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第一話

 俺が住んでいるのはメゾン・クレプスクルム。


 東京都目黒区にある某駅から徒歩三分の距離にある、築五年の九階建てマンションだ。


 徒歩圏にコンビニ、病院、飲食店、大型商業施設と揃っているとても便利な立地である。


 専有面積は40m2の1LDKで賃料は月100円。

 しかも光熱費と水道代は無料、インターネット代も無料である。


 勘のいい人はすでにピンと来たと思うが、もちろん「曰くつき」だ。


 部屋の中でぼんやりスマホをながめていると、コンコンと窓が叩かれる。


「ねーねー、いっしょに遊ぼう?」


 窓ガラスの向こうには12歳くらいの可愛らしい女の子が、ニコニコとしてこっちを見ながら誘ってきた。


 赤い着物に黒いおかっぱ頭。

 日本人形のような古風な印象を与える少女である。


 「ここは四階で、その窓にベランダはない」というツッコミは初日に、心の中でだけ済ませた。

 

「いいよ」


 俺が答えると、女の子はニコニコしながら窓ガラスを開けて入って来る。

 「鍵がかかっているだろ」とツッコミもやっぱり初日に済ませた。


 妙なところで律儀な女の子なのである。


「ねーねー、しりとりしよ?」


 女の子はちょこんとベッドの上に座りながら提案してきた。


「君、しりとり強すぎるだろ。俺にも勝ち目がある遊びにしてくれないか?」


「んー、いいよ。何するの?」


 女の子は一瞬だけ考えてからうなずいてくれる。


「リバーシはどうだろう?」


 俺は言いながらスマホの画面を、リバーシに変えて見せてみる。


「いいよ」


 女の子は承知してくれたのでいっしょにやってみた。


「……きみ、リバーシも強いんだな」


 ぼろ負けした俺は呆然とつぶやく。


「あはははは。お兄さん、よわーい」


 ケラケラと笑われるが腹は立たない。

 明らかに人智を超えている怪異相手に、人智を適用してもむなしいだけだろう。

 

 三回ほどぼろ負けしたら女の子はお腹を抱えて笑い、


「あー。楽しかった。またね」


 と言って立ち上がる。

 どうやら満足してくれたらしい。


 可愛らしく手を振って窓から帰って行った。

 律儀な子らしく、ちゃんと外から鍵をかけて。


 「そこに道はない」とか、「窓は外から鍵かけられる構造じゃない」とか、ツッコミを入れるのはもうあきらめた。


 女の子が帰ってくれてホッとして天井を見た。

 叫び声をあげているような表情の女性の顔が浮かんでいるが無視する。


 ただ、顔が浮かんでいるだけだから可愛いものだ。


 このマンションの守るべきルールのひとつ。

 ──赤い着物を着た少女の誘いを拒否してはいけない。


 

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― 新着の感想 ―
少女が可愛いです。恐怖と慣れが交錯する描写がとても良いです。
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