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消失点のその先に  作者: 白雪 凛


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EP 2-3 日陰編

その日の夕方。

陽がいつものようにやってきた。

「なぁ出かけて何する?」

鞄を下ろしていた陽が顔を上げる。

「何って?」

「いや出かけるって言ったって何か目的が必要だろ。映画を見に行くとか、買い物をするとかさ」

「目的か。息抜きなんだから目的いらないんじゃない。取り敢えず電車に乗って、取り敢えず歩いて、美味しそうなものがあれば食べて。そう言うのも良いんじゃない」

目的が決まれば、場所も決まりやすいかと思ったのだが、陽はあまり予定を決めずに旅行に出かけるタイプなのだろうか。

「場所どうやって決める。目的が特に決まってないなら、千葉方面なのか埼玉方面なのかとか決めないとだろ」

陽は携帯で何かすること数分。

「はい、これでスタートとストップボタン押して」

そう言ってなにかアプリのようなものの画面が表示されていた。

「これなに?」

「関東の地名入れてあるから、止まったところの方面に向かおう。それなら何とかなるだろ」

何をしていたのかと思えば、行先の候補を入れていたのか、取り敢えずスタートボタンを押す。見たことのある地名が何となく見える速さで流れている。適当なところでストップボタンを押すと表示された地名を陽に見せる。

「わかった。場所も決まったことだし、昨日の続き始めよう」

もう少し何駅とかどの地区で降車するとか決めても良さそうなのだが、もう一度陽に話題を振る勇気がなかった。



8月31日朝の6時に駅に集合する様に言われたのだが、当の本人がまだ来ていなかった。

日陰は朝が早いので昨日早めに寝ようと思ったのだが、全然眠れず結局0時過ぎに寝た。

「ふぁーぁ。眠い」

それにしても夏の朝はもうすでにこんなに眩しいのか。そしてすでに暑い。

携帯の通知が鳴る。

「少し遅れr」

慌てて送ったのか”る”が”r”になっていた。

"了解。ゆっくりで大丈夫"と返信をすると、日陰は携帯で師匠の対局動画を見ていた。



「ごめん」

走ってやってきた陽は汗で前髪がおでこに張りついている。こんなに慌てた陽の姿を見るのは初めてだった。

「いや、俺は全然大丈夫だけど何かあった?」

ハンカチを手渡すと手で制された。肩から斜めに下げているバックからハンカチを取り出すと陽は汗を拭った。

電車を待っている間暑そうだったので、手持ち扇風機で風を送る。

「ありがとう」

「寝坊したの?」

揶揄うも陽は首を横に振った。

「いや、ちょっと捕まって……。たいしたことじゃないから大丈夫。それより晴れてよかったな」

まだ6時12分だと言うのに、空には雲ひとつなく青空が広がっている。

「俺は暑さでおかしくなりそうだよ」

これから気温が上昇して35度を超えるという。

「ははっ。普段から引きこもってるから、一応日傘も持ってきたし、飲み物も冷やして持ってきたしなんとかなるだろ」

「最悪室内ですごそーぜ」



目的地の鎌倉には7時過ぎに到着した。

「さて、ご飯食べに行こう」

そう。朝早く来た理由は朝ごはんを食べるためだ。普段こんなに早く起きないので正直まだお腹は空いていない。

「こんな時間からお店やってるのか?」

何も調べないで来てしまったので、不安になる。

「大丈夫だよーいくつかやってるお店確認してきたし、ヒロって嫌いな食べ物ある?」

「あれ、調べてきたんだ?」

事前に決めようとした時は、全然予定を決めさせてもらえなかったので、行き当たりばったりの旅になると思ったのだが、調べてきていたとは。

「さっき携帯で調べた」

電車に乗っている間、日陰は睡魔に勝てず眠ってしまっていた。その間に調べてくれていたのか。

「あぁ、ありがとう」

少し申し訳ない気持ちもあったが、眠れなかったのでどうか許して欲しい。



「いただきます」

朝から元気な陽。炊き立てのお米の匂いが鼻を通して胃を刺激したらしく、グゥとお腹がなった。

「いただきます」

両手を合わせて焼かれた鮭に箸を伸ばす。

「あっ美味しい」

「この具がたくさん入った味噌汁も美味しいよ」

そう言われて箸を入れると人参、大根、ごぼうなど野菜がたくさん入っていた。

「へぇ今度こう言うの作ってみようかな」

陽のために、祖母の夕飯作りを手伝う様になってみたものの、祖母に言われた通りに野菜を切り、言われた通りに炒めているので、たまにはリクエストしてみても良いかもしれない。



朝ごはんを満喫した後は、鎌倉といえば八幡宮ということで、駅から少し歩くと大きな赤い鳥居が見えてきた。

「まだ距離結構あるよな」

普段運動しないので、あんまり歩きたくはないが、隣の彼がニコニコしているので何もいうまい。

「本宮まで行くなら階段も登らないとだしね」


ぜぇぜぇ。

「待って足が動かない」

先に階段を登り終えた陽がこちらを見下ろしため息をついている。

「ヒロもう少し運動増やしたら、せっかくスケジュール組んだのに全然やってないから」

「…あい」

確かに陽は日陰の生活習慣を見直すために、運動や睡眠、食事などいろんな提案をしてきてくれていたのだが、運動は最低限の筋トレしか結局やっていなかった。

「振り返ってみなよ」

なんとか階段の最後の段を登り終えると陽がそう言ったので振り返ってみることにした。さきほど歩いてきた道が見渡せた。

「いや、こうもっと振り返ったら街を見下ろせるとかが良かったよ」

「街を見下ろしたいなら、もっと階段登らないと難しいんじゃない」

「……それもそうか。身の丈にあった景色ってことね」

「充分良い景色だよ。ヒロは理想が高すぎるよ。もっと日常的な幸せを感じた方がいいと思う」

なぜ年下に説教されているのだろうか。しかし陽自身は身近な幸せを本当に感じているのだろうか。定期的に見せる暗い影が気になっているのに、何も教えてくれない陽。日陰がもう少ししっかりした大人であれば彼は弱音を吐けるのだろうか。

「はい、もう少し日頃から感謝したいと思います」

「ふっなにそれ」

陽は破顔した。

「そうか。こういうことも幸せの1つかもな」

以前よりも日陰の扱いが雑になってきているので、多少は心を開いてくれたのだと。

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