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消失点のその先に  作者: 白雪 凛


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EP 1-5 黒岩編

僕は授業について行くのが精一杯だ。

というか、授業の進みってこんなに早いものなのだろうか。中学はほとんど通わなかったので、授業のスピード感がよくわからないが、復習する時間がない。

タブレットの機能で苦手な部分を優先的に復習できるのはありがたいが、その苦手な部分が解説を見てもよくわからない。こういう時友達とか先生に聞けば教えてくれるのだろうか。

「おーい」

野枝が手を挙げてこちらへ来た。

「野枝って化学詳しい」

「へっ急に何の話。黒岩勉強したいの」

「あっごめんどうしてもわからないところあってさ」

「そうなんだ。化学ねー。オレは範囲によるかなー。何か聞きたいことがあるなら”博士”に聞くといいよ。それより」

博士って誰だと聞こうと思ったが、野枝が体育祭の話に戻した。一ノ瀬と第2候補者にはすでに声をかけて、第2候補者は出番が終わったため大丈夫とのことだった。一ノ瀬はやはり試合の進行次第らしい。

「それで順番だけどどうしようか。トップバッターは俺のままでいいとして、一ノ瀬どこ走ってもらう?」

「おれもそのままでいい」

2番手の桐生が答えた。

「どうしようか。黒岩が3番目かもしくはアンカーか」

「僕はどっちでもいいよ。本人の走りたい方を走ってもらおう」

「オッケーじゃあそういうことで。昼飯は程々にしておけよ」

リレーが行われるのはお昼後すぐだ。

一ノ瀬の試合を見たら軽く何かお腹に入れておいてもいいかもな。



一ノ瀬のバドミントン第2回戦は接戦にもつれ込んだ。相手選手がどうやら中学校でバドミントンをやっていたようで、一ノ瀬は前後左右に走らされている。

しかし一ノ瀬は相手選手のそんな作戦なんて最初からお見通しだったのか、次第に点数を近づけていった。

理由はよくわからないが、優勢だった相手選手は気づいたら全然攻めれていないようだ。スマッシュを打つ本数が減った。

周りからは真面目にやれよと野次が相手選手に飛ぶが、一ノ瀬が得点を追い上げるほどに相手はミスを連発した。

結局は一ノ瀬が先に2ゲームを取り勝利に終わった。

汗を拭う一ノ瀬にクラスメイトが歓喜の声を上げる。しかし一ノ瀬は喜ぶでもなくどこかへふらっと消えた。

奥のコートでも歓声が上がった。一ノ瀬の次の対戦相手が決まったようだ。



「うわぁマジか」

一ノ瀬の対戦相手は、現役のバドミントン主将のようだ。

僕は一ノ瀬にどうやって相手を追い込んだのかを聞きたくて辺りを探した。しばらく探していると体育館と体育館の間の通路の物陰の奥で、横になり顔にタオルを乗せて休んでいる姿を見つけた。

僕は声をかけていいのか悩んだが、遠くから一ノ瀬を呼ぶクラスメイトの声が聞こえたので近づくことにした。

「一ノ瀬くん大丈夫」

一ノ瀬は動かなかった。さすがの一ノ瀬でも相当体力を消耗しているようだ。さすがに声をかけるのを躊躇ってしまう。

しばらくすると一ノ瀬はゆっくりと上体を起こし時間を尋ねてきた。

「10時40分」

時計を見てそう答えると、一ノ瀬は先ほどまでの疲労を感じさせないくらい軽やかに影から日向へと向かって歩いていった。



3試合目はあっさりと勝敗がついた。

「さすがにバドミントンの主将は強かったなー。一ノ瀬午後よろしくなー」

野枝が一ノ瀬に声をかける。

あまり気にしないで声をかけられるの凄いな。

「あぁよろしくね。それで俺は何番目に走るの」

「あっそうだ決めないといけないんだった。3番目とアンカーどっちがいい」

一ノ瀬は少し考え込んでいた。

「そうだね。順番教えてくれる」

野枝がリレーの順番を教えると、一ノ瀬は「じゃあ俺がアンカーで」と言った。

「おけっ!それじゃあ後でよろしくー。あっ一ノ瀬も昼食べ過ぎるなよ」

一ノ瀬は頷くとどこかへと消えた。


他の競技ではまだクラスメイトが勝ち残っているらしい。しかし軽く何かを口に入れておきたかったので、一度クラスに戻ることにした。人気のない教室で賑やかな校庭を眺めながら、おにぎりを口へと運んだ。

お昼の時間になると、各々好きな場所でご飯を取っていた。僕はクラスから抜け出すと、外履きの靴に履き替え、木陰でストレッチをする。

さすがにフットサルとかで体動かしていた方が、動きやすかったかもな。なんて軽く後悔をする。

校庭の隅で軽く走り込みをし身体を動かす。



時間が近づくとそわそわしてじっとしていられない。

他のクラスの生徒たちが集まり始めた。緊張で手汗がすごい。

「そんな気負うなってー」

緊張していなさそうな野枝が軽く伸びをしていた。桐生も横で頷いていた。この人たちはなぜこんなにも緊張せずにいられるのだろうか。

周囲を見渡すと早く走り出したくてたまらない人と、僕のように緊張しているらしい人に分かれていた。

「どうして野枝と桐生はそんなに落ち着いていられるんだ」

野枝は首を捻った。

「どうしてって…。別に自分の人生がかかってるわけでもないしなー」

「オレは陸上やってたから、こういう雰囲気慣れてる。ベストを尽くすだけだな」

各々違う答えだったが、きっとこういうプレッシャーがかかることに慣れているのだろう。

「そっか。凄いな」

「ってか、顔色悪くない大丈夫。そんなに気負わなくたっていいのにー。勝ち負けより楽しんだもん勝ちだって」

野枝に背中を叩かれる。

「あれそういえば一ノ瀬は」

まだ見かけていないが、そろそろ始まる時間だ。時間を間違えたりはしないと思うけど。

「まぁ大丈夫だろー」


リレーの第一走者が位置につき始める時間になってやっと一ノ瀬は姿を現した。

「一ノ瀬そっちー」

野枝が待機場所を指差しながら叫ぶ。一ノ瀬は周囲を確認して自分の向かうべき位置を把握するとそちらに歩いて行った。

大丈夫なのか。不安になるも自分も間も無く出番である。

第一走者がそれぞれスタートラインに並ぶ。

「よーい」

”パーン”という合図で一斉に走者が走り出した。

野枝は真ん中あたりにいるな。それにしてもどこかのクラス圧倒的に早くないか。

野枝は4番手で桐生にバトンを渡した。

俺は緊張しながら桐生を見る。スタッフの生徒に促され、バトンを受け取るため列に並ぶ。

直線ラインに入る桐生は…。なんと2番目だ。あれから2人追い上げたのか。

「よろしく」

桐生からバトンを渡された。僕はそれを受け取ると全力で走った。前の人が徐々に近づいて行く。残り30Mなんとか並ぶことに成功する。

よしこれで一ノ瀬に繋がれば1位になれるかもしれない。そんな期待を抱きながら一ノ瀬の目を見てバトンを渡す。

「お願い」

しかし離したバトンは一ノ瀬の手から”カラン”と音を立てて落ちる。

僕は無我夢中でバトンを拾うと、もう一度一ノ瀬に手渡した。

「ごめん」

すでに1位の人と差がついた。3位・4位のクラスがちょうど横を通り抜けた。

僕は自分の失態にどうすることもできなかった。

「おぉぉぉすげぇ」

歓声が辺りを包む。僕は目を逸らしたかったが、なんとか顔を上げて一ノ瀬を探す。

あれ。なんで。残り50M一ノ瀬は抜かされていた2クラスを追い上げ2位に浮上していた。しかしそれだけではなくすでに1位にだいぶ迫っていた。

「いっけぇぇぇ」

僕は自分からでた大きな声に驚いた。ほぼ同着となったゴール。

さてどちらが勝ったのか。周囲が固唾を飲んで結果を待つ。

「判定の結果、優勝は……」

僕は膝から崩れ落ちた。

野枝と桐生そして一ノ瀬が駆け寄ってきた。

「ほらいつまで下向いてんだー勝ったんだぞ」

「でも…」

「黒岩ありがとう。バトンをすぐ拾ってくれて。俺すぐに反応できなかったから助かった」

そう言って一ノ瀬が手を差し出してきた。

「そうそう。めちゃくちゃ反応速度早かった。凄かったな」

野枝が立ち上がった僕の背中をまた叩いた。

「お疲れぇぇぇ」

急に肩に手を置かれ驚く。怪我でリレーから降りた獅童だ。

「凄かったなぁ。みんな。そして一ノ瀬ありがとう」


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