EP 2-4 黒岩編
生徒会選挙も終わり夏休みは目前に迫っていた。
選挙の結果、桐生が生徒会長で獅童が副会長となった。
「一ノ瀬くん」
黒岩は図書室から出てくる一ノ瀬を見かけると呼び止めた。
「どうしたの」
「あの。聞きたいことがあって」
一ノ瀬は黙って見つめている、話を続けてもいいようだ。
「最近桐生くんと仲がいいみたいだけど、生徒会の選挙もサポートしてた?」
この数ヶ月でそこまで変わるとも思えず。また一ノ瀬っぽいと思ったので聞いてみた。
「あぁ表立っては動いてないけど、相談に乗ったりしていたよ」
「やっぱり。街で見かけたのもその打ち合わせだったの」
一ノ瀬はなんのことだがピンときていないようだったが、テスト最終日の放課後だと告げると何か思い当たるものがあったようだ。
「いやあれは別件というか、その延長かな」
「延長?」
「あっいいや。ちょうど桐生のところへ行くんだ」
一ノ瀬は黒岩を置いて、歩き始めてしまった。なんとか後を追うと人があまり来ない視聴覚室へとやってきた。
「ここで何をするの」
疑問に思った黒岩は一ノ瀬に続いてそっと室内へと入る。
「一ノ瀬くん……。とあれ?黒岩くんもいるの」
「あっやっぱりまずかった。出て行こうか」
急な来訪者に驚いた桐生だったが、退屈かもしれないけどと言って許可してくれた。
「時間もないし始めようか」
桐生の言葉で急に何かが始まった。
「まず投票率について、今回は半数の人間の得票率を集めることができたので、生徒会長になることができた。効果のあった方法についてだけど」
そう言って2人はデータを元に今回の生徒会選挙についての振り返りと反省をした。
やはり一ノ瀬は桐生をサポートしていたようだ。黒岩は2人が話し終えるのを静かに聞いていたが、黒岩も投票の決め手にしていたポイントがあり、まさしく2人が立てた戦略にハマっていたことがわかった。
「それじゃあ1年間頑張ってね」
一ノ瀬と桐生は握手を交わした。
「そうだ。今日行くよな。黒岩も連れて行っていい」
「それは構わないけど、何かあるの」
「いや特にはないんだけど」
「まぁいいんじゃない。黒岩アレルギーある」
2人がなんの話をしているのかはさておき、桐生の最後の質問だけは答えることができた。
「いや特には」
「じゃあOK。行こうか」
2人についていくと、以前2人が綺麗な女性と共に入っていった建物だった。
「ここ僕も入って大丈夫なの」
桐生と一ノ瀬に確認する。
「あぁ先に連絡入れてるし大丈夫」
そう言われて案内されるがままに、部屋の一室へとやってくる。
ピーンポーン。
桐生が鳴らすとしばらくして、以前遠くから見かけた緩くウェーブがかったチョコレートのような髪の女性がキャミソールに短パン姿で出てきた。
「うわっ」
女性に耐性のない黒岩は叫んでしまった。
「そんな格好で出てくるなよ」
桐生がその女性に告げる。
「ごめんごめん」
女性に気を取られていた黒岩はミャーミャーという猫の鳴き声が近くから聞こえることに気づいた。見渡すと一ノ瀬が子猫を抱いていた。
「うわぁ可愛い」
「いいから取り敢えず中入ってくれる」
女性に誘われて全員室内へと足を踏み入れる。
「失礼します」
最後に家に上がった黒岩は小さくそう呟くと、緊張した。何せ若い女性に免疫がないからだ。
「これで荷物全部かな?」
桐生がまとまっている荷物を確認する間中、一ノ瀬は猫を撫で回していた。
「えーなんでそんなに懐いてるの。私全然触らせてもらえなかったんだけど」
女性が一ノ瀬を見ながら驚いている。
「あー。一ノ瀬が拾ったから、親と間違えてるのかもな。俺もあんまり触らせてもらえない」
事情が飲み込みきれていない黒岩だが、おそらく一ノ瀬が猫を拾い、何かの理由でこの家に数日預かってもらったというところだろうか。そしてこの女性は桐生の知り合いのようだ。
「ありがとう。今度ご飯ご馳走するわ」
「よろしくー。でも猫可愛かったからまたいつでも連れてきていいよ」
そう言って猫にバイバイと手を振る女性の家を後にした。
「ねぇさっきの人誰なの」
桐生に尋ねると「姉」と短く答えた。
「そっかそうだよね。恋人だったらどうしようかと思った」
正直桐生に大学生の恋人がいても、あんまり驚かない自信がある。
「はは、誰かが姉と一緒にいるところを見て恋人がいるって学校で騒いでたな」
懐かしそうに告げる桐生。
「訂正しなかったの?」
「訂正したよ。好きな人いるしね」
サラッと告げた桐生に驚いて返事がすぐに返せない。
「ねぇ今日もちょっと遊んで行っていい?」
一ノ瀬はケージに入った猫を見ながら、いつになくニコニコしていた。
「もちろん。ご飯も作るから味見して行ってよ」
「いつもありがとう」
なぜか。桐生家で一緒に夕飯を食べる流れになった。
「あのどうして桐生くんが猫引き取ったの?」
一ノ瀬が拾ったのなら、一ノ瀬家で飼えないのだろうか。
「俺あんまり家にいないし、可哀想だからさ」
おもちゃで猫と遊びながら、一ノ瀬が答えた。
「まぁ俺が引き取ったのはたまたまかな。一ノ瀬が動物病院の前でウロウロしていたから声をかけたんだ」
「へぇーじゃあ一ノ瀬の家もこの近くなんだ」
「うん。そう」
「全然顔合わせることもないから気づかなかった」
黒岩も学校から割と近いのだが、一ノ瀬も桐生にもあったことがなかった。
「まぁ案外そんなもんだよな。駅までの道だとよく人に会うけどな」
「確かに」
黒岩は頷く。




