換気口殺人事件
中央線結露事件からしばらくして、また俺は普段どおりの生活を送っていた。時期的にはもうすぐゴールデンウィークになろうとしていた。去年のゴールデンウィークって、何してたかな…
「ちょっと、いい?」
去年の思い出を捜索していると、妹で声優であり探偵でもある上野あおいが部屋に入ってきた。何か言いたそうな表情をしている。こういうとき、いい予感がしないんだが…
「アンタ、ゴールデンウィークなんか予定ある?」
「いや、ないけど…まさか、また依頼の解決を手伝えとかじゃないよな?」
「違うよ。私だって普段は一人で解決できるもん」
「じゃあ何だよ」
「箱根で撮影があるから、その…付いてきて欲しいなーとか」
「えっ、なんで」
「だって、現場じゃほとんど一人だし」
「そっか」
なんだ、コイツもちょっと子供っぽいところあるんだな。
「何ニヤニヤしてんの?」
「いや、なんでもないよ」
つい顔に出てしまったらしい。
「で、どうなの?付いて来てくれるの?」
「いや、いいのか?何も関係ない俺が付いていって?」
「まあ、いいんじゃない?もしなんか言われたら、『マネージャー見習いです』とでも言っておけば」
「んー、まあ、いっか」
「じゃあ、約束だからね!」
ゴールデンウィークの予定が決まった。
そうして、ゴールデンウィークがやってきた。
オヤジに現場に俺が付いていってもいいのかと聞いたところ、「現場を感じるのはマネージャーとして重要だから、行ってこいよ」と許可的な何かが出たので、上野あおいと一緒に、新宿駅の特急ホームで箱根行きの特急を待っている。
「あ、来た」
妹が指差すほうを見ると、灰色をベースに、朱色と白のラインが引かれている、展望席が付いている特急列車だった。
「なんか古くない?」
などと妹は言ってるが、そんなこと言うなよ、鉄道マニアが泣くぞ。
車内清掃と点検が終わり、列車に乗り込む。座席はフカフカだった。
「わー!フカフカ」
何興奮してんだか。
「あんまり声出さないほうがいいんじゃないのか?お前がここに居るってばれるぞ」
「でもあんまり気づかれないんだよねー」
とかいいつつ小声になってるし。
気づくと列車は新宿を発車していた。
この列車では車内販売をしてるらしく、アテンダントさんが俺の隣を行ったり来たりしていた。なぜかこういうアテンダントさんって、かわいい人が多いんだよなぁ。目の保養をしていると、右隣に座ってるヤツから殺意をこめられたジト目で見られているのが判明したため、すぐに視線を景色へと変えた。気づけば東京から多摩川を越えて、神奈川県に入っていた。
「で、今日撮影ってなんの撮影なんだ?」
「うん、写真撮影と取材」
「雑誌か?」
「そうだよ」
「マネージャー居ないのに、ちゃんとやってるんだな、結構」
「いまは仮マネージャーでほかの人が私ともう一人のかけもちでやってくれているから」
「ふーん、大変だな」
「まあ、迷惑はかけちゃってるかな」
しばらくして、ずっと座席に座ってるのも疲れたので、車内をふらふらと散策する俺達。特にこれといった発見は無かった。そうして、しばらくすると、特急列車は最初の停車駅に到着した。
「あれ…町田って、東京都なんだ」
「多摩川越えたらずっと神奈川県じゃないんだ」
「みたいだな」
列車は再びゆっくりと動き出す。
「次の停車駅は…小田原か」
「もう!?早いねー」
「いや、特急だから停車駅は少ないだろ。つーか、そろそろ戻るぞ」
「うん」
しかし、いざ二人でもと居た席に戻ってくると、誰かが座っていた。しかも、4人がボックスシートになって座っている。
「あれ?何でだ?」
「席間違えてるんじゃない?あの人たち」
なるほど。僕は自分の席に座ってる人たちに声をかけた。
「すいません。座席間違ってませんか」
すると、一人の男性が、
「え?ああ、こっちはAとBか。ごめん、間違えちゃった」
そういいながら隣の席に移動する。
「君達は。兄妹かい?」
「はい。あなた達は?」
「ああ、俺達はなんていうか、悪友たち、って感じかな」
その男性たちはははっ、と笑う。
その後会話を進めていくにつれて、4人の職業などが分かった。4人の中心的な存在、四谷さんは大学で准教授をしているらしい。ちょっと物静かな高田さんは都内で個人企業を経営しているらしい。体格がいい千駄さんは中小企業の社長をしているらしい。体が細い両国さんは実家を継いで弓矢の販売をしているらしい。
「両国さんは、弓道は得意なんですか?」
「まあ、高校と大学でちょっとかじってただけだよ」
「なに言ってんだ。大学で優勝ばっかしてたくせに」
すかさず四谷さんがツッコミを入れる。
「まあ、最近はやらなくなっちゃったから、もう腕は衰えてるよ」
両国さんは少し悲しそうな、それでも笑顔だった。
「そういえば、高田は最近どうなのよ」
四谷さんが問いかける。
「なに?どうって?」
「お前の会社だよ」
「ああ、順調だよ。海外と取引をしてるからね」
「こいつ、ひょいひょいと出世コースを登りやがって、この若さでクラウンに乗ってるんだぜ」
「へぇー、そうなんですか」
「いやあ、少し安く手に入ったからだよ」
あまり表情を変えなかった高田さんは、このときは少し頬が緩んでいた。
「で、千駄はどうよ」
「俺か?もう全然だ。いつ潰れるかを彷徨ってるよ」
暗い話なのに、精一杯の笑顔を見せてくれた。
「やっぱり中小企業は大変なんだな」
「まあな」
と、千駄さんは一言しゃべると、コーヒーを啜る。
「千駄さんの会社って、何を作ってるんですか?」
「俺の会社はな、いろんな機械をオーダーメイドで作ってやる、そういう会社だ。カッコいいだろ?」
「ええ」
といつの間にか妹をそっちのけで会話を聞いていると、高田さんの携帯が鳴り出す。
「あっ、ちょっとごめん」
そう言って高田さんは席をはずした。
「なんか、私無視されてない?」
久しぶりに妹が口を開いた。
「そんな事は…多少あるかもな」
「もうっ」
顔をぷくぅと膨らます。
「別にいいけど、今日アンタはマネージャー見習いとして来てるんだから、私の世話くらいちゃんとやってよね」
「お前と会話するのが世話をすることなのか?ずいぶんとまあ寂しがりやだな」
「うるさいっ!別に兄貴と会話するぐらいいいじゃん…」
「?まあそれはそれとして、探偵のお仕事はちゃんとやってんのか?」
「やってるよ。仕事は来ないけど」
「良くそんなんで廃業しないな…」
「大塚さんが海外で働いてるお金があるからね。まあ事務所を追い出されることはないと思うよ」
「そっか。なら安心だ。一つ聞くけど、お前、今までどんな事件解決したんだ?」
「んー、私もお手伝いして初めて知ったんだけど、探偵って、アニメみたいに殺人事件を解決したりはしないんだよねえ」
「そうなのか、意外だな」
「まあだから事件とかそーゆーのは無くて、この間みたいな犬の捜索とかばっかしかな」
「へぇ」
ところが、俺達は、この後すぐ、殺人事件に遭遇してしまうことになった……
それからだいぶ経っただろうか。列車は新松田駅付近に居た。一行は一向に高田さんが戻ってくる気配が無いので、千駄さんがデッキに探しに行くと、デッキには居なかった。
「高田のヤツ、どこ行ったんだか…」
「この列車には乗ってるはずなんだけどな…」
「トイレに篭ってるんじゃないか?」
「しかし、それにしても遅すぎるだろ…」
どうやらさっき携帯に着信があって出て行った高田さんが、まだ帰ってきてないらしい。がしかし、今の俺は急な腹痛がやってきて、それどころではない。少し早足でトイレに急ぐと、トイレは鍵がかかっていた。どうやら使用中らしい。
「ん?なんだこれ」
ふと足元を見てみると、何か液体のようなものがトイレから出ていた。自分が影になっていて暗いので何なのかはよく分からない。太陽が正面になるように立ち位置を変えると、ワインレッドの液体―血液だった。
「!!」
俺はいつの間にか腹痛が治まり、トイレではなく車掌室へと駆け込んでいた。
「車掌さん!」
「この列車を次の駅で止めてください!人が死んでます」
「えっ!?どういうことですか!?」
俺は車掌さんを連れ、先ほどのトイレまで向かった。いまだに血は流れたままである。
「本当だ…中の様子を見てみてみましょう」
そういうと車掌さんは自分のポケットからおもちゃの鍵みたいなのを取り出して、トイレのロックを解除した。
「ねぇ、何やってるの?」
なんてことだ。こんなときに妹が来るなんて、どうせコイツのことだから、「事件を解決する!!」と言い出すに決まっている。
「ねぇ、それ、血、だよね…?」
さすが探偵。気付くのがお早い。ついに車掌さんがロックを解除し、一瞬間をおいて―ドアを開いた。そして、そこには思い描いたのとはまったく異なる光景があった。
矢である。
ナイフで刺されているのかと思いきや、何本もの矢で、刺されているのである。そして、刺されているのは誰かというと、先ほどから姿が見えなかった、高田氏であった。これを見た車掌は、しりもちをついている。妹は、ショックが隠せないようである。
「車掌さん…早く列車を止めてください」
「えっ、ああ、はい。今すぐ指令に報告をします」
列車は次の駅で停車した。本来なら、停まるはずではないが、こんな事が起こってしまっているのだから、仕方ない。
「さて、私の出番かなー」
「お前、顔色悪いぞ。大丈夫か?」
「うん…まぁ、ああいうの見ちゃうと、ね。そういうアンタは何で大丈夫なの?」
「なんだか平気なんだよね」
「なんかちょっと怖いんだけど」
「それより、この事件に首突っ込むのか?」
「まあ、一応探偵だしね」
「普通探偵はこういうことしないと思うんだけど」
「えっ!?そうなの!?見た目は子供でも頭脳は大人じゃないとこういうのは解決しちゃいけないの?」
「そういうことじゃねぇよ!」
「じゃあ麻酔銃でアンタを眠らせて…」
「もういいよ!どんだけコ○ンが好きなんだよ!?ったく、探偵は基本、事件には関わらないと思うんだがな」
「まあでも、困ってる人が居たら助けるのが探偵の仕事だと思うんだけどなー。それに、アンタもこれが事件だってのは、分かってるんだ」
「そりゃな。自分で矢を刺して死ぬほどマゾヒストな人間はいないだろ。それに、矢は自分じゃ刺せないしな」
「そう。これは自殺じゃない。他殺よ」
しばらくすると、向こうから見覚えのある人たちがやってきた。四谷さん達だ。
「おい、高田が死んだって…嘘だろ?」
「本当ですよ。トイレの中で…現場見ますか?」
「おい…!高田…!!」
四谷さんは僕達をかきわけトイレの中へと入る。そして、状況を理解し、吐き気をもようしたのか、洗面台に向かってゲーゲーしている。ほかの二人は、青ざめた顔で、その場所に立ち尽くしていた。
「なんで…高田がッ!」
四谷さんは悔しさと怒りの両方の顔をしている。
「で、どうだ。何か事件の鍵は見つかったか?」
俺は妹に問いかけてみる。
「え?」
「え?」
「鍵とか見つけなきゃいけないの?」
「いや当たり前だろ!じゃあどうやって犯人見つけるんだよ!」
「それは…警察と協力をして…」
「警察は協力なんかしてくれないぞー」
「じゃあどうすればいいのよ!!!」
「わかんないの!?どう解いていくか考えて正解を導き出すのが探偵の仕事だろ!?」
「そうなのかー。じゃあ、考えるか」
そういうと探偵は目を瞑り、腕組みをして、考え事を始め(るフリをし)た。どうせ、何も分かってないんだろうな。こいつの探偵としてのスキルは底辺だからな。こんな事は警察に任せるのが一番なんだが、俺はあくまで個人の意思を尊重する。とことん付き合ってやる。っていうか、そんなことより…
「なぁ、お前、この電車が動かないんじゃ、仕事場つけないぞ」
「あーっ!忘れてた!電話しないと」
「ったく、そういうことぐらいちゃんとやれよな」
「もう、アンタがやってよ!」
「なんで俺がやるんだよ!!お前のマネージャーじゃねえぞ!?」
「でもマネージャーになるんでしょ?だったから学習よ、学習!!」
「ったく、しょうがねえなあ…」
俺はそう言ってしぶしぶ妹から教えられた連絡先に電話を入れる。こう見えて、俺は妹がかわいくて仕方ないのである。だから、多少の無茶はかなえてあげたいと思うし、出来るだけ側に居てやりたいとも思う。もっとも、彼女がそれを望まないのなら、俺は静かに身を引く。これは俺のプライドのようなものだった。
「ふう。電話したぞ。まぁ、ゆっくり来いだとさ」
「えっ、ゆっくりって…」
「まあ、ゆっくりって言われたら速く行くのが常識だよな」
「うん。ってことは、この事件をとっとと片付けないとね」
一瞬、探偵の目が変わったような気がした。気のせいだろう。
「で、犯人は誰だと思う?」
俺はさっそく尋ねてみる。
「そんなの決まってんじゃん、りょ―」
「両国さん、とか言わないよな?」
「ええ、そうね」
「じゃあ今なんで『りょ』まで出たんだよ!」
「う、うるさい!」
「両国さんなわけないだろ。両国さんは確かに弓道はプロ並らしいけど、道具がない。だから違うな」
「となると後は二人ね…」
「まぁまず、考えなければならないのは、あの矢をどうやって刺したのか、だな」
「え?どうやってって、普通に、弓で矢を放って刺したんじゃないの?」
「それじゃほかの乗客にばれるだろ」
「んー、じゃあ、トイレの中で二人入って、その中で殺したって事?」
「それも無いな。だって、トイレには鍵がかかってただろ。入るときに鍵をかけるのは容易だけど、出るときには中から鍵はかけられないだろ」
「ちょっと待って!!それって…!」
「そう。密室だよ」
それから20分くらいして、神奈川県警の刑事達がやってきた。名前は、千木良と、三井とか言ったかな。
「で、あなたが最初の発見者ですか」
「ええ、そうですよ」
俺は千木良刑事に聞かれたので、本当のことを伝える。
「この遺体は、発見されたときのままですね?」
「はい、誰も動かしてません」
「そうか…」
千木良刑事は腕を組み、考え込む。
「これは…自殺ですかね?」
三井刑事が先ほど俺達が却下した自殺案を提案する。
「いや、それは無い。矢はある程度の速さが無きゃ殺傷はできんだろ」
「そうですね…」
「ちょっと、そこの刑事二人、もうその会話はさっき済みましたよ?」
声がしたほうを見ると、そこには、探偵がいた。なんで出てきちゃったの…
「ああ?誰だね、君は?」
「探偵よ」
「探偵?ははは、君がかね?笑わせるな」
千木良刑事はガハハと大きな口を開けて笑う。
「本当に探偵だもん!!」
探偵は笑われたことが悔しいのか、半泣きになって抗議をする。
「はいはい、かわいい探偵さん、ここは探偵の出る幕じゃないよ。帰りたまえ」
「もう大体の犯人像は分かってる、と言っても探偵の出る幕じゃないって言うんですか?」
「何ぃ!?」
千木良刑事が目を大きくした。
「当然、この探偵、上野あおいが事件をパッとスピード解決いたしましょう!」
あーあ、知らんぞ、俺は。
「じゃあ、誰が犯人だと言うんだね?」
「簡単です。まぁ、いろいろ理由はありますが、そこら辺については、この男が教えてくれますよ!」
と言って指を指されたのは俺のほうだったので、振り返ると、誰も居ない。
「なぁ、誰指してんの?」
「え?決まってるじゃない。アンタよ」
「俺かよ!!」
コイツ…あとで覚えてろよ。
「では、後はよろしくどうぞ」
そう探偵が言うと、全員の目線が俺に向かう。ああ、倒れそうだ。
「ん…何でしたっけ、犯人は誰、ということですね。まず、トイレの様子をもう一回見てみましょうか」
そう言って、トイレへと近づく。
「ここに、換気をするための、小さな隙間があった『はず』なんですよ」
僕はそう言って、横長の丸状の穴を指す。
「これが何だというんだね?」
千木良刑事は怪訝な顔をする。
「まぁ待ってください。次に、この矢はどこから飛んできたのか、そういう話になります。ここから飛んできたなら、説明はつくでしょう?」
「じゃあ君は対向列車から矢が飛んできたとでも言うのかね?、あり得ないな」
「そんな事は言ってませんよ。この矢は、山から飛んできたんです」
「山ぁ!?」
「はい、山、というよりは、線路の隣の藪ですね。そこから矢を放てば、ある程度の速さが出せますし、隠れるにはちょうどいいと思います。」
「じゃあなんだ、この中に犯人は居ないじゃないか!」
「いや、居ますよ」
「じゃあどうやって藪からこの列車に乗るんだ?この電車は町田駅を出たら小田原まで停まらないんだぞ?」
「簡単な話です。その人はずっとこの列車に乗ってるだけなんですから」
「てことは、誰かに依頼したのか!じゃあ、誰が・・・!」
三井刑事が驚いたように僕のほうへと顔を近づける。
「まあ慌てないでください、三井刑事。何も『人』が実行犯だとは言ってないでしょう」
「なんだと…!!」
今度は刑事二人が僕へと顔を近づける。
「ちょ、顔が近いです。確かに、実行犯は人ではありません。機械です」
「どんな機械なんだ?」
ここで、久々に千駄さんが口を開いた。
「ええ、ターゲット追尾装置つき発射台、とでも言いましょうか、要は、狙いを定めて矢を放つ、そういう装置です」
「誰が作ったんだ!そんなもん!」
四谷さんが大声を上げる。
「まあ落ち着いてくださいよ。四谷さん。あなた、確か大学での研究テーマは『レーダー装置による追尾装置の研究』ですよね?」
「ああ、そうだが…まさか、俺を疑っているのか?」
「まあ、そういうことになりますね」
「残念だったな。あの研究は不備が見つかって最近はまったく研究してないんだ」
「表向きは、ですよね?」
「ああ?」
「最近のネット社会は便利ですねー、こういうことも分かってしまう」
そう言って俺が見せたのは、とあるSNSサイトだった。
「そ、それは!!やめろ!!」
そこに書いてあるのは、「ついにレーダー装置による追尾装置が完成したなーう!」という内容だった。
「これは自分のではない、とでも言いますか?あなたの研究サイトからのリンクですよ。ご丁寧に「自分のアカウントです」と書かれてるじゃないですか?」
「うっ…」
「さあ、逃げられないですよ、観念してください」
「はぁ…やっぱりネット社会ってのは怖いな。過去をえぐられてるような真似が、簡単にできる。そう、その少年が言ったこととほとんど同じですよ。刑事さん」
「なぜそんなことを…」
三井刑事はつぶやく。
「あいつは、俺の会社をのっとったんだ」
「よくある事情ね」
数分ぶりに探偵が口を開く。
「始めは俺が立ち上げた会社なのに、あいつだけが得をして、俺は借金まみれの生活を送るなんておかしいだろ?だから、だからッ・・・!!」
四谷さんはそのまま泣き崩れてしまった。
「以外とあっさりしてたわね」
もうこのダメダメ探偵にはつっこむ気にもなれないので放っておこう。
その後、四谷さんは殺人容疑で逮捕され、警察署に行ったらしい。去り際、
「今回は悔しいが君に一本取られたようだな。だが、二度と顔を見せるなよ」
と千木良刑事に言われた。
「もちろんです」
と、一言残し、電車は約2時間遅れで箱根へと向かった。




