まるっ…頭ではそう分かっているのに、体が全く動かない。神経がぶちぎられたように意思が伝わらない。きっと、分かってるからなんだ。
「逃げられる…はずがない…」
今は、今だけは、これまでの“奴”が可愛く思える。たかが1、2匹で僕らはあんなにも必死だったんだ。一体どうすればいいの…?
逃げる気もなくして茫然としていた時、なぜだろう。鴻上くん達を思い出した。鴻上くんたちはこの状況に気づいているのだろうか、まだ寝ているんじゃないだろうか…
知らせなきゃ。ダメダメ無理!!“奴”らは建物の中にきっともう入ってきてる!だったら、わざわざ危ないとこになんか行きたくない!捕まった人は2度と帰ってこない、帰ってこれない…!嫌だ!死にたくない!!!
震える体を抱きしめるように包んだ。全く暖かくない…寒い。
「 」
遠くから、声が聞こえた。だれの?わからない。
でも、僕は…扉を開けていたんだ。
誰かが乗り移ったように感覚がない。勝手に足が動いて、勝手に手が伸びる。視界に映るものが遅れて脳に届く。さっき額をぶつけた天井もサッと越えてただただ走る。
間に合ってと祈るばかりで何も心配していない。その証拠に、ほら。こんなにも埃が舞っている、こんなにも建物が鳴っている、こんなにも…あれ、おかしいな…泣いてる…?
あぁ、嘘だった。ちゃんと心配してるや。
「鴻上くん!!!!」
僕たちは“友達”だった。