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消失点のその先に  作者: 白雪 凛


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EP 2-5 充編

結局のところ夏休みの課題は三好が充よりも1日早くに終わらせ充がカフェで奢ることになった。

「すごい焼けたね」

細山は海に行っていたのか、肌の色が変わっていた。

「あぁジリジリと焼かれる感覚はちょっと痛かったけどな」

「三好は何かしてたの?」

「あぁ俺はコミケに行ってた。冬も父さんと一緒に行く予定なんだ」

2人とも家族との思い出があって楽しそうだなと少し羨ましく思う充だったが、充自身も前半は祖父母の家に遊びに行っていたし、小学校の同級生だった晴翔たちとも何回か遊んだので充実はしていたはずだ。

「それより充は管弦楽部にでも入部するの?」

「いや、違うよ」

「じゃあなんで、見学行ったり、管弦楽の顧問の渡会先生のところに行ってるんだ?」

夏休み明け充は確かに管弦楽の見学に行ったし、顧問の渡会先生のところにもいったが、見られていたのか。

「ちょっと指導をお願いしたくて」

充がヴァイオリンを弾けることを伝えていなかったので、細山も三好も驚いていた。

「凄いじゃん。高校は音楽系の学校行くの?」

「いや、さすがにそこまではまだ考えていないけど、僕ができるの音楽くらいだからもう少し向き合ってみたいと思ったんだ」

「今度聞かせてよ」

充は曖昧に頷いた。



季節はあっという間に過ぎ、充は中学2年生になった。

身長は5センチほど伸びたが、まだまだ伸びそうな雰囲気があった。

充はまたヴァイオリンのレッスンを受けるようになり、今年はコンクールでの入賞を目指している。

そのため充は家に帰るのが遅くなったが、その分寂しさは減り、充実感が増えた。

また練習をしたいと父に言った時、父は少し嬉しそうだった。

まだ、父や兄のように時間を忘れるようなことはないが、それでも自分で選んだということが大きく影響した。

正直コンクールに出るのは怖いのだが、それでも1人でも多くの人の耳に残るようなそんな音楽を奏でたいと思っている。

コンクールで入賞したら、母は喜んでくれるだろうか。兄や父さんも褒めてくれるだろうか。そんな期待を抱きながら充は自分にできる最大限の努力を注いだ。



コンクールの当日、母は仕事終わりに行くのでギリギリになるかもしれないと言った。

兄は模試があるので難しいと断られた。父はなぜか充の横でお腹が痛いと言っていた。

「お父さん大丈夫」

充は心配そうに声をかけた。

「いや、充がコンクールに出るのに、父さんがこんなに緊張すると思わなかった」

普段論文の発表などをしている父が、どうしてこんなにも他人に緊張するのだろうと不思議でならなかったが、それだけ父が充に興味を持ってくれたことに笑みが溢れてしまう。

「なんだ充は余裕なのか」

父が怪訝そうな顔でこちらをみた。

「いや、全然。正直優勝候補って言われてる子に勝てるとも思ってないけど。だけど期待されていないからちょうどいいのかもしれない」

「……そうなのか?まぁリラックスして弾けるならそれが1番だ」



「ふぅ」

出番が近づくにつれ呼吸が浅くなって行くのがわかる。父には大口を叩いてしまったが、やはり緊張するものは緊張する。ピアノの伴奏に合わせて練習できた回数もそんなに多くない。

ヴァイオリンの先生に言わせれば「合わせてくれるから大丈夫」とのことだったが、軽薄そうな人で充はまだ打ち解け切れていなかった。

「少年大丈夫か。まぁ失敗したって次のコンクールがあるさ。楽しもうぜ」

何を言っているのかわからないが、一応すごい人なのだ。

「あのどうして伴奏してくださるんですか」

本当は違う人が伴奏を弾いてくれる予定だったのだが、たまたま日本に帰ってきていたこの人が1週間前に旧に伴奏をすると言って、ヴァイオリンの先生に申し出たのだ。

「もしかしたら答えを見つけられるかもな」

全然質問に答えてくれそうにはなかった。

「ほら出番だぜ」

背中を大きな手で叩かれると気合が入った。

「焦ったら息を吐くのを忘れるなよ」

なんで息を吸うではなく吐くなのだろうかと、そんな疑問は考える余裕がなかったが、舞台袖からライトの照らされたそのステージに上がると一気に鼓動が早くなった。

充はピアノの音を聴き最初の音を奏でる。よし、いい感じ。

しかし順調だったのは最初だけだった。音がズレてしまったのだ。そのせいで充は焦ってしまう。大丈夫大丈夫。何回も練習したのだから、普段通り普段通り。落ち着かせようと頭で唱える。

するとピアノの音がいつもより大きく聞こえてきた。まるで自分1人で演奏しているのではないというように。

充は息を吐けと言われたのを思い出すと、ピアノの音をよく聴いた。

そうだこのリズムだ。テンポが少し早くなっていたのだが、リズムに呼吸を合わせるとまたいつも通り弾くことができた。なんとか持ち直したまま最後まで弾き切った。

ミスをしてしまったので入賞は難しいなと思ったものの、充は謎の充足感に包まれた。

ステージで一礼して舞台袖に引っ込む。

楽屋裏に行くと伴奏者の彼の袖を引っ張った。

「ねぇ、あれなに。あの感覚」

充は初めてヴァイオリンとピアノの音が混ざって広がって行くようなそんな経験をした。

「また、コンクール出る時に呼んでよ」

出番を終えると手を振り颯爽と去って行った。


「充お疲れ様」

母が父と共にいた。

「えっ玲ちゃんも間に合ったの」

充は母も聞いてくれていたのかと、嬉しくなり、そして急に恥ずかしくなった。

「ごめん。もっといい演奏を聞かせたあげたかった」

「あらあら。たくさん挑戦するといいわ」

充の頭を撫でる母の手は優しかった。


もちろんこのコンクールでは入賞することはできなかったのだが、充はヴァイオリンの先生にこの時の体験を熱弁した。そしてまたその感覚を味わいたいとより一層練習に励んだ。


充は家庭環境もこのままいい方向に進むだろうと思っていた。あの日までは。

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