39 冒険者と私服
「今回も楽勝だったなぁ!」
「えっ、うそっ。手こずってなかった?」
「うんうん」
「そうだったか?ガハハハは!」
その3人が入ってきた瞬間、協会の空気が一気に明るくなった気がした。
見覚えのある顔。
レムナ村で一緒だったザックとケイト、そしてミリスだった。
なぜか僕は急に照れくさくなった。
(声をかけてもらえるだろうか……)
(いや自分から話しかけるべきか?)
(でも、覚えてなかったら気まづいし……)
頭の中で、ぐるぐると考えてしまう。
望んでいた再会のはずなのに、ここにきて妙に内向的な自分が出てきた。
そんなわけで僕は、平静を装いながらもエールを飲み、横目でチラチラと3人の様子をうかがう。
3人は、カウンターで依頼達成の報告を行っているようだった。
「おっ、今回はそこそこの成果だったな」
「だね」
「うん」
どうやら報告が終わったらしい。
報酬を受け取った3人が、そのまま酒場スペースの方へ向かって歩いてくる。
(やばいやばい)
(いや、別にやばくはないんだけど……!)
僕は何食わぬ顔で、外を見ながらエールをすすった。
(こういう時って、どんな顔してれば正解なんだ……)
そしてーー
「おっ、あの時のボウズじゃないか!」
「あっほんとだ。ノアじゃない」
「うんうん」
「あっ、ど、どうも……」
少し照れながら返事をした。
「なんか、急に真面目くんになってないか?」
「そんなことないわよね?ノア?」
「ノア、照れてる?」
「い、いえいえ。はじめての街で、はじめての冒険者協会で、お作法がわからず……」
(僕は何を言っているんだ……)
わははははは!
「そういうこともあるか!」
ザックが豪快に笑う。
「ところでノアも、冒険者になったの?」
「ん?」
3人の視線が、一斉にこちらへ向く。
「はい。一応。この通りです」
僕は冒険者カードを見せた。
「そうか!ノアも冒険者の仲間入りかー。まぁ、レムナ村では大活躍だったからなぁ」
「確かにそうよね。あの時は本当に驚いたわ。一体どんなスキルなのよって」
「うんうん。すごかった」
「いやー……」
少し照れる
「あの、皆さんは今日はどんな依頼に行かれてたんですか?」
(少しよそよそしいかな)
「今回は討伐依頼よ。
近くの森にファングウルフっていう黒い狼型のモンスターがいてね。それを狩る仕事」
ケイトが答えた。
「まぁ、楽勝だったけどな」
「ザック、ミスしてた」
「ミリス、言うなよー!カッコ悪いじゃないか!ガハハハハ!」
「まぁ、私たちこれでもCランクだから、そう簡単にはやられないわよ」
「Cランクってすごいですね。どうしたらなれるんですか?」
(僕はまだFランクだ)
「そんなもん、倒して倒して倒しまくるしかないだろ!ガハハハハ!」
「ザックの言うことは、あながち間違いじゃないわね」
ケイトが苦笑する。
「とりあえず、依頼をたくさんこなして、経験値を稼ぐこと。
依頼のランクに応じて経験値も違うから、危険な依頼ほど成長は早いって感じね」
「でも危ない」
ミリスがぼそっ付け加える。
「そうですよね。ちなみに、一つの依頼でもらえる経験値は固定なんですか?
例えば、一頭討伐の依頼でも、二頭狩ったら経験値って二倍になるのかな?と思い」
「そうね。狩っただけ経験値が入るわよ。
なので、1つのクエストでも、獲物の量が増えればそれだけ経験値は増えるってことね」
(なるほど……)
(だとすれば、僕の場合は採取系依頼なら、経験値も……)
「なんだノア?なんかニヤついてないか?」
ザックが怪しそうに見る。
「いえいえ、ちょっと思いついただけです。悪いことは考えてませんよ」
「ノア、悪い顔してるー」
(ミリスまで……)
その後もしばらく雑談は続き、そのままエール片手の感想戦へと突入した。
◇
(小一時間くらい経っただろうか)
僕は、3人にご飯のお誘いをすることにした。
「あっ、あの……皆さん、今日の夕食の予定とかってあります?」
「ん?ノアが誘ってくれるとか、何か裏があるのか?」
「もちろんいいわよ。一緒にご飯行く?」
「僕も大丈夫」
「ザックは?」
「あっ、悪い……。今日はちょうど予定があってな。また、今度誘ってくれ。すまん!」
「そっか、今日はそういう日だったわね」
「……」
(なんだろう。ザック、何かあるのかな……)
少し気になったが、深掘りはしなかった。
「じゃあ、ケイトとミリスは大丈夫なんだね。良かった」
「良かった?なんか大事な話だったの?」
「???」
二人頭の上に、はてなマークが浮かんでいる気がした。
「いや、つい流れで食事のフルコースを予約してしまって。さすがに僕一人じゃ食べきれないと思って……」
「何が起きてるのよ笑。ノアもよく分からないわね」
ケイトの鋭いツッコミが飛ぶ。
「じゃあ、そろそろ時間だし、俺は先に行くな!」
「うん、また明日ね!」
「またねー」
ザックは片手を上げ、そのまま協会を出ていった。
毎回、依頼達成後は酒場で大騒ぎするタイプかと思っていたが、意外とそうでもないらしい。
(あとで、ケイトとミリスにも聞いてみよう)
「じゃあ、お二人様。ご一緒お願いします」
「なんかノア、性格変わってない?」
「うん、なんか違う」
ハハハハハ……
クスクスクス……
(良かった……これでフルコースも無駄にならずに済む)
◇
「お待たせー」
「お待たせ」
僕たちは、「割烹どーみん」の前で合流した。
それぞれが一度宿へ戻り、荷物を置いたり、軽く着替えたりしてきたらしい。
(冒険者って、ずっとあの格好でいるわけじゃないんだな・・・)
自分の勝手な偏見に、心の中で少し反省する。
そして、改めて二人をみる。
(……全然、雰囲気違うな)
ケイトは、いつもの革鎧ではなく、薄手の白いシャツにベージュの細身のパンツという格好だった。
袖は軽くまくられていて、腰には細い革ベルト。
動きやすさを残しつつも、妙に洗練されている。
長い赤髪も今日は後ろでゆるく結ばれていて、冒険者というより、街を歩く旅慣れた商人の娘のようだった。
一方のミリスは、水色のワンピース姿だった。
柔らかな生地が夜風でふわりと揺れ、銀色の髪がよく映えている。
普段はローブ姿で隠れている華奢な体格も分かりやすく、年相応の少女らしさが強かった。
肩には小さな白いショール。どこかお嬢様っぽい雰囲気すらある。
(……これ、普通に可愛いな)
しかも二人とも、普段の冒険者装備より距離感が近い。
(よく考えたら、これってデートでは?)
そんな考えが頭をよぎる。だが、すぐに振り払う。
(いやいや、落ち着け僕)
そう思いながらも、少しだけ優越感に浸っている自分がいた。
「何ぼーっとしてるの?」
「え? あっ、いや、なんでもない!」
ケイトが呆れたように笑い、ミリスも小さくくすっと笑う。
僕たちは、そのまま店の中へ入っていった。
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