第三章:領土侵略 第一節:焦土の街
足元の瓦礫を踏みしめるたびに、かつて「家族」という単位が暮らしていたであろう部屋の残骸が崩れる。
薄暗い夕空には灰色の煙が棚引いていた。
街はすでに戦場ではなかった――**戦場が通り過ぎた後の、“屍”**だった。
「……ここが、ライン=エル区画。帝国軍の第七機甲部隊によって制圧された直後だ」
背後から歩み寄ってきたのは、サフィ・エルレイン。
彼の声もいつもの軽さを失っていた。周囲の空気が、そうさせるのだ。
私は、焼け爛れた車の影に倒れている子供の遺体を見下ろす。
焼けて炭になったはずの顔には、何の表情も浮かんでいなかった。
「子供か」
「だな。しかもこれは……非戦闘民。服から見ても、武器の痕跡もない」
「……」
風が吹く。灰が舞う。
サフィは咳払いしながら、口を開いた。
「中央は、“ここを拠点に再防衛線を築く”つもりらしいよ。無理だと思うけどな。これ、ほとんど焦土じゃん」
「それでも、“領土”だということだ」
ヴェルガが言った。
私は通信装置を手に取る。
「破澄蓮禍、ライン=エル区域に到達。敵影なし。ただし市街の壊滅は確認。民間人、全滅……と思われる」
『了解、蓮禍。回収ドローンを回すから、生体反応があればすぐ送信してください。』
通信の先から聞こえるのは、中央の観測官――しかしその声に温度はなかった。
「まるで、死者の数をデータ処理しているだけのようだな」
サフィが吐き捨てるように言うと、蓮禍は静かに返す。
「それが、彼らの任務だ」
「……あんたもそう思ってんの?」
一瞬、沈黙が落ちる。
私は答えられなかった。
視線を背けたかったから建物に目を向けた。鎮火した直後の崩れかけた公民館。その扉の奥に、微弱な生体反応が映っている。
「……生存者だ」
そう言って、私は走り出す。