EP 2-2 充編
はぁはぁはぁはぁ。
息が上がってもう走れない。身体にも力が入らなかった。
「おい充」
どこからか充のことを呼ぶ声が聞こえたが、充は息が苦しくて振り返ることもできなかった。
「おい大丈夫かよ」
充の正面に回り込んできた人物は小学校の時のクラスメイトだった。
「息を吸って、吐いて」
彼は充が過呼吸になっていると知って、コンビニの袋を充の口元に当てると背中をさすりながら優しく言葉をかけてくれる。過呼吸が落ち着くと声をかけてくれた。
「元気だったか充」
その懐かしい友人の姿に充は、涙が止まらなかった。
「おいおい泣くなよ」
困惑する彼に充は泣きながら微笑んだ。
「久しぶりだね晴翔くん」
「おぅ!こっちきてるなら連絡くれよ。つーか充携帯持ってないか。武田も高橋もみんなお前に会いたがってるぞ。東京はどうだ。夏休み遊びに行くから案内してくれよ」
晴翔は充の様子を気にしながらも明るく話をしてくれた。中学校の先輩がとか、小学校の時のクラスメイトに彼女ができたとか、そのおかげで充は先ほどまでの悲しみが少し和らいだ。
「携帯持ってるんだけど、家に置いて来ちゃったんだよね」
充はまたこうして気の置けない友人と話ができるのが嬉しかった。
中学校で知り合った三好や細山ももちろん心地はいいが、良くも悪くもダサいところも見られてきた友人達には何も装う必要がない。
「それじゃあ家まで送るから、連絡先交換しよーぜ」
充は家に入るのを少し躊躇っていた。まだ父や祖父母と顔を合わせるのが気まずかったからだ。
しかしなぜか晴翔が「こんにちわー」と大声で叫んで家に入ってしまった。
呆気に取られる充になぜか自慢げな晴翔。充は祖父母が慌てて玄関に来るのを見て笑ってしまった。
「それじゃあまた近いうちに」
夏休みはもうすぐそこだ。こっちに戻って来てもいいかもなと充は思っていた。
充はもう1日祖父母の家にいたかったが、母と話をするには今日がいいからと父に連れられ東京の自宅へと帰ってきた。
「ごめんね」
母は帰って来た充を抱きしめると謝罪した。久しぶりに父と母と一緒に話をすることができた。
「仕事ももう少し慣れれば、早く帰って来れるようになると思うわ」
母も慣れない仕事で、余裕がなかったのだと教えてくれた。
「玲ちゃんは今なんの仕事をしているの?」
充は母に聞いてみた。
「小さな洋服のブランドのお店に言って、宣伝やファッションの展示会などに出ないかという打診をしたり、モデルを紹介したりしているのよ」
「だから最近化粧とか濃いの?」
「濃いかしら?これくらいは社会じゃ普通なのよ。充を育てるのに一生懸命であまり見せて来なかったから。昔の私の写真でも見る」
そう言って母は現役でモデルをしていた時の雑誌の切り抜きをまとめたノートを見せてくれた。
「玲ちゃんかっこいい」
身長の高い母は可愛い女性というよりは、かっこよさが際立っていた。化粧も確かに今より濃いものもたくさんあったので、充は母が普通と言った言葉に納得した。
「祖父母が顔を出すって言ってるんだが」
父が母に告げた言葉に母の表情は一変した。
「えっ何しに来るって?料理も洗濯も家事代行に頼んだのに何しに来るのよ」
「いや、だから充が1人になるのを心配して」
「いやよ私、せっかくあなたの祖父母から解放されたのに」
母は父の両親が好きではないようだ。
「充が1人になるからって」
「じゃああなたがもっと頻繁に帰ってきて、ご両親のこと見てちょうだいね。私仕事でストレス溜まってるのに家に帰ってきてもストレス溜まるじゃない」
充は母が祖父母とそんなに仲良くないのを知らなかった。
「玲ちゃんごめんね。僕が寂しいって言ったから」
「あら充は悪くないのよ。両親の件はあなたがなんとかしてちょうだいね」
母は父にそう言い残すと、部屋に戻ってしまった。
「ねぇどうして玲ちゃんは、おじいちゃんとおばあちゃんのこと嫌いなの」
充は残された父にそう質問してみた。
「祖母がどうも何もできなかった母に厳しく接していたみたいなんだよ」
父は当時も忙しくあまり家に帰って来なかったようだが、何度か母に泣きつかれたと言っていた。
父は子育てでノイローゼになっているだけだろうとあまり祖父母には強く言わなかったため、母は孤独に感じていたようだ。
「父さん、僕がおばあちゃん達を呼んだから、2人のことは僕に任せて」
忙しい母にこれ以上心労をかけては、また家に帰って来なくなってしまう。せめて祖父母が母にあたらないように充が目を光らせていなければならない。料理は作れないけど、片付けや掃除など簡単なことであれば充もできる。とはいえ家事代行の人が掃除もしてくれているのでそんなに家の中が汚くなることはないはずだが。




