第7話 道のりは長くとも
解呪が成功し、安全を確保できるようになりましたので、昨日早速清掃スタッフに入ってもらい、部屋中を綺麗にしてもらいました。
今日はちゃんと話もできますから、メンターとしての本業を実行しなければ。
そう気合いを入れて、扉を開けました。
ですが……
「殿下?」
今日も殿下のお姿が見受けられません。
相変わらず部屋の中は真っ暗で、カーテンが閉じられていました。
「もしかして、お一人でどこかにお出かけになったのでしょうか?」
私は近くにいたリドーにそう尋ねました。
「いえ。殿下はお一人では出かけたりしません。長年のひきこもりをなめてはいけませんよ」
「え?」
どういうことでしょう。
とにかく部屋の中にいらっしゃるということなので、探してみることにしました。
まず、カーテンを開け放っていきます。こう暗くては気持ちも落ちてしまいますし。
一通りカーテンを開けたところで、
「殿下~、どちらにいらっしゃるのですか?」
まるで迷子の猫でも探すように、隙間に気をつけながら探していると。
いた。
部屋の隅にある本棚の影に、何やらシーツの塊が。
「殿下、失礼します」
そうしてシーツの塊を剥がすと。
「探さないでください」と書かれたクッションが。
「くっ……一体どこに?」
辺りを見回しても、他にそれらしい姿はない。
私はもしやと思い、魔力を目に集中させる。
すると。
「殿下!」
王子は魔法で自身の姿を透明にしていたようで、ソファの上に普通に座っているではありませんか!
「見つけましたよ! 今日こそ話を聞いていただきます!」
「帰ってください!!」
「え?」
そのリアクション、呪術のせいじゃなかったの?
軽い絶望が私にのしかかり、一瞬使える中で一番強力な魔法をぶつけそうになりましたが、そこは大人の対応で冷静になることにしました。
「殿下」
「私は人と話をするのが苦手なんです!」
そう言うと、テーブルの上に置いてある手紙を指さしました。
私は王子の様子を伺いながら、そっとその手紙を手に取り、広げました。
「シエラ様 昨日はありがとうございました。まさか解呪をしてもらえるとは思いませんでした。命懸けの解呪、感謝してもしきれません。昨日は嬉しさのあまり眠れなかったほどです。口で感謝を伝えるのは苦手なので、こうして手紙を書いておきます。本当にありがとうございました。私にかかった魔法を解呪した関係で、あなたに危険が及ぶ可能性があります。どうか、ご自身のことを優先してください」
え? 二重人格?
そんなことすら思うほど、目の前で頭を抱えて震えている男性と、この綺麗な字の手紙の内容が異なっていて、動揺してしまいした。
「あの、失礼ですが、手紙はあなたが書いたのですよね?」
「だからなんだっ!!」
「いえ、殿下が書いてくださったのであれば良いんです」
とりあえず攻撃されることはなくなったわけですし、単にコミュニケーションが苦手というなら、少しずつ慣れていけば改善できるかも。
そう前向きにとらえ直したところで。
危険が及ぶ可能性、か。
確かに、呪術をかけた何者かが、邪魔者と認識して私に攻撃してくる可能性は十分考えられます。さて、どうしましょうか。返り討ちにしたいぐらいですが、そもそも、返り討ちにして良い相手かどうかもわかりません。
第二王子に危害を加えるような人物。
それは他の王族の可能性も考えられます。
むしろそうなんでしょうね。
何でもするような相手。とても危険な案件。
でも。
「私は逃げませんよ」
この仕事を引き受けた以上、絶対にあなたを社会復帰させてみせます。
「たとえ相手が、誰であったとしても」
私が私であるために、全力前のめりで、難しい道へ。