気になる彼女の〇〇
気になる彼女の〇〇
いつもの通勤、いつもと同じ車両、同じ座席。
入社式に向かう電車の中で、一目惚れをしてしまった彼女が乗る電車。
毎日、毎日、仕事は大変だし人間関係も面倒くさい。
けど朝一の、この二十五分ほどの通勤時間だけは幸せになれる。
朝日に照らされ艶々きらめく黒髪、薄く施された化粧、ぷっくりとした小さなピンクの唇。そして隣に座る事ができたなら、ふわりと爽やかな花の香りがする。
どうして話かけたりしないのかだって? そんな勇気、僕にあるわけないじゃないか。
今日も彼女に会いたくて電車に乗る。
けど今日の電車はいつもと違っていた。普段より人が多く、まさに満員電車。
両手で吊革をつかみ、ため息をついた、その時。
僕に幸運が訪れた。
人混みに押され彼女が僕に密着してきたのだ。
「おはようございます。いつも同じ電車ですね」
「おはよう。そうですね」
しかも彼女の方から話しかけてくれた。嬉しさよりも緊張で気の利いた言葉が出ない。身体は熱く額や脇に汗が滲んで脈が早打ち呼吸も出来てるかもあやしい。
「こんな田舎で満員になるなんて珍しいですよね。もしかして何か催しでもあるのかな?」
「びっくりですよね。あっ! アレじゃないですか?」
スーパーセール実施中と書かれた吊り広告を僕が指さすと、彼女が上を向いた。
「きっとそうね。私も会社帰りに寄ってみようかな!」
彼女の声に楽しそうな響きが混じる。
けど僕には、それよりも気になってしまう事ができた。
それは……。
上を向いた彼女の鼻からのぞく、キラリと光る鼻毛。彼女は鼻毛すら美しい。
息を吸うたび、ふわふわ。
息を吐くたび、ゆらゆら揺れる鼻毛。
気になる彼女の鼻毛。
彼女に視線が釘付け。
目が合った。
彼女は僕に微笑む。
「私この駅なの。って知ってますよね。じゃあ。また明日」
微笑み手を振る彼女は可愛い。けど鼻毛から目が離せない。
「あぁ。また明日」
嬉しくて手を振りかえす。
彼女は鼻毛を揺らしたまま、いつもの駅で降りていってしまった。
明日も会えるかな。




