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消失点のその先に  作者: 白雪 凛


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EP 1-4 日陰編

”おはようございます”

朝7時に陽からチャットが来ていた。しかしこれをみたのは午前10時。

さすがにいきなり生活習慣は変えられない。

いつも通り階下へ降りシャワーを浴びると朝昼ごはんを探しに冷蔵庫へ向かう。

「おはようヒロくん」

「おはよう」

ちょうど食器を洗う祖母がいた。俺は祖母を横目に戸棚に入っているカップラーメンを手に取ると、白米を追加してからお湯を注ぐ。

居間に移動すると適当にテレビのチャンネルを変える。

ちょうど浅草再発見という特集がやっており、スタジオにいる人が美味しそうにたこせんや天ぷら、ポテトなどを食べていた。

「いいなぁ〜俺も食べたい」

お店の名前をメモのアプリに記入する。食べたいものは勝ったら食べようと思っているので、ここ数年分溜まっている。

「ばーちゃん。何かやることある?12時までなら何か手伝うよ」

12時になるまで40分くらいしかないけど。

「あらそれなら庭の雑草抜いてくれる。と言っても外暑いから無理しないでいいわ」

「大丈夫少しくらいなら」

サンダルを履き庭に行くと、軍手と雑草の入った袋があった。

「あっつー」

まだ外に出て5分も経っていないのにすでに汗が身体中を流れている。またシャワー浴びないとだな。



祖母の手伝いが終わると、クーラーの効いた部屋で盤面と向き合う。携帯は高かったものの対局を携帯で見れるのはありがたい。画面が小さすぎるというのは欠点だが。

動画を見ながら、どのように駒を動かすのか先読みしながら、時には動画を止め、なぜそこに置いたのかを考える。

なるほど。と思う時もあれば何だったんだと思う時もあった。

こうして俺の1日は過ぎていく。



夕方陽から連絡が来る。

"スケジュールどこまでできました?"

ふむ。そう言えば忘れていた。朝起きた時は覚えていたのだけど、祖母の手伝いをして動画を見ながら研究しているうちに完全に存在を忘れていた。

"すまん忘れてた"

言い訳したところで意味などない。

"わかりました。取り敢えず23時には布団に入ってください。あと1時間前から携帯をいじるの禁止です"

"りょーかい"

返事をすると携帯を閉じた。



夕飯を食べ終えると、一瞬陽が作ったスケジュールを思い出すも、食事中にふと浮かんだ戦法について深掘りしたくなり、将棋盤の前に座りその後の相手の動きであったり、もし自分がこの状況に追い詰められたらどうするだろうかと思案するのに熱中してしまった。

ふと現時刻を確認すると、23時なんてとっくに過ぎていた。

「やべぇー早く寝たいところだけど、まだ頭冴えてて寝れそうにないんだけど」

取り敢えず眠くなるまで、もう少しもう少しと自分に言い聞かせた。

「さてそろそろ寝よう」

満足して時計を見ると午前3時になるところだった。

「取り敢えず寝るか」

何も考えず眠りについた。



さてもちろんおわかりだろうと思うが、午後14時に目を覚ました。

ご丁寧に朝7時には陽からの連絡は入っていた。しかしもう1件追加で連絡が来ていた。

"睡眠時間は一旦忘れてもらっていいので、ノルマの進捗だけメモしておいてください"

睡眠時間をいきなり変更するのはハードルが高くてやる気が起きなかったのでありがたい。進捗確認だけでいいならばまぁなんとかなるか。

"メモだけでいいの?"

まめなタイプではないので毎日の報告なんて無理だとは思っているが、一応確認してみる。

授業中だからしばらくは返信来ないだろうと、いつも通りシャワーを浴びて朝昼ごはんを食べに行く。


「ヒロくん。おじいちゃんが来れたら教室の方に来て欲しいって言ってたわよ」

祖母から言われ、将棋教室をやっている部屋まで足を運ぶ。

「じいちゃーん何か手伝うことあるの」

襖を開きながらそう声をかけると祖父は誰かと対局中のようだった。

「あっごめん」

小さく謝罪すると、祖父が手招きした。

祖父と対局している人物の後ろ姿を見て心臓が跳ねた。よく知った人物だ。

今すぐにでも襖を閉めて部屋に戻りたい。しかしこのチャンスを逃したら、当分逃げ続ける気もした。

意を決して部屋に入ると静かに襖を閉めた。

少し離れたところから、祖父と師匠の対局を見守る。



「参りました」

祖父がそう告げると緊迫した空気が急に柔らかくなった。しかし実際は一瞬だけ。

師匠がこちらを向きそうだったので、俺は畳を見つめた。突き刺さる師匠の視線に身動きが取れなくなっていた。

「ヒロ何やってるんだ。ちゃんと挨拶しなさい」

祖父に促され、挨拶をする。

「えー長い間顔も出さず……。申し訳ございませんでした」

師匠は何も言わない。しばらく沈黙が続いた。祖父はどこかへ行ってしまった。

「そこに座れ」

師匠から合図され先程まで祖父がいた場所に座る。視線はまだ合わせられない。

パチッ。パチッ。駒を動かす音が聞こえ視線を上げる。しばらく見守っていると声をかけたれた。

「さて、洸斗お前ならここからどう攻める」

俺は師匠から出されたお題に対して頭をフル回転させる。

「こうか。いや違う。それだと相手が…」

実際に駒を動かし、考えるもなかなかいい方法を思いつけない。



「良い方法を見つけたら、また顔を出しに来い」

結局あれから2時間以上悩んだものの納得のいく答えが出せずにいた。

「あ…ありがとうございます」

喧嘩をしてから、なかなか成果を上げることができず気まずかったのだが、師匠から会いに来てくれた上にまた会いに行く口実を作ってくれたことに感謝した。

師匠はすでに解を持っているのだろうか。それともまだなのだろうか。

写真に撮ると後片付けをして、祖父にもお礼を言った。



翌日の夕方

陽がやってきた。

「よぉ」

陽が作ってくれたスケジュールは全然守らず、こなせた言われたことも全然やらなかったので少し気まずかった。

「はぁ〜」

陽はため息をついた。

「ご…」

謝罪をしようとすると陽に話を遮られた。

「冗談ですよ。俺が悪かったんです。もう少しヒロさんの意見を聞くべきでしたね」

「でも…」

せっかく時間を割いて考えてくれたのに、それを無駄にしてしまったのではないだろうか。

「はいはい。反省してないでどうすればうまく行くのかを考えましょう」


部屋に着くと陽から普段の睡眠時間やどういう時に時間が経つのが早いのかなどを聞かれた。

「頭を使っているので睡眠時間が長くなるのはわかりました。でも食事と運動だけは改善しないとですね。食事は1人ではどうにもできないと思うので、作ってもらってください」

「はい」

祖母にこれ以上負担をかけさせたくないが、手伝える時は手伝うしかないか。

「運動は以前も言ったんですが散歩でいいです。できれば自然が多いところがいいんですけど」

「それなら裏庭じゃダメか」


陽を裏庭に案内する。

「おぉ意外と自然ありますね。でもさすがにこれだけだと散歩って感じではないんですよね」

どうしようと考え込む陽。

「確かに一日中家にこもってることがほとんどだからなー」

「今はまだいいかもしれませんけど、確実に太りますからね。その習慣続けてると」

「はいはいわかってますよ。それにしても運動かー。駅前とか行けばフィットネスジムとかあるけど」

「お金かけてちゃんと通うならいいですけど、できそうですか」

運動もしてなかった上に、家からわざわざ駅の方まで運動するために行くのか。

「最悪縄跳びとかでもいいですよ。それならここでも十分できそうですし」

「縄跳びねー。この暑い中外に出てやれってこと」

「それだと冬になったらこの寒い中外でやるのとか言いそうですね」

「ははよくわかってるー」

「それなら適度な散歩、まぁ買い物とかでもいいです。それと室内でできる筋トレならできそうですか」

「あぁまぁそれくらいなら」

その後陽は俺の話を聞きながら一緒に生活習慣改善の目標を立ててくれた。


「あとは、将棋が強くなるってことなんですけど、目標ありますか。誰を倒すとか。どのタイトルで勝利するとか」

「あー確かに誰にでもいいからとりあえず1勝しか考えてなかったな。大きな大会じゃなければあるね」

「どうして大きな大会を避けるんですか」

急に痛い所をつかれる。

「えーっと」

まっすぐこちらを見つめる陽に隠してもダメかときちんと答えることにした。

「俺大きな大会で連続で1回戦負けしてから、ちょっとトラウマというか、あんまり挑みたくないなって」

「ちなみにその大会はいつあるんですか」

「9月だったかな。予選は」

「それならまだ時間あるじゃないですか。一旦それを目標にしましょう。そこで1勝するって」

「えっでも」

「大丈夫。信じてください。自分自身を。2ヶ月でも変われるって」

まだ怖い気持ちがあったものの、俺は頷いた。


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