プロローグ
夕方5時半前。いつもの番組が始まるので俺は自分の部屋のテレビをつけた。本来ならリビングの大画面テレビで番組を見たいのだが、今日は妹が家に居るので一人で小型のブラウン管テレビを眺めてる。もちろん地デジ化は万全だ。
「さて、始まったな」
画面に流れるのは少年誌で連載されてるマンガが原作のアニメである。ギャグ要素の強い、笑えるのに最後は少しカッコいい、王道のアニメである。見ている俺はついつい笑いがこぼれてしまう。ヒロインが出てきて、主人公にツッコミを入れる。このヒロインの声、まだまだ若手な感じがするけど、それでもヒロインだ。きっとなかなか技術があるんだろう。ヒロインはあらゆるボケにツッコミを入れていく。
アニメが始まってから2、3分が経ち、オープニング流れ、CMが入り、俗に言う、「Aパート」が始まったときだった。なにやらリビングが騒がしい。
「ったく、またかよ…」
おそらく、また妹とおふくろが喧嘩でもしているのだろう。というか、毎週この時間はいつも喧嘩しているので、喧嘩で間違いない。喧嘩、といっても、妹が一方的におふくろに突っかかってるだけなので、当のおふくろは、のほほんとしている。
「もう、信ッじられない!!」
バタン、と扉を閉める音がして、ドスドス音を立てながらリビングを去ってゆく妹。いい加減慣れろよな、妹よ。そして妹をいじめるんじゃない、おふくろよ。気づけば廊下は静かになった。やっとアニメに集中できる―と思ったのもつかの間、後ろにはマイシスター。
「うわああっ!!」
ガシャンと椅子を倒す俺。妹はゆっくりこちらに近づいてくる。
「ちょ、ちょっと待て。これはたまたまテレビをつけたらだな…」
「嘘。5時半きっかりにテレビがこのチャンネルに切り替わるようになってるの知ってるんだから」
何でそれを知ってる!?お前は超能力者かよ!?
俺はテレビのリモコンを取り、即座にテレビの電源を消す。
「いや、だからさ。な?ほら、消したから」
あたふたする俺にかまわず妹は近づいてくる。ついに、追い詰められてしまった。妹はクッと顔を上げた。…あれ、泣いてる?そして、涙目のまま、
「もう!なんでみんな私が居るときに私がアフレコしたアニメ見るの?いじわるなの?バカッ!!!」
と言い放って再び廊下をドスドスしながら自分の部屋に閉じこもってしまった。
そう、妹は、声優なのである。