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消失点のその先に  作者: 白雪 凛


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EP 1-6 黒岩編

体育祭の総合結果としては全学年で2位という快挙だった。1位は元運動部もしくは現役の運動部主将が多い、3年B組が堂々の勝利を獲得した。

「打ち上げやるぞー」

その日はクラスのメンバーで打ち上げをした。獅童と体育祭の委員会のメンバーがお菓子やアイス、大量の飲み物を持って現れた。

「お疲れ」

僕がクラスの端っこで盛り上がっているクラスメイトを眺めていると、一ノ瀬が横に座った。

「一ノ瀬くん、今日は本当にありがとう。一ノ瀬くんって本当にすごいね」

「そんなことはないよ。俺もできないことは多いしね」

「いやいや、勉強もできるのにスポーツもできてほんと凄いよ……」

僕なんてスポーツも勉強も中途半端だ。

「何かスポーツやってたの」

「うーんまぁ小さい頃に色々試したけど、結局どれかを極めたりはしてないかな。スポーツ選手になりたいわけじゃないし」

「そんなに才能あるのに」

「ははっ。才能なんてないよ。じゃあ俺もう抜けるから」

「えっ」

一ノ瀬はクラスメイトが盛り上がっている中、静かに姿を消した。


「く・ろ・い・わー」

野枝が元気に近寄ってきた。

「ど、どうしたの」

「お疲れー。あっ一ノ瀬帰っちゃったんだねー」

「そ、そうみたい。一ノ瀬くんってあんなにマイペースなの」

「んーどうだろ。遊びに誘っても来ないみたいだよー」

「みたいだよってことは野枝くんもそんなに知らないの」

「まぁ一ノ瀬も黒岩も外部組だしなー」

「ん?ここって中高一貫なんだっけ?」

「ははっ。そうだよー。ほとんど知り合い」

なるほど。どうりでみんな仲良くなるの早いと思ったんだよ。

「あれでもそれなら、入学式の挨拶を外部から来た一ノ瀬くんがやっているのって相当すごいの」

「あーどうなんだろう。そうかも。でもこうして体育祭で2人と距離が縮まってよかったよ」

「ありがとう。僕も上手く馴染めてなかったから」

「あっそうだそうだ。ハカセー」

野枝がクラスメイトを呼んだ。



「黒岩こっちが福井。通称博士。化学で聞きたいことあるなら彼に聞くといいよ」

「なに」

「あっごめん。博士ちょっとコミュ障なんだよー。悪気ないからさ」

「それで、なに?」

「なにって。あっ質問していいってこと」

「そうだよ早くして」

「えーっと家に帰ってからチャットしていいかな。教科書今日持ってないんだけど」

体育祭は丸一日授業がない。教科書を持ってくる人なんて稀だろう。

「タブレットに入ってないの?」

「あっそうか」

タブレットを手に取ると、教科書のページを開く。

「ここだ」

「あぁそこね。それでどこが疑問なの。あと化学に興味持ったら、化学研究部遊びに来てよ」

博士は口は悪いが悪い人ではなさそうだ。



体育祭が終わると、学期末の試験がすぐにやってくる。

クラスの雰囲気もなんとなくピリピリし始めた気がした。いや気がしたというのはもしかしたら僕の勝手な想像かもしれない。

通常と変わらないメンバーも多い。そのメンバーは体育祭以降から仲良くしている野枝や桐生、博士もだろうか。彼らはあんまり変わらない気がする。

「試験って言ってもなー。学校の試験の順位はそこまで関係ないしなー」

「でも野枝くんも目指してる大学とか、将来やりたいことあるんだよね」

「ん?まぁそうだな。でも俺来年留学しちゃうし」

「えっ留学するの?でもそれなら試験よくないとダメなんじゃ」

「んーそうだねー。でも試験のために勉強するわけじゃないだろー」

野枝もそっちのタイプだったか。どうもみんな勉強に対するハードルが低いというか、目標が高いというか。

「野枝はどうして……。何から影響を受けたの」

「そうだな。俺は妹が事故で両足を失ってさ。それで義足を知って……。妹みたいに苦しんでいる人のためになりたいと思ったってところかな」

聞いてよかったのだろうか。そして野枝のことを少し勘違いしていたかもしれない。

「えーっと悪かった。ありがとう教えてくれて」

「なにに謝ってるんだ?聞かなければわからないこともあるだろ」

「…うんありがとう」

僕にも見つかるだろうか、野枝のような揺るぎのないその目標。いや同年代でも目標を持っている人なんてたくさんいる。僕が向き合ってこなかったのが原因だ。

「よしっ頑張るぞ」

僕はとりあえず間近に迫った、学期末試験のことだけを考えよう。



学期末試験は範囲が広い上に教科が多い。

どれにどれほどの時間を割くべきか、どのくらいの勉強を費やせば良いのだろうか。

物理や数学は割とできる方だ。化学も博士に聞いているのでなんとかなるだろう。しかし英語と古文・漢文などの言語系に少し苦手意識がある。

言葉なのにどうして、なんてことは一旦おいておこう。タブレットをうまく活用しながらやれるだけの事はやろう。



学期末の試験は、350人中70位という結果に終わった。

あれだけやってこれか。自分の中ではだいぶ向き合ったつもりだったが、やはり言語系がそこまで伸びなかったようだ。

そして本日は久しぶりの図書委員の担当日である。

僕は一ノ瀬なら何か教えてくれるのではと思い期待しながら放課後を待った。

「一ノ瀬くん試験結果さすがだね」

一ノ瀬は不思議そうな顔をした。

「試験の結果見てないの」

コクリと頷く彼を見て笑った。一ノ瀬も野枝も順位なんて興味ないんだな。

「すごいね。一ノ瀬くんって苦手な教科とかないの」

「苦手?うーんなんだろう。分析できないものかな」

「分析?」

「そう。概念的なものというか」

「概念ね。それじゃあ人と関わるの苦手なの」

「どうなんだろう。でも人って他人ってよくわからないよね」

一ノ瀬の苦手なことを知れて少し嬉しく思った。これは嫌味ではなく人間味を感じたという意味でだ。



「最近はどんな本を読んでるの」

一ノ瀬は鞄から1冊本を取り出した。

「最高の睡眠?」

「そう。やっぱり睡眠って大切だからね。寝る前に携帯をいじらないっていうのはもちろんだけど、それ以外にも意外と知らない知識ってあるんだよね。ほとんどの人間にとって睡眠って重要なことなのにどうしてだろうね」

「そうなんだ。あっだから体育祭の時間の時間休息していたの」

「…まぁ、相手の動きとか癖とかを分析しているうちに脳が疲弊するからね。忘れることも大事なんだよ」

「忘れるか…。そんなこと考えたことなかったからなんか意外」

「そうだろうね。普段意識していないことを意識すると世界の見方が変わるんだ」

一ノ瀬は本の表紙を優しくなぞった。その表情がとても優しくて一ノ瀬みたいになりたいなと思った。

「それなら僕ももっと色んな本を読んだらやりたいこと見つかるかな」

「きっと…。でも百聞は一見にしかずっていうから、本だけじゃなくて実際に見たり体験した方がより身近になるからおすすめ」

だから一ノ瀬は色んな部活に顔を出していたのかと納得した。

「ありがとう」

感謝を伝えると少し照れたように笑った。

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