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第2章:前線の崩壊 第一節:撤退

塹壕に雪が積もり始めていた。

息を吐けば白く霧散する。

改造兵が足りてない場所では、毎時のように前線が崩壊していく。

そしてついに、私たちも押されてきてしまっていた。


ヴェルガが突然声を上げた。


「…こちら側、三十二番防衛線は事実上の突破と認定。命令は後退だ」


重く、沈むような声だった。


「後退…じゃなくて“撤退”だな、こりゃ」


「違いがあるの?」


蓮禍の問いにサフィは軽く肩をすくめる。


「言葉の問題。後退は“整ってる”、撤退は“崩れてる”。いまは後者だよ、崩れてる」


その夜、部隊は谷間へと移動を始めた。


月明かりも届かない夜道を、雪を踏みしめながら進む。

蓮禍は先頭に立ち、視界を鋭く走査していた。


突然、後方から爆音が響いた。

一瞬で振り返る。――閃光、炸裂、火柱。

撤退路の後尾が、敵の砲撃を受けたのだ。


「敵、谷口から来てる!距離150、砲兵付き!」


サフィの声が上がる。


蓮禍は咄嗟に判断を下す。


「全員、左の断崖側へ!陽動部隊を作って敵の注意を引く!」


「おい蓮禍、無茶だって!」


「ここで被害を最小限にするには、捨て駒が必要だ。私が囮になる」


「お前が“捨て駒”やってどーすんだよ!」


「ver.7.2の性能は、夜間、接近戦で最も活きる。合理的な配置だと思う」


叫び終わる前に、蓮禍は影のように闇へと飛び出していった。

ナイフを抜き、木々の間を駆ける。砲撃音が近づく。

爆風が頬をかすめ、髪が焼ける。

だが構わない。構造も思考も、痛みに影響されないようにできている。


敵兵の一人が、振り返った。

その首筋にナイフが吸い込まれる。

滑らかに、無音に、命が終わる。


その夜、蓮禍の陽動により撤退部隊の大半は谷を越えた。

だが同時に、前線は崩壊した。

これからは敵の領土での戦いではなく、自国の領土での戦いとなる。

自分たちの少しの後退が、民間人に大きな損害を与える可能性があるのだ。

そして、敵の圧倒的な物量を前にしては、国が崩れるのも時間の問題だと私は理解していた。

それでも、国を守るために命を散らす覚悟で戦わなければならない。

ついに戦いの舞台は、領土内となった。

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