EP 1-3 黒岩編
この日を境にいろんな場所で一ノ瀬を見かけるようになった。特定の部活に入部しているわけではないようだが、何か事情でもあるのだろうか。委員会で一緒になった時でも聞いてみるか。そう心に誓った。
「あっ一ノ瀬くん今日当番の日だけど、大丈夫?」
帰りのホームルームが始まる前に、一ノ瀬に確認してみた。
「大丈夫。ちょうど本返そうと思ってたし」
「えっ本読む暇あるの?」
「えっ?もちろんあるよ。なんでないと思ったの」
なぜそんなことを聞くのかと不思議そうな顔をした。
ホームルームが終わると、一ノ瀬が早速自分で本の返却処理をした。
"深海生物の生態""深海魚のヒミツ"そう表紙に書かれていた。
「あれそう言えば、この前…いや半月前くらいに生物部に行ってたよね?」
「んっ?あぁ何回か行ってるね」
「それ以外にも、AI研究部やロボット部とかでも見かけたけど、一ノ瀬くんってどうしていろんな部活に顔出してるの?」
前から気になっていたことを本人に聞いてみた。
「うーん社会経験?というか知識を覚えるのに本じゃなくて、実際に詳しい人から聞くのが1番だから」
いろんな部活に顔出すのが社会経験。何言ってるんだと思いつつも、話を続ける。
「そうなんだ。何が面白かった?」
「そうだね。自主性を重んじる高校なだけあって、生徒も先生も個性的だよね。さすがに海外に研究行くけどついて来るって言われた時は断ったけど、お金とか気にせず着いていけたら楽しいだろうなぁ」
海外?研究?一体一高校生が何を研究してるというのか。しかしこういう話を聞くのは案外嫌いじゃない。
その後も一ノ瀬と部活の先輩やら先生の話で盛り上がった。
数ヶ月過ごして感じたのはこの高校ではイジメなど起こらないだろうということだ。一ノ瀬もそうだが見ている世界線の規模があまりにも違う。多くの生徒が自分のことを日本の東京に住んでいる高校生だと思っていない。
もっと先を、世界を見据えている人がクラスメイトをいじめるなんてそんなことはきっと起こらない。
その事に安心したものの、僕は将来のために何を学べばいいのかまだよくわかっていない。一ノ瀬みたいに色んな部活に顔を出し先輩や同級生に質問する度胸もない。
そもそもクラスメイトですら、最低限しか話しかけないのに知らない人に話しかけるなんて未知のことだ。
せめて本を読むか。一ノ瀬のようにいろんな本を読めばもしかしたら何かに興味を抱けるかも知れない。
図書当番ではない、放課後に図書室に初めて足を踏み入れた。
何度か足を運んでいるのに、ちょっと緊張した。
えーっと何の本を読もうか。本を棚に戻すこともあるのでなんとなく、どのジャンルの本がどこにあるのか把握している。
一応全ジャンルから1冊ずつは借りたいと思っているのだが、なんの本から始めるか。番号の早いものだろうか。それとも授業の参考になる本を読むべきだろうか。うーん小説もありだよな。そういえばこの前一ノ瀬と星に関する話をしたな。
彷徨うことすでに10分以上経過していた。迷っている時間があるなら読んだ方が早いのでは、そう思い目の前の棚から1冊選ぶ事にした。
「えーっと」
そこは宇宙に関連する本が並んでいた、宇宙の秘密、誰でもわかる天文学入門、宇宙学入門。
何冊か開いてパラパラめくると、数式が多い本格的なものではなく図解などが豊富でわかりやすそうな本を手に取った。
トントン。肩を叩かれる。
「黒岩何借りるの」
一ノ瀬がニコニコしながらコチラを見ていた。
「あっ…」
人に話したくなる宇宙の秘密と書かれた本をちょうど開いていた。
「それ面白そうだね。黒岩は宇宙に興味があるの」
「えーどうだろう。この前一ノ瀬くんと話しててちょっと読んでみようかなーって」
「へぇおもしろそうだ。俺も今日は宇宙に関する本を借りてみようかなぁ」
一ノ瀬は隣に立つといくつか本を手に取り、すぐに決めたようで、颯爽と去っていった。
僕は図書室で読んでいこうかと思っていたが、一ノ瀬にならって本を借りる事にした。
本を返しに来ると、またまた一ノ瀬にあった。
「この前はありがとう。本読んでも分からなくて、宇宙について詳しい人に聞きにいってきたんだ。天文部も定期的に星みたいするみたいだから、時間あったら黒岩も参加してみたら。時期近くなったらタブレットから申し込みできるみたいだし」
僕よりも宇宙について詳しくなったであろう一ノ瀬にちょっと心がざわついた。
「ありがとう」
「いやこちらこそ。それじゃあ」
そう言って一ノ瀬は天文学の本を数冊借りて行った。
一体どんな1日を過ごしているのか。授業だけじゃなくて部活への顔出して読書まで、授業も真面目に聞いてそうだし、ショートスリーバーなのだろうか。
僕は次に借りる本を決めた。




