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消失点のその先に  作者: 白雪 凛


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EP 2-1 日陰編

気づけば8月になっていた。

陽はあいも変わらず、学校帰りに訪れては日陰の将棋のために対策を考えてくれる。

「ヒロ最近誰かと対局した」

陽はこちらを見上げて聞いてくる。

「えっまぁじいちゃんの教室に来てる人とは指してるけど」

「そう?」

「何かあった?」

「データ見てたらだいぶ指し方変わったみたいだったから」

陽はパソコン上のデータを見ながら首を捻っていた。

「やっと成果が結果になったって感じ」

日陰は陽の髪をぐしゃぐしゃにする。

「ちょっ」

髪を直しながら陽はどこか不満そうだ。

「それよりお前はどうなの。試験結果下がってたりしないよな」

下がっていたら大問題である。恐る恐る尋ねると陽は鞄から紙を何枚か取り出すと、目の前に出してきた。

「うわぁすげぇ。ほぼ満点じゃん」

「まぁ学校のテストは範囲狭いからね」

「へぇそれなら模試の結果は?」

「うーんまぁまぁかな」

珍しく自信のない返答。



「そうだ。陽夏休みだしさ。せっかくだし息抜きしにいかない?」

「息抜き?」

「あぁ陽の貴重な休みが受験勉強と将棋だけになっちゃうだろ。っつても俺免許もないし遠くには行けないけど」

予想外の提案だったのか、陽は訝しげにこちらを見た。

「陽だってたまには息抜き必要だろ。頑張りすぎてるとどこかでポキリと折れちゃうかもだろ」

陽は少し考えた後、賛成してくれた。

「じゃあ夏休みの最終日にしよう。ご褒美は最後にあった方が頑張れるだろうし」

「おう。それじゃそうしよう。ついでに残りの数週間の目標を決めないか」

陽が不思議そうにこちらを見る。

「より目標に近づいた方が、奢るってことで」

「えっ買った方が奢るの?」

陽は少し不満そうだ。

「そう気分いいだろ」

「気分って……ヒロの方が年上なんだから奢ってくれてもいいじゃん」

「はは。俺は年下相手にだって手は抜かないよ」

「それもそうか」

陽は何かに納得したようだった。



「そうと決まれば目標立てないと」

陽に紙とペンを渡される。

「これ書いてどこかに貼っておく?」

「そうしよう。どうせ毎日来るしヒロの部屋でいいんじゃない」

「そうだよなー。毎日来てるもんな」

「じゃあ書いたらお互いに見せ合って納得できる内容であればどこかに貼ろう」

さて、こういう時何の目標が正解なんだ。

勝敗の数か、対局の数か、それとも癖が出ないように気をつけるとか。いや客観的なことは自分じゃ判断つけられないしな。

テストであれば何点あげるとかでいいのかもしれないが、残り数週間でできることで、ギリギリ達成可能なラインは。



"2週間後の模試で、英語、数学、物理の3教科で9割を取る"

"兄弟子に1勝する"

「うーんこれ妥当なのか」

「……どうだろう。ヒロは兄弟子との勝率どれくらいなの」

「うーん少なくとも、ここ半年は0回だなぁ」

「そっかぁ。でも1回じゃ少なくない?対戦数重ねれば1回くらい勝てるかもしれないしさ」

陽の言いたいことももっともだ。模試は1回。こちらは2週間近く何回でも挑むことが可能なのだから。

「それなら、俺の模試の日と同じ日に1回対局して勝利するにしたら。それなら何回もじゃないし、2人とも期限一緒だし」

日陰は用紙の上に陽が受ける模試の日付を書き足した。



「よしっ!じゃあヒロ今日の分進めよう」

目標が決まったので、将棋の癖を治す特訓が始まった。

「お疲れ様」

癖を治すのは本当に難しい。意識していないから将棋に熱中するほどそれが出やすい。陽は日陰の癖があまりにも治らないので、頭を悩ませていた。

「逆に癖を新しく作る方が早いのかな」

何か1人でぶつぶつと言っている。

「扇子って持ち込みOKだよね」

大会に扇子の持ち込みは可能だ。

「あぁ大丈夫だよ」

そう答えると、陽は嬉しそうにした。

「じゃあ扇子を使って癖を新しく作ってみよう」

扇子を用意するとどういう癖を作れるのか、2人で模索した。



さて、対局まで残り1週間だ。今のままで勝てる確率は五分五分といったところか。

最近の先輩の映像を見てよく観察する。

俺のようなわかりやすい癖は見つけられなかったが、得意な運び方があるようだ。相手を上手く誘導している。それがわかっただけでも対策はしやすい。

日陰はあまり他人のことを見てこなかったので、対戦相手の序盤での駒の進め方、考える時間、癖などそれら全てが勝利するために大切なことだと理解した。

日陰は負けが続いたのは、日陰を研究してきた人たちがいたからで、日陰はそういう人たちに先を越されていたのだ。将棋が純粋に好きだった昔と比べると、考えなければならないことがあるということに気づいたが、それでもずっと考え続けていかなければいけないと知った。

対策されてしまうのなら、それよりより早く新しい技術を磨くしかない。



「それじゃ結果発表ー」

陽は結果が返ってくるのに少し時間が空くからと、自己採点したテスト用紙を持ってきた。

「…うん。指定していた3教科は90点超えてるな」

そして、俺はと言うと。

動画を撮っていたのでそれを証拠に流すことにした。

「おっいいね」

自分でもいつもと差し方を変えた。それを楽しそうに陽がメモしていた。

「あーこれヒロ負けたでしょ」

まだ対局の途中だと言うのに陽がそんな事を告げた。

「何でそう思うの」

「うーんたぶん」

そう言って陽がどうやって俺が負けたのかを解説した。そして映像もその通り進んだ。

「よしっ、俺の勝ちだね」

陽が嬉しそうに言った。

「あーまずい。俺が奢りになるじゃん」

ぶつぶつ何かを言っている陽にどうして、その展開が予想できたのかを聞いた。

「待って……。なんで先が読めるの」

「何でって……。それじゃあ今から一緒にやろうか」

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