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29. 二人で一組①

 聖騎士達の手によって、半ば引きずられるようにズルズルと連れ去られていくシルヴィー。髪を振り乱し呪いの言葉を吐き続ける彼女に以前のような神々しさはなく、まるで別の人を見ているかのようだ。


 ――マルスの契約者がまさか、シルヴィー様だったなんて。


 シルヴィーがどこからか取りだした、黒々とした一枚の羽根。その羽根が何なのか、マルスの翼を見た事のあるティナーシェにはすぐに分かった。

 どうすれば羽根の力を使うことが出来るのかまでは知らなかったが、シルヴィーが羽の力を使うためにどこかへ向かおうとしていた事は明らかだった。

 履きなれた靴を履いていたティナーシェは、何とかシルヴィーに追いつきその手を掴むことは出来た訳だけれど、枢機卿が使い方を知っていて良かった。火は絶たれ、シルヴィーは魂までもを失わずにすんだ。それが彼女にとって良い選択だったかどうかは分からないけど――。


「ティナーシェ! こちらへ来なさい。悪魔(その男)から離れるんだ」


 連れて行かれるシルヴィーを呆然としながら見ていたティナーシェは、枢機卿の呼び掛けに我に返った。


「貴様、悪魔だったのか。通りでおかしいと思った。悪魔の力で水晶玉を操り、アルテア様のご意思を捻じ曲げていたのだな?!」


 抜き身の剣をマルスへ真っ直ぐに向けているダリオ。他の聖騎士達も団長と同様に、武器という武器を隙間なくマルスへと向けていた。

 契約印が見られてしまった今、マルスが悪魔ではないと嘘をつき否定する事は不可能だ。

 だとしたら逃げてもらうしかない。

 マルスが地獄と地上を自由に行き来できるのか、ちゃんと聞いておけばよかった。どうにか地獄へ逃げて欲しいのだけど。


 ギリギリと歯噛みするティナーシェに、エメリアが青ざめた顔をしながら話しかけてきた。

 

「ティナーシェ、あの時アルテア様から反対されているって言っていたけど……あなた悪魔に唆されていたのね?」

「エメリア様、違うんです。唆されていたわけではなくて……」

「今ならアルテア様もお許し下さるわ。早くこっちへ来て、お願いよ。こんな形で友だちまで失うなんてあんまりだわ! あんた、よくもティナーシェを騙してくれたわね!!」

「違うっ! 違うんです!! マルスは確かに悪魔だし、シルヴィー様と契約を交わして力を貸していたけれど、でも本当は悪い人じゃなくて……」


 頭の中がぐちゃぐちゃで、上手く言葉にできない。

 初めて会った時こそティナーシェも、脅してきたり甘い言葉で誘惑してくるマルスを信用していなかった。

 けれど日を追うごと、マルスと一緒に過ごす時間が長くなるほどに、マルスの優しさや思いやりが嘘じゃないと信じたくなっていった。

 それが騙されているって事なんだと、言われたとしても。 

 

「ああ、なんてことだ。聖女を誑かし心酔させるとは」

「あれが悪魔の力か」

「聖騎士団長、どうか哀れなティナーシェをお救い下さい!」


 エメリアの悲痛な叫びに、ダリオはニタァと笑った。


「もちろんだとも」


 ダリオが振り上げた剣を降ろし聖騎士達に合図を送ると、ギラつく鋭利な刃先が一斉にマルスへと向かって来た。

 

 早く逃げて!

 お願い!!

 

「やめてーーーーっ!!」


 抱きついたマルスから、尋常ではない魔力が放出された。

 爆風にも似たその力に、襲いかかろうとしていた聖騎士達は吹き飛ばされ転がっていった。


「マルス……」

 

 見上げたマルスの背には艶やかな黒い両翼が生え、押さえ込む必要の無くなった魔力が周りを取り囲んでいる。

 石畳の地面はひび割れて、空気がビリビリと振動する。


「何で地獄へ逃げてくれないの?」

「んん? 好きなやつの目の前でしっぽ巻いて逃げるとか、ダッセーじゃん」

「ふざけてる場合じゃないでしょ! ……お願いだから逃げてよ。死なないでよ」

「俺に死んで欲しくないんだ」


 何でこの人は、こんな時まで余裕そうにして居られるんだか。

 地獄へ一瞬で帰れるか、もしくは全員皆殺しにしてしまえるだけの自信があるからなのか。

 こっちはこんなに必死で、命懸けだって言うのに。

 イタズラげに笑うマルスの胸を、ポンッとゲンコツで叩いてそのまま涙で濡れた顔を寄せた。

 

「当たり前でしょ。言ったじゃない、好きだって。だから……」

「俺たち二人が助かる方法を教えたら、ティナは信じてくれるか?」


 胸元からマルスの顔を見つめ返すと、頬を伝う涙を拭いながらもう一度「信じるか?」と聞いてきた。


「なに、その方法って?」

「俺の首筋を噛むこと」


 当然の事ように言い放ったマルスに、ティナーシェは思わず吹き出してしまった。


「もぅっ! またそれ?」

「そう、またそれ。俺を信じてくれるなら噛んでくれ」


 襟を下げて首筋を出したマルス。

 周りではマルスをどうにかして殺そうと、聖女が聖力を使い、聖騎士達がマルスから放たれる魔力と格闘している。

 迷っている時間は無い。

 というか、迷いなどとっくに無い。


「いいよ。だって私も、マルスと二人で一組になりたいから」


 自分が悪魔になってしまっても構わない。

 アルテア様を裏切る事になっても構わない。

 その結果、マルスと一緒に殺されてもいい。  

 でもその前に、私はマルスと『真の番』というやつになりたい。

 それが私の、嘘偽りのない気持ちだから――。


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