第5話 全力前のめりな覚悟
魔法医師トゥイールの入室許可を取るのに少し時間がかかったものの、彼を王子の元に連れて行くことができました。
それで解決できると思ったのですが……
「これは随分と複雑な魔法式だね」
トゥイールは王子が放つ激しい火花の中、淡々と言いました。
王子の魔法式をじっと見つめていたトゥイールが、何やら悩んでいるようなので、
「どうにかできそうですか?」
そう尋ねてみると、
「うーん、僕には難しいかも」
「そうなんですか?」
「君が言うように、解呪者に不可避のダメージが及ぶね。もしかしたら、即死クラスのダメージかもしれないし、もう少し少ないかもしれない。そこはやってみないとわからないけど、それ以外に解呪方法は無いな。こうなると、かけた本人でも解けないと思う」
防御結界魔法を張っているとはいえ、火花は更に激しさを増しました。
ばちばちと火花を散らし、苦痛に顔を歪ませる王子が、すっとベッドの方を指さしました。
その指さす先を見ると、本の上に一通の手紙が。
火花で燃える前に急いで開封すると、そこには綺麗な字で、次のようなことが書かれていました。
「久しぶりに人と話をしました。私のためにわざわざ来てくれたこと、話をしてくれたこと、解呪を考えてくれたこと、嬉しくて涙が出ました。だから、そんなあなたを傷つけたくありません。これ以上踏み込まないでください。私はここで、今まで通りこうしていたいのです」
私はそれを読んで、彼がこれまでどうやってここで暮らしてきたのかを、思いました。
これまでにも、対応しようとした人はいるのでしょう。
だけど、単に彼の心の問題と思われ、話すこともままならず、困った人として一人生きてきた。その孤独、悲しみを誰かに訴えることもできず、かけられた魔法のせいで訴えようにも火花で傷つけてしまう。訴えることができても、解呪をするにはリスクが伴い、諦められてしまう。命を賭けるなんてできないから、どの人にも知らなかったことにされてしまったのでしょう。それを裏切りと呼んでいいのかはわかりません。誰だって自分の命は大切です。王に正確な報告がなされず、皆が逃げ出したのも納得がいきます。
王子も納得がいったのでしょう。
ずっと一人で、誰かに頼ることもできず、孤独と戦ってきた。
それ故に、諦めている。
自分の運命、人生を。
ここで私が彼を放り出して逃げ出しても、彼は何も言わないし、それで良いのだと諦めることでしょう。誰も責めはしない。問題はない。
「そんなの」
私は右手を握り締めた。
「私のポリシーに反します!」
もし選択肢が二つあるとすれば、全力前のめりで、困難な方を選ぶ。
王子が私のことを思って、今まで通りこうしていたいとおっしゃるならなおのこと、ただ引き下がるなんてできません。
「トゥイールは、光系の回復魔法を最も得意としていましたよね?」
「そうだけど、死んだ人間は蘇らせられないよ?」
これからどうするかわかったのでしょう、トゥイールがそう忠告しました。
「わかっています」
私は覚悟を決め、解呪の魔法を唱え始めた。