第6話 運命には立ち向かえ
解呪の魔法を唱え始めると、王子から更に強い火花が放たれ、防御結界がみしりと嫌な音をたて、壊れました。
その次の瞬間トゥイールが結界を張り直し、何とか体勢を保ちつつ、私は呪文を唱え続けます。
そうして解呪の魔法が完成し、王子をその魔法が包み込みました。
それと同時に、どくんと私の中に、何かがうねるような不穏な気配がしたかと思うと、次の瞬間、体中に激しい痛みが。
普通ならその痛みで気絶してもおかしくないのかもしれませんが、こちとら痛みは闘病で慣れたもの。
このくらいで、負けてたまるものか!
痛みに耐え、解呪の魔法を張り続けるうちに、王子から火花が消えました。
それと同時にトゥイールは防御を解き、私に向かって慌てて回復魔法を使い始めました。流石回復魔法のプロ、処置は早く、私はぼんやりとした意識の中、彼らが私を呼ぶ声だけがかすかに聞こえて……
◆ ◆ ◆
暗闇の中。
まるで黒い霧の中。
そこを一人、ぽつんと歩く私。
どうしてここにいるのでしょう?
そんな私に、黒い霧が言う。
「無理をするね」
そうでしょうか?
「そういうの見てると、放っておけないんだよね」
声は少し楽しそうで、それがちょっとだけ意外でした。
私がまだそこに立っていると。
「早く戻るんだ」と、優しい声で黒い霧は囁く。
どこへ?
私はそう答えた。
「本当は、わかっているはずだよ」
◆ ◆ ◆
目が覚めると、そこは王子の部屋で、それほど時間は経過していないようでした。
「大丈夫?」
トゥイールが心配そうに尋ねますが、特に問題はなさそうです。体中の痛みも引き、違和感もなし。
「大丈夫です」
私はトゥイールにそう答えました。
「殿下は?」
私は王子の様子が気になり尋ねると。
「殿下はまだ眠っているよ。魔法の使い過ぎで疲れたみたい」
ベッドの上で、殿下は疲れ果てて眠りについているようでした。
「本当にもう大丈夫?」
「ええ。ひとまず何もないです」
「それは良かった」
私は自身の両手を見て、傷一つないのが意外でした。全身に傷がついていてもおかしくなかったのに、彼が頑張ってくれたのでしょう。
「殿下の解呪はうまくいったのでしょうか?」
「うん、問題なさそうだよ。僕が見た限りはね」
「良かった……」
私はホッとして、思わず小さなため息が出ました。
「ホント、無茶するよね」
そう言ってトゥイールは小さく笑い、私も笑顔を浮かべます。
「何と言いますか、絶対大丈夫という、確信があったので」
「それは、魔法学的な意味で?」
「いえ、自分の運と、あなたの仕事人としての力を信じていたんです」
私がそうはっきり言い放つと、トゥイールは私の肩をぽんっと叩きました。
「無事で良かった」
彼も魔力を使って疲れたのでしょう。ふらりと立ち上がると、ソファの上に倒れ込んでしまいました。
困難な頼まれごとを前にしたとき、自分を信じ、全力を尽くせば、不思議な何かが味方してくれる。
楽に生きたいと、逃げだしたとしても、人生は同じ分の重さで迫って来る。
逃げ出さないこと。
運命に立ち向かうと決めること。
それが真実だと、私はもう、知っているから。