EP 2-5 黒岩編
黒岩は桐生の作ったご飯に舌鼓を打った。
「どうして桐生はこんなに料理上手なの?」
一ノ瀬は横で箸が止まらないようだ。
「自分でできることはやっておきたくて」
祖父母に任せきりの黒岩は、そんな発想を持っていることに感服した。もちろん祖父母のお手伝いはすることはあるが、それは自発的というよりは手伝って欲しいと声をかけられてからだ。
「何かきっかけはあるの?」
どんな生活をしていたら、そんなことを自発的にやれるようになるのだろうかと興味が湧いた。
「あーえーっと。もちろんきっかけはある……」
口ごもる桐生にこれ以上聞くのは申し訳ないので止める。
「ごめん。無理に聞きたいわけじゃ……」
「いや、そうだな2つ理由があるんだけど、1つはスポーツをやっていた時にコーチに食事をしっかり摂るように言われたから。……もう1つは……」
「あっ」
その時急に一ノ瀬が叫んだ。
「どうしたの一ノ瀬くん」
黒岩が聞くと立ち上がった一ノ瀬が答えた。
「時間だ。まずい。帰らないと。桐生いつも美味しいご飯ありがとう。あとディアのことも」
鞄を手に取ると、ディアという猫に別れを告げ桐生家を去って行った。
台風が一気に通り過ぎたような速さに、呆気に取られた黒岩はミャオと猫が鳴く声で我に帰った。
「えーっと一ノ瀬くんっていつもあんな感じなの」
桐生は笑いながら答えた。
「まぁいつもそうだね。彼忘れっぽいから」
「確かに」
散々その姿を見てきたし、巻き込まれることも多々あったのに久しぶりのことで忘れていた。
話が途中だったが、もう一度聞き返すような雰囲気でもなかったので、黒岩は食器の片付けを手伝うと帰宅することにした。
「夕飯ありがとう。僕にできることがあったら声かけて……。と言っても一ノ瀬くんや桐生くんほど何か得意なことがあるわけではないけれど」
桐生は頷いた。
「いや、そんなことないさありがとう」
桐生家を後にするが、まだ夜には明るすぎる空を見上げて自宅へと戻っていった。
黒岩は祖父からもらったノートに一ノ瀬の知らなかった一面を見た時のことを書き記した。
一ノ瀬優とは結局何者だったのだろうか。
一ノ瀬が亡くなった現在、幻だったと言われても納得してしまう。
学校で一ノ瀬が1番中良かったは桐生だったのだろうか。明日にでも桐生に会いに行ってみようかなとそんなことを思い瞳を閉じた。
翌朝少しだけスッキリした気分で目覚めた黒岩は、祖父の元を訪れて感謝をした。
そのまま一緒に早朝ランニングに行く。
昨日まで澱んでいた道は少しだけ、陽の日差しを受けて明るくなったようだった。
「知り合いが亡くなるというのは、ワシだって辛い。歳を取って雅よりもたくさん経験したって、辛いものは辛いんだ。忘れるんじゃなくて、たくさん思い出してやれ。そしてもし何か後悔していることがあるなら、その後悔をしないように日頃から意識して過ごすといい」
祖父はランニング終わりに自分にも言い聞かせるかのように、そう語った。
「ありがとう」
放課後桐生のクラスを訪れる。
「桐生くん時間ある?」
「あっ雅じゃん」
桐生を呼んだはずなのに、野枝が返事をした。
「どうしたの黒岩」
黒岩は教室へ入ると桐生と野枝の席に近づいた。
「あのさ猫元気?」
桐生が息を呑んだのを感じた。
「あ、あぁ元気だよ。見にくるか」
「えっ雅ディアの事知ってるの?」
野枝がなんで知ってるのという表情を向けてくる。
「野枝くんがいない間に何回かお邪魔してるからね」
「えーちょっと、俺がいない間に仲良くなってるの」
「そうだぞ。楓がいない間にな」
桐生が意地悪な笑みを野枝の向けた。
「はぁ。お前だいぶ変わったよな」
野枝は海外留学していた1年の間に、変わってしまった友人に対して少し寂しそうだ。
「そういうお前は変わらないな」
桐生が即答すると野枝は「いや身長だって2センチ伸びたし、あっちでもたくさん友達作ってきし」と少し拗ねた様子だ。話に混ざれないでいると、桐生がこちらに話題を振ってくれた。
「それじゃあそろそろ家に行こうか」
2人とも荷物をまとめ始めたので、黒岩も自分のクラスから鞄を持ってくると桐生宅へ向かった。
「ほっ。ほっ」
桐生は慣れた様子でおもちゃを振り始める。それを追いかけるようにディアが動き回っていた。
「元気そうだね」
桐生と黒岩は少し離れたテーブルから1人と1匹の様子を見ていた。
「あぁでも前よりも大きくなっただろう」
確かに数ヶ月前に見た時よりも大きくなっていた。
「そうだね。でも一ノ瀬来なくなって少し寂しいんじゃ……」
ハッとして言葉を飲み込んだ。
「ごめん」
謝罪する黒岩に野枝が反応した。
「っほんと。一ノ瀬亡くなったの信じられねーよ」
野枝もまた黒岩と一緒で受け入れきれていないようだ。
「くそっ。なんでだよ……。はぇーだろ……早すぎるだろ」
「颯ディアが驚くだろ」
声をあらげた野枝を桐生が嗜める。
「本当に……」
「事故で即死だったって……。そんなの信じられるわけねぇよ」
葬儀等は近親者のみで行なったようで、僕達は一ノ瀬が事故に巻き込まれて亡くなったとだけ聞かされただけなのだ。
「僕明日行ってこようかな」
一ノ瀬が事故に遭ったのは鎌倉なのだ。学校終わりに行けなくはないが、少し遠い。
クラスメイト達も実際に事故現場に足を運んでいる人は多くないだろう。




