光に透かされ
村はずれの小さな武器屋。
ギィッ、と古びた音を立てて扉が開き、レティシアがゆっくりと店内へ足を踏み入れる。
「ふふ」
所狭しと並ぶ武器や防具。
そのどれもが丁寧に手入れされ、静かに主を待っている。
店内をショーウィンドウでも眺めるように見渡していたレティシアは、奥で何かを探すようにしゃがみ込む男の姿を見つけた。
頭を掻きながら立ち上がった黒い耐熱エプロンに身を包む大柄な男、その姿はどこか鍛冶屋を彷彿とさせる。
「あーすまんが、頼まれてたやつはまだ用意できてねぇ、また後で来てくれ……ん?」
物珍しげな視線を向ける店主と首を傾げたレティシアの視線が交差する。
「あー……すまん嬢ちゃん、てっきりあのコートのやつかと思ったわ」
「ふふ、大丈夫ですよ」
数秒の沈黙と短い応答、店主が気まずそうな笑みを浮かべる。
「何か探し物ですか?」
そんな気まずい空気を気にする様子もなくレティシアが店主の持っていた箱に視線を向ける。
箱の中には何かの素材が詰め込まれているようだ。
「ん? ああ昨日来たコートのやつが銃弾を探してるらしくてな」
次の箱を引っ張り出しながら店主が深いため息をつく。
「剣や斧ならわかるが、銃なんてな……今どき珍しいもんだ」
「そうですね、あの武器は色々面倒ですし。今じゃ防具に施された魔法も貫けません」
かつて境界の魔女がもたらした異界の武器、銃。
火薬を利用して放たれる鉛の弾は最初こそ脅威になり得たが今となってはほとんど見かけない。
防御魔法の発展により今や殆どの防具には銃弾を防ぐ魔法が込められている。
「まぁ浪漫があるのはわかるがこんな田舎に銃を使うやつがいるかっての」
愚痴を吐きながら、箱の中を見終わったのか一度探す手を止める。
「さてと……嬢ちゃんはなんのようだ? その格好、ただの観光客って訳じゃねーんだろ?」
店主の目がレティシアの鎧に刻まれた王国の紋章に向けられる。
端とはいえここは帝国領、現在表立って敵対している訳ではないが王国の紋章をわざわざ見せながら歩いていれば面倒ごとは避けられない。
それを全く気にしないという事は、それなりのお偉いさんか……そもそも王国に属してないかの二択だろう。
「ふふ」
店主の問いにレティシアはただ笑みを返すとカウンターに黒い布の切れ端を置いた。
「これは?」
「昨夜拾ったものです、なかなか面白そうなものだったので少し調べていただけないかと」
「ふむ……」
カウンターに置かれた布を手に取り店主が興味深そうにしらべはじめる。
「帝国軍御用達の布か……懐かしいな。昔よく扱ったが、そういやあのコートもこれと似た生地だったな……」
懐かしむように目を細めながら店主が布を優しく撫でる。
「やけに分厚いくせに防御向きじゃねぇ。……隠密用のマントか? にしては、やけに凝った細工が……」
布を光に透かしたところで店主の男が絶句する。
「どうしましたか?」
「嬢ちゃん」
店主が呆れたような笑みを浮かべる。
その様子を変わる事なく微笑みのままレティシアがじっと見つめている。
「とんでもねぇのに目をつけられたな」
光に透かされた黒い布に、無数の刺繍が浮かび上がる。
幾重にも折り重ねられた布に描かれていたのは、極小の魔法陣だった。