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第3話 酔いの席で聞いた話

 普段、仕事終わりは買い物でもして、そのまま家に帰って執筆作業や講演会の準備をすることもあるのですが。

 今日は明日の仕事への不安から、珍しくバーに寄ってみることにしました。

 昔からよく知っているご近所のおばさまがバーテンダーを務める、渋い感じのバーになっていて、入るなり「あら、珍しい。何かあったの?」と気さくに声をかけてくださりました。

「ええ、ちょっと……」

 王子のメンターをしていることは当然言えませんので、そう言葉を濁しつつ。

「まあ、色々よね。何にする?」

「今日のおすすめは?」

「良いブルーベリーが入っているから、それで作ってあげるよ」

 そう言うと、おばさまは凍らせたブルーベリーを使って何やら美味しそうなお酒を準備し始めてくれました。私、普段あまりお酒を飲まないので、何と言うのかよくわからない呪文のようなお酒だったのですが、とても飲みやすく、一気に飲んでしまいました。お料理もおいしく、お酒もおいしく、3杯はいただいたでしょうか。

「いきなり、いきなりですよ。話しかけただけでばちばちぃって、あり得ないですよね」

 私、大変お酒に弱いのを忘れていました。酔ってしまったからでしょう、さすがに誰が、とは言いませんが、つい勢いに任せて話始めてしまいました。うん、今日は許す!

「いきなり、ね」

 一人で飲んでいた30代ぐらいの男性が、ふと独り言のようにそう呟きました。

「ばちばちはダメでしょう?」

 私はその男性、赤い髪にメガネをした男性に、同意を求めるようにそう言いました。

「まるで呪術のようですね」

 彼は淡々とそう言って、私が飲んでいるのと同じブルーベリーのお酒を飲み切ってしまいました。

「呪術?」

 私が尋ねても、彼は自分の世界にでも入っているようで、一度ゆっくり瞬きをしてから「やっぱり」とだけ呟きました。何でしょう、何がやっぱりなんでしょう。

「お会計を」

 彼はそう言うと、席を立ってしまいました。

「あのお客さん、よく来るんですか?」

 私が気になって尋ねると、

「最近、たまにね。言葉がサウザ訛りだから聞いてみたんだけど、全然答えてくれないよ。魔法の腕は確かみたいだけど」

「ふーん」

 サウザというのは、南の方のサウザ王国のことですね。かつて魔王がいた頃、サウザの勇者と聖女が、魔王を倒したとかなんとか。その後世界に平和が訪れたかと思いきや、我が国イストと隣国ウエスの戦いが起こり、先の魔法大戦が繰り広げられたわけです。ここ、テストに出るので覚えておくように! って先生が言ってましたね~。

「ちょっと飲み過ぎよ。明日も仕事あるんでしょう?」

「そうでした!」

 私がお会計を済ませてバーを出ると、空には星がきらきらと輝いているではありませんか。

 こんな美しい星空の日は……うん、とりあえずまっすぐ帰って眠ることにしましょう。


◆ ◆ ◆


 らしくもなく寝過ごすところでした。

 さあ、今日もメンターのお仕事です。気合を入れていきましょう!

 スーツに着替え、いざ、王宮へ。

「おはようございます!」

 扉を開けるなり、やはり昨日同様カーテンは閉まり、異臭は漂い、王子はどこかへいなくなっていました。

「殿下! 今日こそはちゃんと話を聞いていただきます!」

 私はそう言って、王子がどこに行ったのかを探し始めました。カーテンの裏、いない。ベッドのところ、いない。応接セット、部屋の隅、いない。

 どこを見てもいない。

「どこか別の部屋に行ったんでしょうか……?」

 私がリドーに尋ねると、彼は小さく首を横に振りました。

「まさか。王子がお一人でどこかに出かけるなど、あり得ません」

「ですよね……では、どこに?」

「ベッドの下はお探しになりましたか?」

「ベッドの……下?」

 そんなところ、そんな隙間に、人、入ります?

 そうは思ったものの、念のため覗き込んでみました。

 すると……。

「うわぁぁぁぁぁ!」

 むしろこっちが叫びたい! 王子は驚いた様子で、今日もばちばちと火花を散らし始めました。その勢いで、ベッドが吹っ飛ぶ。一応昨日のことで学習していたので、私はすでに防御結界を張っていたので無傷ですが。

 ふとその時、昨晩の赤い髪の男性が言っていた言葉が頭によぎりました。

 呪術。

 もし、王子の不調がそのせいだとしたら?

「殿下、ちょっとだけお待ちください!」

 私は王宮の外、一般の人が入れる王立図書館へと急ぎ、解呪の魔法について詳しく書かれている本を借りると、慌てて王子の元へ舞い戻りました。

 もしかして。もしかしなくても、そうなのでしょうか?

 私は本を頼りに、解呪の魔法を使うことにしました。

 解呪の魔法を何とか展開し、王子へ。

 ですが……

「やめろ!!」

 突然王子が魔法を展開し、それを妨害してくるではないですか!

「解呪しますから、邪魔しないでください!」

「やめてくれ!!」

 王子のただならぬ様子に、私は魔法の手を止めざるを得ませんでした。

 彼には何か秘密がある。

 この時の私には、まだわからない何かが。


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