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危機一髪で助けられるやつ

 ビリビリと空気が震え、鳴動する。

 そしてミリアの感情の爆発とともに暴走した魔力の波が広がった。


 さすがの私も目をつむり、その衝撃に備えたくらいだ。しかし、衝撃はいつまで経ってもやってこない。恐る恐る目を開ければ、目の前は真っ暗闇で覆われていた。疑問に思っていると、その暗闇が割れてどろどろと私とノワールの影の中へ落ちていく。私の前には尻尾を膨らませて姿勢を低くし、威嚇しているノワールがいて、彼が影の壁を作って守りについていたことに気がついた。

 それでこそこの私が選んだオスである。


「スノウ、大丈夫だった!?」

「お前のおかげでこのとおりだよ」


 ノワールに擦り寄って会場の行末を見守る。

 よく見ると会場全体に結界のようなものが張られており、至近距離にいたご主人は第四王子の魔法によって庇われ、さらに体ごと覆い被さられていて身を張った守りを受けていた。己の欲のためとはいえ、よくもそこまでできるものだと私は感心しきりである。

 なお、肝心のニールは自分の前に障壁を作ってその光景を呆然と眺めているだけであった。それなりにショックは受けているようだが、とっさに己の女を守ってやれないようではあいつもまだまだといえる。


 会場のものたちを守る結界……というより障壁はどうやら散り散りに客に紛れ込んでいた宮廷魔法士たちによるものであったらしい。メイドに扮したり、客に扮したり、女装したりなど様々な方法で紛れ込んでいたものたちが前に立って魔法陣を描いている。要するに、ミリアがなんらかの理由で魔力暴走を起こすことは事前に予測済みだったということであろう。客のものたちも事前に説明でもあったとしか思えぬほどに落ち着いて観戦している。


 確かにいつもよりも夜会に招待されている人数は絞られているように思えたが、まさかこの『パフォーマンス』を事前に了承したものだけで構成された夜会であったのだろうか? 人間たちというものは分からない。獲物で遊ぶのであれば、自分で遊んでいなくては面白くもないだろうに。こうして見るだけで満足しているのだから。


「お姉様、おやめください!」


 それから、魔力暴走を起こして頭を抱えながら苦しむミリアのもとに妹のリリアが飛び出して行った。


「おかしいじゃない! おかしいじゃない! あたしは悪くない。あたしがヒロインのはずなのに。どうしてニールはあたしを守ってくれないの!? あたしを、あたしは、本当に最初から分かってて冤罪晴らしのためにあたしに味方してたっていうの!? そんなこと、そんなことあるはずない!」


 ミリアのドレスが破れる音がする。

 彼女の背からはどんどん肥大化する青い翼が現れ、その周囲で荒れ狂う魔力の中でリリアが彼女に抱きついていた。振り回されるリリアは懸命に姉へ言葉を届けようとしている。そんな彼女に焦ったのか、王子の弟キールも渦中へと向かっていく。器用に光の障壁を張って魔力の波の中を進みながら、なんとかその青い翼を押さえ込もうとしていた。


「あの子にも、青い……羽? どうして……? 青い鳥の精霊公女は、この世に生まれ落ちた際にただ一人だけ生まれるのではなかったの?」


 その光景に驚いているのは我がご主人も同じであった。だが、すぐに我に返って彼女も第四王子を押し退けて魔法を使う。レオルは危険な中に向かうご主人を引き止めようとしていたが、それも拒否されてしまったらしい。

 リリアとシアンの魔法により、大きくなっていく青い翼が押さえ込まれ、痛むのかミリアは泣きじゃくる。癇癪を起こしたようにいろんな不満をぶちまけながら小さく丸まって駄々をこねるように。

 ニールはただただ空気であった。あの意気地なしはこんなときでも恐怖が矢面に立って足が石像のように動かないらしい。


「みゃおん」

「うなん?」

「ん〜うっ、にゃあん」


 私たちも向かおう。ノワールに提案してともに歩き出す。光の魔法で抑えることができるのであれば、私も協力くらいはできるだろう。心配するノワールについていてもらいながら、まず我がご主人のもとへ行き、そのドレスの裾を咥えて引っ張る。


「スノーボールちゃん、あなたもそう思う?」


 なにが「そう思う?」なのかはさっぱり分からないが、光の魔法を扱うリリア一人で至近距離にいるのは危険だ。ならば、魔力だけではなく本人の癇癪も治めねばなるまい。そのために、ノワールが影の魔法で魔力の荒れた部分を相殺して一本道を作り上げた。だから、目の前の一本道を走るだけでいい。


 私たちは走り、そして私はミリアの腕の中に飛び込んだ。こうされて喜ばぬとのは古今東西存在しない。そも、彼女の猫アレルギーの話は嘘であることは、街で会うなどして私に接触してくることから知っている。なので、なんの問題ないことも分かっていた。


 シアンはというと、リリアごとミリアを抱きしめて自身の光の魔法でさらに青い翼が蠢き、もがくのを押さえ込む。あれの成長は不可逆のものであるが、それ以上に暴走しようという動きを止めることはできる。


 そうして、我がご主人はミリアに対して静かに質問をした。


「あなた、誕生日はいつなの?」

「は、はあ? 意味! 分かんないんだけど!」

「いいから、教えてちょうだい」

「さ、三月三日……」

「産まれた時間帯は?」

「朝……らしい、とは、聞いたことがあるけど」

「雪の降る日だった?」

「……そうらしい、わね。それが、どうしたっていうのよ!」


 なにか確信があってのことだったのだろう。納得がいったのか、我がご主人はなにやら嬉しそうにはにかんでますます二人を抱きしめた。


「同じ年頃だと思っていたけれど、そういうことだったのですね。わたくしも三月三日の朝、雪の降る時間帯に生まれたのよ」

「は、はあ? それがなに? 誕生日が一緒だからってな……あ、そっか、そんな設定もあったわね……」

「あ、気がついた? わたくしとあなた、きっとピッタリ同じ日の同じ時間に生まれたのね! だから、保持者が死なない限りこの世に一人しかいないはずの青い翼を生えた人がこうして二人いるのよ。わたくしたち、血は繋がっていないけれど、双子みたい!」


 我がご主人の顔を見れば、先ほどまでミリアを追い詰めていた張本人だとは思えぬほどに笑顔であった。もはや彼女にミリアを責める様子は見られない。同じ日、同じ時間ぴったりに生まれた翼を持つもの同士の縁がよほど面白かったのか、どう見ても彼女のことを許してしまっているように見える。


 やがて我がご主人からの変な質問のあたりから徐々に鎮まっていった魔力暴走は完全になりをひそめ、ミリアの翼の成長も体より大きくなる前に止まった。しかし、魔物のように大きく立派に育った翼は重たそうに垂れ下がっていて、彼女は立ち上がれなくなっている。背中が重たいのと、一気に体の一部が成長したことにより体内の栄養をほとんど持っていかれた……とは、その場に居合わせた魔法医師の見立てである。そう、用意周到にも医師も紛れ込んでいたのだ。


 対処が完璧であり、障壁の展開が早かったので結果的に荒れたのはミリアの周辺だけであったが、本人の被害は甚大である。すぐにでも療養させなけれぼならないと判断したシアンは王子でおるニールに許可を求め、そして王命代理として慌てて退室を許可した。これも事前に王様には通達済みであり、騒動の最中にこっそり判断をあおりに行った誰かがいたから、それを王子に伝えて許可させるだけで済んだようだ。


 場のまとめに入ったシアンは簡潔に結果を話す。

 それは、この場の騒動のみでミリアを許すことである。血は繋がっていないが、同時に生まれた双子のようなものであるという事実を知った彼女は、すっかり彼女のことを憎めなくなってしまったらしい。反省もしてもらうし、果たされていない聖女の役割を剥奪して罰はある程度与えるが、それ以降も城でともに暮らせるように便宜を図るのだとか。対応が甘すぎると顰蹙(ひんしゅく)も食らっていたが、もうこうなったらシアンの意思は止められない。彼女は気に入ったものに対する執着が強い。国の幸せを一手に担い、呼び寄せている精霊公女が責任を待つと言ってしまえば誰も反対などできなかった。


 そうして精霊公女の周囲で起こった騒動はめでたしめでたし……とはいかなかった。


 今度は第四王子が今しかないとばかりにシアンへと大胆にも告白したのである。それこそ国際問題になりかねない話だ。しかし、目の前でこの世に一人しかいなかったはずの存在が二人現れたことで彼の元からある行動力が後押しされる形になってしまったらしい。


「騒動の際、あなたの元婚約者は庇いもしませんでした。これはあなたを本当に裏切っていたことの証左に他なりません。殿下の心の中にはもうあなたを想う気持ちはないのでしょう。どうか、私とともに来てくださいませんか。押し潰されるようなこの恋心をしまい込もうともしました。この国にはあなたが必要だと。けれど、同じ精霊公女の素質を持つものがもう一人いるのならば……どうか、我が国にも幸福をお招きいただきたいのです。必ずあなたを幸せにすると誓います。どうかこの手を」


 先ほどまでのやりとりを見てよくこのようなことを話し出せたものだと逆に関心してしまうような内容であった。

 我がご主人はこれに驚き、きょとんと訳が分からないという表情をした。そして、彼女の手が己に向かう気がないと見るや、無遠慮に手を伸ばした彼は鳥の羽一枚掴むことなく空を切った。逃げ出したシアンがニールに抱きついたのである。


「わたくしが愛するのはニール様、あなた一人だけです。ご安心なさって?」

「え? あ、うん……そっ、かぁ……」


 王子らしくもない返答しかできぬぼんくらは置いておくとして、いつも通りの我がご主人の様子を見てレオルは愕然としていた。そして、その頬にはらりと涙が流れ落ちる。


「あ、れ……? 俺、なんでこんなに……?」


 振られた矢先に目の前で別のオスに求愛するメスを見るなど、少々残酷かもしれないが、彼には良い薬となるであろう。そもそも、彼はシアンを真に愛しているわけではなく、その豊かさを手に入れて、なおかつ己が王になるための手柄が欲しかっただけなのだから。


「申し訳ありません、差し出がましいことを、口にしました。お幸せに」

「えっ、僕は構わなっ」

「ニール様。少しお黙りになってくださいな。あなたはわたくしだけのニール様でしょう? 誰とも話さないで。もちろん、あの人とも」

「……分かった」


 顔を真っ青にしたニールは逃げ場をなくして項垂れた。

 こうして断罪パーティーとなるはずだった夜会は、なんだか珍妙な形で着地したのであった。

残り二話で本編は完結。


好きな性癖発表ドラゴン

「断罪に手を貸したヒーロー枠が勝ち確で告白してフラれて脳破壊をされる瞬間」


正直これが見たくて書き始めたと言っても過言じゃないです。

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