EP 1-4 黒岩編
「えーっとなになに、やりたい事の優先をまず決める…」
一ノ瀬がどうやってタイムマネジメントをしているのかを知るために、時間の作り方に関する本を読んでいるところだ。
そもそも男子高校生なんて、SNSやゲームとか遊びに時間使うものなんじゃないのか。
優先順位よりも目の前の楽しいこと……。この考え自体が間違っているのか。一ノ瀬にとっては学びが楽しいことで、他の生徒もロボットを作ったり、アプリを開発したりそれが楽しいという事なのか。
僕はそれが見つかっていないだけ。じゃあそのやりたいことをどう見つけるか。
先ほど書いたのは英語、科学、漢文など全部目の前の、授業の復習についてだ。
さて、これより先のことを考えるには何をしたらいいんだろうか。一ノ瀬ならその答えを知っているのだろうか。
6月になると、体育祭が開催される。
運動苦手な僕としては、早めに負けて早めに陰で時間を潰したいところだ。
「それじゃあ体育祭の参加種目を決めたいと思います。原則1人1回はマストです」
体育祭の担当の獅童が、タブレットに何かを打ち込んでいる。
「事前に体力測定の結果と過去の運動部歴、そして現在の所属の部活などについて、任意で回答してもらった。そしてそこからバランスの取れた競技の割り振りを作ってみた」
クラス全員が参加しているチャットをみると参加種目とその脇に名前が記載されていた。
「しかーし、みんな出たい競技や出たくない競技があると思う。勝手に作ったのだから異論は認める。今から5分やる。競技変えたいやつは挙手もしくはチャットで何か送ってくれ、それを元に再編成する」
僕は自分の割り振られた競技を確認する。フットサルに割り振られたようだ。さて、どうしたものか。走ること自体は苦手ではないが、ボールを蹴りながら走るのは小学時の授業ぶりだ。役に立たないのでは、しかし他の競技を見てみるも、バスケ、バレーボール、バドミントンとどれも得意ではない。
1つだけできそうな競技を見つける。
「そろそろ、変更タイム終了にするぞー」
僕は滑り込みで変更希望と入力した。
種目の変更が終わると放課後に練習が始まった。
僕は変更を希望した種目に変わっていた。
リレーである。いかにも運動部ですという見た目の3人に挟まれ後悔する。
「それじゃ、まずそれぞれのタイムを測る。2人ずつ走るぞ」
そう言われ、レーンに立つ。隣にはストレッチをして準備万端そうな人物がいる。
「それじゃあ用意はいいかー」
僕ともう1人の準備が整うのを確認すると早速タイムを測った。
「黒岩って早いんだな」
走り終えた野枝というクラスメイトに声をかけられる。
「ありがとう。毎日走り込みしててよかった」
学校に通えなくなってから、毎朝祖父と河辺を走るのが日課なのだ。
全員分の測定を終えると、順番やバトンパスの練習になった。
「どれがいいかなぁ」
「うーんどれもどれって感じだよね」
「まぁ残りの日数で様子見だな。それじゃ各自部活行って良いぞー」
本日の練習はお開きになったようだ。更衣室に行くと制服に着替えた。
さすがに汗かいたな。
自販機で清涼飲料水を買うと、少しだけグラウンドで部活している人々を眺めた。
部活で汗を流している人達は、やはり部活でも成績を残すために頑張っているのだろうか。
この高校は運動部が強いという話は聞かないが、懸命にボールを追い汗を流す姿を見つめていると眩しく感じる。
あの人たちも、進路やその先の将来のこと考えているのだろうか。僕も何か見つかるだろうか。気づけば日はだいぶ長くなっていた。
体育祭当日。
僕は自分の時間まで、適当に競技を見て回った。
フットサルを眺めていると、同じくリレーを走ることになっている2人が慌てた様子で近寄ってきた。
「黒岩ちょっと」
「何かあったの」
バスケの試合やってる時に、リレーでアンカーを走る予定だった獅童が怪我をしたのだという。
「えっそれは大丈夫なの」
「本人は出るっていってたけど、足首捻ったみたいでさ」
「リレーってメンバー変わっても平気なんだっけ」
どの競技も事前に選手の登録が行われているはずだ。
「あぁやむを得ない場合は、変更可能って書いてあった」
リレーメンバーの桐生が落ちついた様子で教えてくれた。
「まだ交渉してないけど、一ノ瀬に頼もうかと思ってる」
一ノ瀬という名前にドキッとする。
「一ノ瀬は今何か競技に参加しているんですか」
「うん。バドミントンで勝ち上がってるみたい」
一ノ瀬が何に出るのか知ってはいたが、勝ち上がってるんだ。
「勝ち上がってるとなると、リレーと被る可能性はないんですか」
「そこが微妙なんだよね。でもそれ以外だと後は」
野枝が手にしているタブレットには短距離走と長距離走のデータがあり。短距離走が速い順から並べたものが表示されていた。
全員が回答しているわけではないが、回答してないメンバーについてもおおよその数字が記載されていた。
データを見る限り一ノ瀬は僕よりも速いようだ。
天は彼にどれだけの才能を与えたのだろうか。僕も何か得意なことがあれば人生変わっただろうか。
「ただ一ノ瀬が勝ち上がっているってことは、試合数によってはこのタイムより遅くなることも考えられる」
「そこだよなー。一ノ瀬に依頼したいけどこのまま勝ち進むとリレーの代理をお願いするのはさすがになー」
野枝と桐生は少し悩んでいる様子だ。
「まぁそこは考えても答え出ないし、一応もう1人候補挙げておいて、一ノ瀬が難しかったらその人に依頼するしかないんじゃないか」
「オッケーそれは頼んでおくよ。確か元サッカー部がいたはずだから、体力に自信あるだろ」
「ありがとう」
僕は彼らがさった後、フットサルからバドミントンがやっている体育館へ足を運ぶことにした。
「さて今の状況は」
個人のタブレットでも状況の確認が可能である。体育祭の公式委員会が細かく情報をあげているからだ。
なんて便利なんだ。バドミントンの状況を見ると、一ノ瀬は1勝しているようで次の対戦までは少しだけ時間が空いているようだ。
「次の試合なら見れるか」
時計は10時を指し示そうとしていた。
見やすそうな場所を探すと、全体的な雰囲気を確認する。
バドミントンの経験者とそうでない人では、スマッシュの速度が全然違かった。圧勝しているところもあれば、同じくらいのレベルで得点を取り合っているところもあった。
現役で部活に所属している人は人数制限があるわけだが、大体は現役でやっている人が勝ち残るか、もしくは中学生の時までにやりこんでいる人のどちらかだろう。
一ノ瀬はどうなのだろうか。彼は中学生の時は何をしていたのだろうか。何か1つの部活に熱中していたのだろうか。それとも今みたいに色んな部活に顔を出していたのだろうか。
そして彼は苦手なことは何かあるのだろうか。
体育祭が終わると今度は学期末テストがある。入試をおそらくトップで通過した一ノ瀬がどのくらいの順位になるのか、そして僕自身はどの程度の順位を取れるのだろうか。




