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第二節:焼け跡にて
「中にいる! 医療班は?!」
「まだ街の反対側、回せる人員がいない!」
「なら俺がやる!」
サフィが倒れかけたドアを押し開け、煙の中へ飛び込む。
蓮禍も続いた。
中には、二人の少女がいた。おそらく姉妹。年の離れた姉が、幼い妹を庇うように覆いかぶさっている。
脈は――かすかにある。
「助かるか?」
「たぶん、妹のほうは」
サフィの声に、私は少しだけ息を吸った。
「……背負える?」
「はあ? 俺が? もちろん! ほら、行こうぜ」
サフィは少女を抱きかかえ、炎の中を駆け出す。
その背を見送りながら、蓮禍は立ち尽くした。
足元に、もう一人の遺体。焼けただれた姉の身体が、少女を守るように崩れている。
蓮禍は静かに膝をついた。
その時、心の奥に、奇妙な“重さ”があった。
それはデータではなかった。戦術でも、戦果でも、命令でもなかった。
――もし、感情が欠陥だとするなら。
今のこれは、欠陥なのか。
燃え落ちる天井の下で、蓮禍は初めてわずかに息を詰めた。