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消失点のその先に  作者: 白雪 凛


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EP 3-4 日陰編

さて、思い出せない人物とどこで出会ったんだろうか。

将棋教室に見学に来た?それともどこかの試合で知り合った?

それ以外だと……。後何がある。将棋をやっているのであれば最近話題になっている人物でもいるのだろうか。師匠が紹介してきた……とか。うーんなくはないが、可能性は低そうだ。

学校の前で待ってるのはさすがに不審に思われそうだし、駅の方に行けば見つけられるだろうか。

でも知り合いって事は、何もしなくても会いに来るのでは?夏休みだけこちらにいたとか。あとは引っ越したとか。



夕方、学校が終わるであろう17時から駅前のカフェでそれらしい人物を探していた。

「うーんそもそも顔も名前もわからない人物に会うことなんてできるのか」

2時間ほど一杯のコーヒーで時間を潰した日陰は、氷が溶け切った薄いアイスコーヒーを飲み干すとカフェを後にした。

とぼとぼと駅から自宅までの道を歩いていると、前から歩いてきた人物に声をかけられた。

「日陰洸斗さん?」

「えーっと」

目の前に立っている高校生に心当たりがなかった。

「あっすいません。小学生の頃将棋教室に通っていたことがあるんです」

「あっそうなんだ……」

日陰は中学、高校生の頃はメディアで顔を出すことも多かったので一方的に知っている人も多い。

「あの、元気そうで良かったです。またテレビで見れるの楽しみにしてます」

「あっ、あぁありがとう」

そこで挨拶をして去ろうとしたのだが、そこでふと思った。

「あっねぇ君。そこの西高の生徒?」

「はい。そうですけど」

西高の生徒というその男は、質問されたことに驚いたのかパチパチと瞬きした。

「あのさ。西高に将棋に詳しいやついる?」

「えーっとどうでしょう……。将棋部があるわけではないので、ちょっとわからないですね」

「そっかーまぁ仕方ないかー」

せっかくなにか答えがわかるかと思ったのに、違う方法で探す必要があるのかもしれない。

「そうだ。じゃあ一ノ瀬って人知ってるか」

「一ノ瀬優先輩ですかね」

「おっそうその人」

将棋に詳しい人物は知ることができなかったが、病院で聞いたその人物を知っている人がいるとは。

「ねぇその人今何してる?」



日陰はヨロヨロと自室の部屋へと戻ってくると、携帯で急いで調べた。

"事故 高校生"

検索結果は一瞬で出てきた。

「北海道は……関係ない。埼玉も死人が出ているわけではないようだ」

いくつかのニュースを調べていると、ある地名が目に入ってきた。普段の行動範囲ではないはずなのに、急に手が震え、どっと汗が溢れ出し頬を流れた。

ドクンドクン。

心臓が脈打つ。押してしまったら何か変わってしまうそんな予感がした。しかしその記事を開いた。

"8月31日夏休み最終日に海を望む由比ヶ浜の目の前で事故。10代男性は死亡。20代男性が意識不明の重体"

記事はもっと続いていたが、それだけで充分だった。

これが日陰が巻き込まれた事故で、10代男性が一ノ瀬だ。日陰が持っていた携帯は、ゴンッと鈍い音をたて、床に落ちた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

日陰は全てを思い出した。

一ノ瀬のことも事故のことも。

蘇る一ノ瀬の最後の表情が。飛ばされた痛みが。

「おいどうした?」

祖父が日陰の叫び声を聞いて部屋の扉を叩いたが、息がうまく吸えなくなっていた日陰は答えることができなかった。

はっ。はっ。はっ。

頭を抱えた。どうしてだ。どうして彼が。

俺が俺が殺したんだ。出かけなければ、鎌倉なんか行かなければ、海なんて見に行かなければ。

波のように押し寄せてきた後悔は、一瞬で深海まで日陰を引き摺り込んだ。

なんてことを。考えがまとまらない。頭が割れるように痛い。

また、まただ。ここは地上のはずなのに、うまく息が、酸素が吸えない。

遠くから誰かの声が聞こえてきたが、その音は水の膜に覆われたように音を殺した。



日陰はまた病院にいた。以前と違うのは一ノ瀬という人物を思い出したことだ。

陽と名乗っていたその人物の本名は一ノ瀬優。連絡先を交換したときも”you”と登録されていたので、気づかなかったのだが、きっと英語の”ユー(あなた)”とかけているのだろう。

陽こと優と過ごした約2ヶ月という記憶が、一緒に消えていた春から夏の間の記憶が処理しきれずに、日陰はまた意識を失った。


今回はすぐに病院を退院することができたものの、日陰は何かをする気力も生きる気力さえ湧かなかった。ただ夕方になるとまた優が来るんじゃないかと、家の前をウロウロした。祖父に見つかり怒られたが、それでも次の日も次の日も雨に降られようと外へ出た。

しかし一向に現れることのない姿に、だんだんムカムカとしてきた。

「あいつが俺を導いてくれるんじゃなかったのかよ」

近くの小石を蹴る。

「そうだあいつの好きなアイスでも買ってくれば来てくれるかも」

日陰はコンビニへと向かった。

「なんだったかな。えーっと」

しかし最近まともに寝ることも食べることも放棄していた日陰は目的地にたどり着く前にふと視界が暗くなった。



「ねぇ洸斗はさ、本当は○○なんじゃない」

懐かしい友の声が聞こえた。

「待ってよ……優どこにいるの。それによく聞こえないよ。なんて」

「ばーか」「おいっふざけんな」「またやった」「ほらここに歩を置いてその後に」

懐かしい声が日陰を取り囲むかのように、四方から聞こえてくる。

「い、嫌だ、お願いだ」

しかし意識は現実世界へと戻ってきてしまう。

「はぁはぁはぁ」

目を覚ました日陰は、「くそっ」と両手で目を覆った。目を瞑ればまだ鮮明に優の声が聞こえてくる。



「お願いだから薬だけは毎日飲んでくれ」

父が目を逸らさずまっすぐとこちらを見て言った。日陰はそれに答えることはなく。フィと視線を逸らす。

「お前がぐっすり眠るためでもあるんだ」

父はまだ日陰を説得しようと試みている。しかしそんなものを飲んだところで何も変わらないことを知っていた。

どれだけ待とうと一ノ瀬優はやってこない。もう2度と。

優が一ノ瀬に会いにくるまでに、日陰は見つけなければいけなかった。勝つための方法を。

どうしてこの秋の大会に自分はいないのか。優にドヤ顔で勝利を伝えた時どんな反応をするだろうか。そのために日陰はもっともっと将棋にのめり込まなければいけなかった。眠る時間を削ってでも。


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