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境界の魔女の遁走曲  作者: キクル
前奏:信仰を喰らう花の園
9/14

歪み

 重苦しい教会の扉を開け、朝の日差しに身を晒す。


「はぁ……やっとまともな空気が吸えるわ」


 深く息を吐き出し、大きく息を吸う。

 あの神聖な空気はどうにも苦手だ。


「資料館ね……」


 取り出した花を見ながらため息をつく。

 誰かの手のひらの上で踊らされるのはごめんだが碌な情報がないのも確かだ。


「はぁ……それにしてもレティシアはどこに」


「呼びましたか?」


 ため息混じりに隣を見ると普段と変わらない笑みを浮かべたレティシアが立っていた。


「はぁ……今更驚かないけど、なんで私がここにいるってわかったの?」


「ふふ、なんとなく、ロザネラさんならここにいると思いまして」


 再びため息をつき、首を傾げるレティシアを睨んだまま、資料館へと足を進める。


「……で、朝からどこに行ってたの?」


「少し武器屋の方に」


 特に行き先も聞かずついていくレティシアが昨日拾った黒い布を差し出す。


「ソレ、どうやら帝国軍が使ってる物みたいですよ」


「はぁ……面倒ね」


 帝国。

 目的のためなら手段を問わない、敵に回すととことんまで面倒な相手だ。


「店主さんが言うには暗殺目的にしては過剰すぎる魔法陣の量らしいですね、魔王でも殺すつもりかって言ってましたよ」


「帝国の次は魔王って……次から次へと」


 レティシアが集めてきた情報はどれも頭が痛くなる代物ばかりだ。


「対魔王級の装備……ふふ、どれほどのものなのか……ぜひ体験してみたいですね」


 そっと剣に触れ微笑むレティシアを横目に先に進む。


「勝手にしなさい、私は花神祭について調べたいから資料館に行くわ」


「花神祭ですか?」


「……そうよ、教会の神父の話だと数年前から祭りの日に妙なことが」


 その話題を出した途端、何かに見られたような不快感が肌を刺す。


「……ロザネラさん」


「分かってるわ」


 妙な視線、それも一つや二つでは無い。

 あの追手や魔女とは違う、悪意や敵意のこもった不快感。

 それはまるで異端を見るような……


「ふふ、どうしましょうロザネラさん?」


 楽しげに口元を歪め、見慣れない剣に手をかけるレティシアが青い目を細める。


「……先を急ぐわよ」


 まだ帝国からの追手がいる以上、下手に騒ぎを起こせば面倒なことになるのは確実だ。

 目的はわからないがまだ手を出してこないなら騒ぎを起こして余計な敵を作りたくない。


「……そうですか、分かりました」


 どこか残念そうに肩をすくめながらレティシアが後に続く。

 すれ違う人々の中にいくつか混じる不快な視線に顔を顰めながら足を進める。


(花神祭……一体何が……)


 村の中心地から離れるにつれ、人混みと共に不快な視線も薄らいでいく。

 やがて建物の数は減り、道の両脇に木々と草花が目立ち始めた頃――

 それは、ひっそりと姿を現した。


「……あれが」


 静かな自然の中に佇む、不自然なほど綺麗な館。

 村の雰囲気から逸脱したその館は、日差しがさしているにも関わらずどこか影が落ちているように感じる。

 ……耳元をすぎる風の音が、頭の中でこだまする。


「……ロザネラさん」


 風の音に誘われるように歩き出すシスターの背を、騎士は静かに追いかけた。

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