EP 4-1 黒岩編
「卒業生代表、桐生颯」
「はい」
気がつけがあっという間に冬を越え卒業式を迎えていた。
桐生は背筋を伸ばし落ち着いて登壇すると、卒業の言葉を述べ始めた。
生徒会長を務めただけあって、話し方も間の取り方も、どれもが耳に心地よく感じた。桐生は当たり障りのない学校行事の振り返りや苦難などを語っていた。そして声のトーンが急に変わった。
「僕たちは3年生になって大切な仲間を、友人を失いました」
その言葉を耳にした途端、黒岩は急にこの3年間のことが、一ノ瀬とのことがフラッシュバックした。
桐生が話している間中、日常の学校生活から、イベント毎まで多くの時間をここで過ごしたのだと改めて感じた。
中学生の時の黒岩には考えられないほど、この高校生活は楽しさと発見に満ちていた。
「おーい黒岩」
遠くから野枝が手を振っている。
「卒業おめでとう」
「野枝くんと桐生くんも。桐生くんは生徒代表もお疲れ様」
そう声をかけると、野枝が桐生のそばから黒岩の側に寄って来た。
「なぁ聞いてよ黒岩」
ガシッと肩を掴まれる。
「こら楓そこまでにしておけ」
桐生は何か言われたくない事があるのだろうか。野枝を止めようとするその表情は、少し焦りを伴っていた。
「あのさコイツさ」
ベシッ。
桐生が野枝の頭にチョップを喰らわす。
「あっ咲良に言いつけるからなー」
野枝は黒岩を盾にして桐生の攻撃を躱す。
「ちょっと何?咲良って誰?」
野枝は言葉に出してしまったその名前を紛らわすように、口笛を吹いた。桐生は黙ってこちらを見た。
「忘れろ。今すぐその言葉を」
急に肩を揺さぶられ訳のわからない黒岩。とりあえず桐生にとって”咲良”という単語が弱点になり得る事だけは理解した。
「さくら」
黒岩が呟くと桐生の矛先は野枝に向かった。
「か・え・でぇぇ」
楽しそうな野枝と桐生の絡みを見て呟く。
「2人と会うのも最後か」
「おいおい待ってくれよ雅ちゃん」
急に下の名前を呼ばれ身を固くする。
「ちゃん付はやめてくれ」
「あっすまん雅」
野枝は何かを察したのか、すぐに直してくれたが、黒岩は中学生の頃にいじめられていた時に散々”雅ちゃん”と揶揄われていたので、その呼ばれ方にどうしても嫌悪感と不快感がある。
「また大学生になってもさ、遊ぼうぜ。せっかく仲良くなれたのにもったいないじゃん」
「それに大学で会う可能性もあるしな」
桐生とは実は同じ大学を受験していた。
「あぁ受かってるといいな」
「大丈夫だろ」
桐生と握手を交わすと野枝が騒ぎ始めた。
「待って俺だけ仲間外れにしないで。その握手やめて」
しかし野枝が騒ぐほど、桐生は仕返ししたくて仕方ないようで、頭上に繋いだ手をあげた。
「あっくそ俺が届かないからって」
野枝がジャンプするも届かないその手に、思わず笑いがこぼれてしまった。
「本当に2人は仲がいいね」
「まぁ颯次第だけど、この先長くお付き合いしていく関係だからな」
野枝が意味ありげに笑った。
「はぁ」
桐生は頭を抱えるも、満更でもなさそうだ。
「それじゃあまた」
黒岩は2人に別れを告げると、一ノ瀬と出会った桜の木の下に来ていた。
あの出会いから2年半か。
当時はまだこんなに楽しい学校生活を送れるとは思っていなかった。
「ありがとう」
桜の木に告げると、ふわっと優しい風が通り過ぎた。
3月中旬。
受験結果の報告に顔を出した。
「おっお疲れさん」
「先生お疲れ様です」
つい数週間前までは、毎日と言っていいほど顔を合わせていたのに、久しぶりの担任にどこか懐かしさを覚える。
「無事合格でした」
「そうか。まぁわかっていたけどな。おめでとう」
担任は何かをメモしていた。そして最後だから聞き辛かったことを尋ねてみた。
「一ノ瀬くんは何学部に進む予定だったんですか」
「んっ?」
「あー最後だから聞いてもいいかなーって」
「なんだ。一ノ瀬とそういう会話してなかったのか」
「いやぁ……。一ノ瀬くん色んなジャンルの本読んでるから何を目指していたのか気になって」
「今個人情報が厳しいからあんまり教えるの良くないんだけどな」
そう言って先生と一ノ瀬の会話を懐かしんだ。
キーンコーンカーンコーン。
懐かしの高校に卒業生として”未来”についてを語るために呼ばれた。
黒岩はそこで、中学生の時のいじめと、高校生になって出会った友人達について話した。
そして最後にこう締め括った。
”人生は何が起こるのか、誰にも予測できません。ただ世界は広いということを知識を通して学んでほしいと思います”




