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消失点のその先に  作者: 白雪 凛


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EP 3-2 充編


「高校まではやりたいことをやりなさいって言っていたので」

「それは同感じゃ。あの子はよく将棋相手になってくれたものだ。あっちゅーまに勝てなくなってな。集中力が尋常じゃなかったなあの子は」

「えぇのめりこむと、他のこと見えなくなりますからね」

「どうして事故になんか」

祖父がまた重苦しい雰囲気でつぶやいた。

「わしらの歳になると、誰が亡くなったなんて増えてきたものだが、まだまだわしの人生の3分の1も生きていない孫が亡くなるとは……さすがに堪えるわ」

「そういえば玲華さんは?」

祖母が何気なく放った言葉に父は苦笑いする。

「昨日会社の集まりがあったみたいで」

「あらやだまだ寝てるの?優くんが亡くなったと言うのに」

「母さん部屋には行かないでやってください。玲華には後で話しますので」

父は今にもリビングを出て、上階へ行こうとする祖母を制止する。

「自分の子供じゃないから、呑気に飲み会なんて行くのよ」

祖母は代わりに言葉を吐き捨てた。



充が現実を受け止めきれないうちに兄の葬儀は終わった。

人生で初めての体験だったものの、まるで実感が湧かなかった。

棺に入れられた兄は、病院で見た時より血色が良く、兄の本来の美しさがまた戻ってきたようだった。

家に戻ってくると、重い空気はさらに加速した。

「玲華話があるんだ」

父は部屋に戻ろうとしていた母をリビングの椅子に座らせた。

「何よ」

父のどこかかしこまった表情に母は躊躇い気味に尋ねた。

「離婚しよう」

「はっ?」

まだ兄の死について考えていた充だがさすがに父の方を見た。どうしてこのタイミングで離婚の話を切り出したのだろうか。


「もう2年以上外で男と遊んでるだろ」

「えっちょっと何よ。仕事の取引先の人たちとお酒飲んでるだけじゃない」

父はため息を吐いた。

「証拠はちゃんとある」

父は携帯を開くといくつもの写真を母に見せていた。

「優が定期的に病院に行っていたようなんだが、それもお前がやったんだよな」

母は何も言わずに下を向く。

「ちなみにその証拠もあるぞ」

「ちょ、ちょっと待ってよ。私はやってないわ。高校生男子に力で勝てるわけないじゃない」

「そんなの、お前の知り合いに頼んだに決まってるだろ。お前と優に暴力を振るったやつが話してる写真もあるし、直接会わなくても、知り合いの知り合いとかそう言うの全部掴んでるからな」

そこで母の態度が急変した。

「あいつも結局あなたを頼ったのね。所詮ちっぽけな存在だったわね」

「ふざけんじゃないわよ」

祖母がそう叫んだが、父が先に母の頬を叩いた。

「何よ。あなただって結局暴力を振るうのね」

母は鋭い眼光で父を睨んでいる。しかし父はより怖い表情で母を睨んでいる。

「優が俺を頼るわけないだろ。病院の関係者や警察からの情報と探偵に依頼したに決まってるだろ。どうしてそうも優を嫌うんだ」

「別に嫌ってなんていないわ。ただ邪魔だっただけよ。充が苦手なこと全部さらっとやってのけてしまうんだもの。充がどんどん惨めに思えたわ」

「母さんに僕の気持ちなんてわかるわけない」

充は自分が思うより大きな声が出たことに驚いた。

「僕は兄さんが大好きだったよ。こっちにきてからは距離を取られたの知っていたけど、自慢の兄だった」

「血が繋がっていないのに?」

母は充がその事実を知っていることを知らないようだ。

「そんなの関係ない。血が繋がっていなくても自慢の兄だ。勉強も見てくれたし。よくわからない雑学をずっと楽しそうに語る兄を嫌いになんてなるわけない。お母さんはどうしちゃったの。僕はお母さんの方がわからないよ」

「充もそっち側につくのね」

母は席を立ち上がると、バタンと強めにドアを閉めると、ドスドスと階段を上がっていった。



「すまんな充」

父は先ほどまで母に向けていた鬼のような形相とは違い、今はとても弱々しかった。

「知っていたのに、ずっと向き合ってこなかったから。昨日玲華の会社にも連絡入れていたんだが、休みだって知って驚いたよ」

充は母の何を見ていたのだろうか。充にとっては優しい母だったはずなのに、兄に暴力を振るっていたなんて。

「どうして兄さんは何も言わなかったんだろう」

「お前が母さんのこと大切にしてたからじゃないのか」

「そんな優しさならいらなかった」

兄が冷たくなったことの方が充には辛かった。

「本当にあいつは、勉強以外のことは不器用だな」

どうせなら兄が生きている時にこの話をしたかった。母さんが他の男の人と遊んでいるという事実は、ミステリー小説の犯人がわかった時のように、変わって行った母の様子を考えれば当然のことだった。

「僕って本当にダメな人間だ」

充は結局自分は何も知らない、愚鈍な人間だと思い知らされた。

「充は人を疑わないまっすぐな心の持ち主なだけだ」

祖父が充の背中をさすった。


「充は母さんと行くか?」

「いや、父さんといるよ」

これ以上間抜けな息子でいたくない。

「それより父さんはいいの?僕と血繋がってないんだよね」

「そんなの当たり前だろ。充も優も俺の子だ」

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