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41 猫の捜索始まる

「一緒に冒険すればいいと思う」


(あっ、そっちね……)


少し期待した自分がいた。

ケイトも同じような感覚だったのか、ほっとした表情を浮かべている。


「ミリス、私もいいと思うよ。ただ、ザックにも聞いてからの方がいいから、明日確認してみよう」


「あっ……そうだよね」


急に恥ずかしくなったのか、ミリスは少し顔を赤らめた。


外はすっかり暗くなっていたが、広場の夜店の明かりで表情はよく見える。

少し気まずい空気になったが、ちょうどザックの話題が出たこともあり、僕は尋ねた。


「ところで、ザックって今日、何かあったんですか?」


「やっぱり気になったよね」


ケイトはそう言って、話し始めた。


「彼は家族と一緒にこの街に住んでいて、冒険者をしてるの。今日は子どもの誕生日なのよ。確か、六歳と三歳だったかな。女の子と男の子」


「なるほど」


「私たちみたいに、別の地域から来た独り身の冒険者とは事情が違うからね。冒険者といっても、いろんな背景があるのよ」


「安全でもないし……」


ミリスがぽつりと言う。


冒険者という仕組みは、登録こそ簡単で、依頼もなくならない。


だが、すべての依頼が高報酬というわけではない。

当然、報酬が高ければ、それだけ危険も伴うし、実力も求められる。


そう考えると、生涯ずっと冒険者として生きるのは、簡単なことではないのだろう。


(どの世界でも、お金を稼ぐって簡単じゃないんだな……)


「ところでノアは、明日何するの?」


「探索の依頼を受ける予定です。初依頼なんですよ」


「登録したばかりだから、Fランク依頼よね? なら楽勝じゃない?」


「ははは、だといいんですが」


「ノア!」


(びくり)


突然、ミリスが声を上げた。


「敬語、やめるべき。なんか距離感」


「確かにね。ノア、普通に話していいよ。そういうの、あまり気にしないチームだから」


(そうか……)


改めて気づかされた。


レムナ村で一緒に戦い、打ち上げをして、こうして食事も共にした。

もう、そういう関係なのかもしれない。


「じゃあ、そうさせてもらいます」


「それ」


「あっ、すみません」


「ほらー」


ハハハハハ……

クスクスクス……


ハハハハハ……


これも、料理の効用なのだろう。



チュンチュン。


チュンチュン。


ガヤガヤガヤ……。


外はすっかり明るくなり、朝の市場はすでに始まっている。


あの後、僕たちは翌日もそれぞれ依頼があるということで、早めに解散した。

本当はお風呂に行きたかったが、眠気には勝てず、素直に宿へ戻ったのだった。


そして今日はいよいよ、初めての依頼だ。

内容は《迷い猫の捜索》というFランク依頼。


それでも、少しドキドキしている。


(とりあえず、先に冒険者協会へ行こう)



「おっ、来たぞ!」


「ヤツがか……」


「小さいガキじゃないか……」


「本当なのか……?」


なぜか、入った途端にざわついた。


(僕、何かしたっけ?)


(まさか、女性二人を誘って食事に行ったのが噂に……?)


変な逆恨みはごめん被りたい。


違うと信じながら、僕は視線を感じつつもカウンターへ向かった。


「あのー……」


「あっ、ノアさん! いやー、すごい噂になってますよー。一応、ご本人には聞いたので確認済みなのですが、本当ですか?」


(いやいや、事実確認は済んでるんですよね……)


そう思いながらも、恐る恐る尋ねる。


「食事に行ったことですか? あれはその……知り合いがケイトとミリスしかいなくて……」


「ん!? ケイトさんとミリスさんと食事に行ったんですか!? それは初耳です! どうやって!?」


「えっ、違うんですか?」


(余計なことを口走ってしまった……)


どうやら食事の件ではなく、《幻魚イトウ》を捕まえた依頼の話だったらしい。


「食事会の件は、また後で追及するとして」


(追及するのかい)


「割烹どーみんのドン・ドーミンさんから、昨日の夜に連絡がありまして。ノアさんがイトウを捕まえて持ち込んだとのことでした。ドーミンさんからは、依頼達成者をノアさんにしてほしいと。間違いありませんか?」


(昨日のうちに連絡してくれたのか。やっぱり、仕事ができる料理人は違うなぁ)


「はい。たまたま釣り上げてしまって、料理をお願いしようと持ち込んだんです。その時に、依頼を出していたと聞きました」


「ありがとうございます。事実確認ができました」


受付嬢は、ほっとしたように頷く。


「実はこの依頼、Bランク依頼でして。本来、Fランクのノアさんは受けられない依頼なんです」


「あっ、そうだったんですか」


「はい。ですが、今回は特殊な事情ということで、先に支部長と相談しまして、異例ではありますが、依頼受託と達成を認めることになりました」


(Bランクだったのか……。でも、よかった)


「報酬のお渡し自体は問題ありません。ただ、重要なのは経験値の話でして……」


「はい……」


「今回のBランク依頼は、経験値がかなり高めに設定されています。FランクからDランクへ一気に上がれる程度ですね」


(そういうことか)


「ですので、冒険者登録されたばかりではありますが、いきなりDランク昇格となります。念の為、問題ありませんか?」


「僕としては全く問題ないです。むしろ、受けられる依頼が増えるということですよね?」


「はい、その通りです」


「では、お願いします。

逆に、気をつけることはありますか?」


「そうですね。討伐系依頼には注意してください。ランクが上がる分、危険な依頼も受けられるようになります。一人で受けるには危険なものも多いので、討伐系を受ける場合は、ぜひパーティーを組むことを検討してください」


「確かにそうですね。ありがとうございます」


「では、こちらが報酬です」


カウンターの上に置かれたのは――


三十万ゼニー。

一年分の食事券。

そして、魔法のバッグ。


「これは……すごいですね! こんなにもらえるんですか?」


「はい。Bランク依頼としては、少し多いくらいですが、だいたい相場の範囲です。そもそも今回の依頼は、すぐに達成できるような内容ではなく、中長期で臨む想定の依頼でしたから」


「なるほど……」


「あと、魔法のバッグについては、釣れた魚を運ぶために、依頼受注時にお渡しする予定だったものです。そのまま報酬としてお渡しします」


(確かに、普通は一か月くらい粘って釣り上げるものだったのかもしれない)


(というか、魔法のバッグって、荷物を物理的制約を無視して運べるあれだよな。めちゃくちゃ欲しかったやつだ)


(冒険者って、意外といいかもしれない)


そんな感想を抱いた。


「経験値も反映してありますので、後ほどカードでご確認ください」


(Dランクか……ちょっとプレッシャーだな)


「それで、もう一ついいですか? 

今日受ける猫探しの依頼者の家の地図をいただけないかと思いまして……」


「すぐにご用意します。少々お待ちください」


この世界には、プリンターのような自動印刷機は存在しない。

そのため、基本は手書き対応だ。


ただし、本の一部では、活版印刷や木版印刷が行われているらしい。

今回のような地図も、もちろん手書きとなる。


「お待たせしました。どうぞ」


手作り感いっぱいの地図を受け取り、僕は依頼者の家へ向かうことにした。



(達成した依頼)

ーーーーーー

依頼名:幻魚イトウの採取

達成目標:幻魚イトウを生きた状態、もしくは鮮度を保ったまま納品する

達成ボーナス:相当額の報酬(時価査定)、どーみん食事券、ほか

内容:北方渓流に生息すると言われる幻魚「イトウ」を求めています。イトウは非常に警戒心が強く、また大きな個体ほど強い魔力を持つため、並の釣り人ではまず捕獲できません。近年では乱獲や環境変化の影響もあり、その姿を見ることすら稀になっています。

しかし――私はどうしても、この魚で“最高の料理”を作りたいのです。特に大型個体は脂の質、魔力の巡り、身の締まり、その全てが別格。適切に扱えば、王都の貴族すら唸らせる一皿になります。なお、鮮度が命です。納品までの時間、保存状態、解体の有無によって査定額は大きく変動します。割烹どーみん店長ドン・ドーミン

ーーーーーー



「この辺りなんだけどなぁ……。どれだろう……」


アルセリアは、この地域でも中核となる街だ。


しっかりした外壁を持ち、外からモンスターが侵入する恐れはほとんどない。

そのため、各地から多くの人が集まる場所になっている。


街は大きく、北区、中央区、南区の三つに分かれている。


北区には、比較的裕福な家庭の屋敷が並ぶ。

中央区は商業施設が集まり、人の流れが最も激しい地域。

そして南区には一般家庭と貧困層が暮らし、さらに最南部の川沿いにはバラックが立ち並び、スラム化している地区もある。


それが、この街の実態だった。


今回の依頼主は、北区の富裕層。

石造りのしっかりした家々が並ぶ中に、目的の白壁の家があった。


コンコン。


「こんにちはー。冒険者協会から来ました。ノアと申しますー」


「……」


(ん? 聞こえてないのかな)


「こんに――」


ガチャ。


勢いよく扉が開いた。


「お待たせいたしました。どうぞお入りください」


執事と思われる老齢の男性が扉を開け、僕を中へ迎え入れた。


「ノア様ですね。冒険者協会より連絡をいただいております。私、執事のモーズと申します。よろしくお願いいたします」


「あっ、ノアです。よろしくお願いします」


「セーラ様は応接室でお待ちです。こちらへどうぞ」


執事のモーズの後について、応接室へ入る。


「この度はどうぞよろしくお願いします。ノアと申します」


「セーラよ。どうぞお座りになって」


(言動は貴族っぽいけど、僕の頭の中の貴族リストには引っかからない。商人の奥様だろうか)


「それで、今回あなたにお願いしたいのが、こちらのミルクちゃん」


セーラは、手元の絵を大切そうに見せる。


「真っ白で人懐っこくて、いつもは毎日ちゃんと帰ってくるの。でも、一昨日から帰ってきていないのよ。これは絶対に何かあったに違いないわ」


(本当に迷い猫を探す依頼なんだな……)


「ミルクちゃんはね、水色の首輪をつけているわ。目は黒くて、つぶらな瞳という言葉が本当に似合う愛くるしさなの。私、どうしたらいいのか分からなくて……」


本当に猫が好きなのだと伝わってくる。


「分かりました。ちなみに、ミルクちゃんが普段どのようなところへ行くのか、思い当たる場所はありますか? 家の外でよく寄る場所や、餌をもらっている場所など、何でも構いません」


それっぽいことを聞いてみる。


「そうねぇ……正直、家の外での行動は全く知らないのよ。でも、小さな体だし、そんなに遠くへは行っていないと思うのだけれど……。北区か、せいぜい中央区のどこかかしらね」


(なるほど。これはある意味、南区へのフラグが立ったんじゃないか……)


「分かりました。では、ミルクちゃんの似顔絵のようなものはありますか? 首輪があれば分かるかもしれませんが、念のため外見をもう少し把握しておきたいので」


「モーズ! あそこのミルクちゃんの絵を持ってきてちょうだい」


「はい、ただいま」


モーズは、暖炉の上に置かれたミルクちゃんの大きな絵を持ってきた。


「ありがとう、モーズ」


「こちらでよろしいでしょうか」


僕は絵を受け取り、外見をしっかり記憶する。


「あと、ミルクちゃんが普段使っているおもちゃや、ブラッシング用のブラシなどはありますか?」


「あるにはあるけど、何に使うの?」


「ミルクちゃんを見つけるために、探索系のスキルを使おうと思いまして」


「そういうことね! でしたら、すぐに用意するわ」


「モーズ!」


「はい、ただいま」


いくつかのペット用おもちゃと、普段使っているブラシ。

さらに、予備の首輪などが運ばれてきた。


僕はさっそく、左手をかざす。


(臨床検査……)


微かな反応はあった。


だが、それがミルクちゃんの魔力なのか、道具そのものに内在する微弱な魔力なのかは判断できない。


《臨床検査》は、魔力の流れを感知するスキルだ。

ある意味、妥当な結果とも言える。

ただ、ミルクちゃんの魔力を正確に読み込めれば、それをもとに《生命反応感知》で追跡できるはずだ。


つまり、捜査犬のような使い方が理論上は可能ということ。


おもちゃが無理なら、次に思い浮かぶのは二つ。

寝床とトイレである。


「すみません。ミルクちゃんの寝床かトイレはありますか?」


「ひぃぇ」


セーラは一瞬、妙な反応を見せた。

だが、すぐに納得したような表情へ戻る。


「確かに、そこから辿ることもできるかもしれませんわね」


「モーズ、ノアさんをご案内して差し上げて」


「かしこまりました」


僕はモーズの後について歩き、ミルクちゃんの寝床へ向かった。


「ノア様、こちらがミルク様のベッドでございます」


(ミルク様って……ペットだよね?)


そう思いつつ、寝床を見る。


(なんと豪華なベッドではありませんか。チクショー……)


猫相手に、変な対抗意識が湧く。


僕はさっそく、寝床を調べた。


(臨床検査)


反応はほとんどない。


(ここで寝てないのかな……)


豪華なペット用のベッドではあるが、寝心地が良さそうかと言われると微妙だった。

良かれと思って、間違った方向にデザインされたようにも見える。


「モーズさん、すみません。ミルクちゃんのトイレの方へお願いできますか?」


「かしこまりました」


場所は変わり、屋敷の地下に設置されたペット用トイレへたどり着いた。

少しじめっとした部屋の中に、砂が敷かれたトイレが鎮座している。


(不本意ではあるが、やるしかない)


「さてと」


気合いを入れる。


そして、トイレを覗き込むと――


ころりとした物体。


《ブツ》が鎮座していた。


(不本意ではあるが……)


左手をその《ブツ》へ向け、唱える。


「臨床検査」


反応があった。

魔力と思われる流れを感じる。


だが、その流れは少し異様だった。


(おかしいな。小さな虫のような反応がある……?)


これは、もしかするとこっちかもしれない。

僕は唱え直す。


「寄生異物検査」


ギョロッ。


ミルクちゃんの糞便の中に、大きな反応があった。


「寄生虫か。なるほど」


確かに、動物――特に猫には、回虫や鉤虫、トキソプラズマなどが寄生することがある。


前世の臨床検査業界では、わりと基本的な知識だった。


「これなら追跡できる」


僕はその寄生虫の魔力の流れを記憶し、捜索対象に設定した。


ちなみに、《微生物検査》も試してみたのだが、糞便の中は微生物の宝庫だった。

あまりにも情報量が多すぎて、脳が処理を拒否した。

使ったことを、かなり後悔したことだけは添えておきたい。


そんなわけで、いよいよ本格的なミルクちゃん探しを始める。

まずは、北区全域で猫と思われる生き物の《生命反応感知》を行う。


僕は依頼者であるセーラさんと執事のモーズさんに挨拶し街へ繰り出した。


読んでいただきありがとうございます!

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次回もよろしくお願いします。

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