EP 1-3 充編
「そこで”✖️”押して。連打連打」
充がボタンを連打すると、画面に映し出されているプレイヤーが銃を連射した。それに合わせてコントローラーが振動するので、充は本当に銃を撃っているようなそんな気分を味わえた。
隣で熱が入った三好は上手くいかないと一緒に落ち込んでくれた。
細山は従兄弟の家では触ることがあるらしく、数回触ったら動作が安定していた。
充は攻撃のタイミングやキャラクターの方向転換させる操作が苦手で何度もキルされた。
それでも時間が許す限り交代でプレイした。
「すごい楽しかった」
昼過ぎに来ていたのにあっという間に時間が過ぎていた。
「また来てちょうだいね」
三好の母に見送られ、細山と2人で駅に向かう。ゲーム機が欲しくなって細山に値段を聞いてみた。
「ゲームって楽しいんだね。あのゲーム機っていくらするの?」
「うーんと確か7万とかだったような。俺はクリスマスにサンタに頼んだら違うの届いたぜ」
「そんなに高いんだ。さすがに買えないね」
「なー誕生日で買ってもらえる金額じゃないと思うんだけど、何したら買ってもらえるかな」
「さぁテストで1番とったらとか?」
「うちの親はそれだけじゃ買ってくれなそうだな。とりあえずは携帯でできるので我慢するしかないかなー」
「携帯でもできるの」
携帯でもできるのであれば、充でもゲームをすることができる。
「あるよー。っても全く同じのはないだろうけど」
「そうなんだ調べてみるよ。ありがとう」
「じゃあまた月曜日」
反対方向の電車に乗るので、細山と別れると電車に乗っている間中、ゲームを調べていた。
「充また寝不足なの?」
細山が呆れた様子で声をかけてくる。
「うん。気づいたら空明るくなり始めてた」
「親に怒られねーの?」
「さぁみんなあんまり家にいないからよくわかんない」
細山が心配してくれたが、充を叱ってくれる人は皆忙しく家にいない。
「課金だけは気をつけろよ」
「課金?」
充は今のところ無料の範囲内でゲームを楽しめているが、課金は危ないのだろうか。
「あぁ1回課金すると、あれもこれもとどんどん欲しくなってさ。父さんもゲームするから履歴でバレてだいぶ怒られた」
三好は怒られた時のことを思い出したのか、眉に皺を寄せた。
「そっか。僕も気をつけよう」
母を怒らせた時の記憶が蘇り、身震いがした。
ある日、帰宅すると玄関に見たことがない靴が置いてあった。母の知り合いなら薄汚れたスニーカーなんて履かないよな。そうなると父の知り合いだろうか。恐る恐るリビングの扉を開けるとキッチンに知らない女性がいた。
「あ、えっと」
充は口をもごもごすると、母よりも年上そうなその女性は近寄ってきた。後ろに下がると女性は謝罪した。
「怖がらせてしまってごめんなさいね。私家事代行をしている三上と申します」
三上さんは近くのテーブルの上に名刺を置いた。僕は三上さんが台所に戻るとそっとその名刺を手に取り携帯で会社名を検索した。
すぐに検索結果が表示され、1番上に名刺に書かれていた”スマイルサービス”という会社のWebページが出てきた。不法侵入した人ではないことに安心したが、充は知らない人と話をするのが苦手なのだ。
「よろしくお願いします」
小さく挨拶するとすぐに階段を登り、自室に引き篭もる。
代行を依頼したと言うことは、母は仕事を優先すると言うことだろうか。夕飯を手伝おうと思っていたのにその手伝いは不要になってしまった。
あと家族のために充ができることはなんだろうか。その答えをまた1から探さなければならなかった。
「兄さん」
久しぶりに兄が早めに帰ってきた。充は喜んで兄の元へかけて行ったが、兄の表情はどこか暗く充の方を見ていなかった。
「体調悪いの?大丈夫?」
充が心配で声をかけに行くも、鋭い眼光で睨まれてしまった。
「どけっ」
充の問いかけには答えず、重い足取りで階段を登って行った。
東京に来てから兄もすっかり変わってしまった。その変容ぶりに充は、胸が痛んだ。また優しく笑いかけてくれる日が来ないかと願わずにはいられなかった。
しかし兄もまた充の願う方向へは進んでくれなかった。
その夜はゲームに熱中しており、気づけば23時を回っていた。急いでシャワーを浴びに行こうと廊下に出た時にたまたま兄と遭遇した。
シルバーとグレーの混ざったような色合いの髪に、耳にはジャラジャラとピアスをつけ、少し大きめのシャツに細身の黒いパンツ。そして手には少し青みがかったサングラスを持っていた。
「あっ」
充が声を漏らすも、兄は何も言わずに部屋に入って行ってしまった。
充はその衝撃にヘナヘナと床に座り込んでしまう。
どうして。兄にいったい何があったと言うのだろうか。
翌日学校で充は三好や細山に兄について相談してみることにした。
「気づいたらお兄ちゃんが不良になってるみたいなんだけど、どうしたらいいと思う」
「どうって?充はどうしたいのさ」
「前の優しいお兄ちゃんに戻って欲しい」
充にとって兄は頭が良くて優しい存在なのだ。誰が兄をあんなふうにしたと言うのだろうか。
「でもさ、それがお兄さんにとっていいことなのか。もしかしたら自分を守るためにそうしてるって可能性もあるだろうし」
「それにSNS見てても高校生なんて、俺らとそう変わらないって。ふざけた動画いっぱい上げてるし、お兄さんも遊びたいんじゃないの?」
「でも」
充はそれでも自分の兄だけはずっと自分を導いてくれるような存在であって欲しいと思った。
「今までが優しかっただけで、疲れたんじゃないの。俺は妹に散々怒ってるよ」
「そうだよ。お前は兄に執着しすぎなんだよ」
細山のその言葉が深く突き刺さった。兄さんは疲れてしまったのだろうか。




