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消失点のその先に  作者: 白雪 凛


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EP 1-3 日陰編

「対面以外で将棋指したことないんですか」

「あっ、はい」

「ちょっと待ってください。取り敢えずなんでも良いからWebかアプリでやってみてください」

陽は携帯をしばらくいじると、おすすめのアプリを教えてくれた。

「これ画面もっと大きくならないの」

「ちょっとわがまま言わないでください。取り敢えず何回かやってみてください」

「はーい」

仕方なく携帯で対局するが、相手の表情も息も手の動きも何も見えないので、なんだかあまりやる気が起きない。1勝次もまた勝利を掴んだものの全く嬉しさを感じない。

「ねぇもういい?それよりせっかく陽きてるなら対局したいんだけど」

残り10分程しかないので、中途半端に終わってしまう可能性があるが、目の前に人がいるのにどうしてこんな小さな機械と戦わねばならないのか。

「ちょっと何文句言ってるんですか」

「でもほらもう4勝したし」

携帯の画面を見せる。

「あっ文句言いながらちゃんとやってますね。仕方ない」

そう言うと陽は作業をやめ、コマを並べ始めた。


「ねぇなんで?」

並べられた駒は不規則に並べられていた。

「さて時間ないので持ち時間30秒ずつでいきますよ」

圧倒的な劣勢の状態から始まったそれは、もう少し勝利が掴めそうだと希望を持ったところでタイムアウトとなった。

「どうでした。いつもと違うのも悪くないでしょ」

「いや。普通に将棋が指したい」

「まぁまぁこれも研究の一環なので、貴重なデータをありがとうございます」

そう言って帰って行った。次は来週だ。

「研究って」

俺がアプリで対戦していた間も何かをノートにメモしていた。真剣そうな横顔を見ていたのでなかなか声をかけられなかった。


「何かいいことあったか」

土曜日の午前中、祖父の将棋教室に来ていた木村さんと対局中に急に話題を振られた。

「今対局中ですよ」

普段から会話の多い人ではあるが、他の生徒がいるのに個人的な話をするのはどこか抵抗があった。

「大丈夫だって、ほらあっちだって騒がしいし」

小学生の子供達が急に喧嘩を始めていた。

まぁ少しなら大丈夫か。

「別にいいことなんてないですよ。ただ勝つために腕を磨いているんです」

「そうか。そりゃよかった」

なぜか嬉しそうに笑う木村さん。

「どうしたんですか笑って」

「いや、こりゃ眠れるヒーロー様が復活するのも時間の問題かもなって」

確かに一時から対局することが怖くて避けていた時期がある。でもこの人はずっと俺に向き合ってくれていた。

「ありがとう。必ず復活する」

「あぁたまには師匠のところにも行ってやれよ」

それについては答えなかった。最後に師匠と会ったのは半年以上前だし、ものすごく怒りをぶつけてしまったので顔を合わせずらい。

「それじゃあ勝ちはもらうな」

「はっ?待って待っていつから」

くそ。師匠のことを考えてしまったのが敗因だろうか。今回こそは勝てるかと思ったのに。

「あっ待って感想戦」

挨拶を終えた木村さんは、祖父に声をかけると外に出てしまった。

「あーどこが悪かったのか聞きたかったのにー」

盤面を見つめていると祖父が近寄ってきた。

「木村さん、用事があったみたいで月曜日に顔出すって」

木村さんは本当はすごい人だって知っている。祖父と昔からの知り合いだからこんな小さな将棋教室に顔を出していると言うことも。

「ありがとじいちゃん。それまで今回の対局のこと覚えていられるだろうか」

取り敢えずノートに最後の盤面を記載すると、覚えている限りのことをメモとして記載した。


翌週の火曜日に木村先生とのことを陽に伝えた。

「へぇ〜それで月曜日に無事感想戦してもらえたんですね。良かったじゃないですか」

「いや、全然良くない」

「なんで」

土曜日の午前中のモヤモヤが月曜日まで消えず、その間の対局全部が酷い結果になったからとは言いたくなかった。

「結局自分で数手前から振り返って、いい対策を思いついちゃったし、それに」

「それに?」

なかなか次の言葉を発しなかったからか、陽に突っ込まれた。

「じいちゃんにめちゃくちゃ怒られた」

陽は意外な答えだったのか声を出して笑った。

「ヒロさんは引きずりすぎなんですよ。1局1局集中しないと。むしろその集中力で今までどうやって勝ち残ってきたんですか」

「まぁ短い対局ばかりしてきたし、そんなに迷いなく指せてたから」

「プロってもっと長いですよね」

みんなが目指す名人戦であれば、持ち時間は9時間、王座戦なども5時間ある。

「そうだね」


「それじゃあこれ新しいミッションです」

そう言って陽は数枚の紙を手渡してきた。

パラパラめくる。1日のスケジュールみたいなページもあれば、ノルマが記載されたページもあった。

念の為これが何かを確認する。

「何って、見ての通りヒロさんを変えるための今後のスケジュールですけど」

「えっだって、ランニングとか瞑想とかあと睡眠時間とか記載あるけど」

「はい、スケジュール通りこなしてみてください。最初なのでランニング難しかったらウォーキングでもいいですよ。ただ将棋を指すだけじゃなくてメンタルトレーニングもやらないと」

にこやかに言い放つ彼。

「あれ、もしかして俺まずい人に依頼した?」

「何言ってるんですか。俺以上にあなたを変えられる人なんてそうそういませんよ」

ここから、地獄のような習慣改善、体力向上そして睡眠の改善計画の序章が始まった。


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