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28. 結婚式②

2015/2/27

エピソード6に加筆、

エピソード11と12の間に新たなエピソードを追加しました。

 ――なんで? どうして?!


 焦るシルヴィーは胸元を隠すが、既に大勢にこの契約印を見られてしまった。それに、一度浮かび上がったこの印を消す方法をシルヴィーは知らない。


 何故こんな時に契約印が浮かび出てしまったの? 一体どうしたら――?!


 契約印を隠すため押さえた胸に、固い何かが当たった。


「悪魔の羽根……」


 いつもはロケットペンダントに閉まってある羽根を、今日は胸元に隠していたんだった。助かったわ!

 

 シルヴィーは、胸元から羽根を取り出して火が何処かにないかと辺りを見回した。


 この場にいる全員の記憶を消してしまえばいい。今日のことは全部なかったことにすればやり直せる。まだ終わりじゃない!


 火は神聖なものとされ、邪悪なものを寄せ付けないと考えられていることから、聖堂では日中でもトーチに火が灯されている。

 一番近くのトーチまで走っていけば、と考えるシルヴィーは、ティナーシェと目が合った。


「その羽根は……」


 ティナーシェが言い終わらない間に、シルヴィーは駆け出した。

 悪魔の羽根を使って望みを叶えるのだと、もしかしたら知っているのかもしれない。

 とにかく早く、火のあるところまで!!


 ウェディングドレスに合わせたハイヒールで上手く走れない。片方脱げてしまったが、そんな事はどうでもいい。なりふりなど構っていられない。


「ダメ! シルヴィー様!!」


 手首を掴まれ、掴んできた相手と一緒に床に転げ倒れた。


「ティナーシェ、離して! 離しなさいよっ!!」

「その羽根の力を使っちゃダメです! だってそれを使ったら――」

「使ったら何だって言うのよ!? 地獄なんて怖くない! 死んだ後のことなんてどうでもいいわ!」

「それを使ったらシルヴィー様の魂は消えてなくなってしまうんですよ?!」

「だから何よ。恵まれたあんたに何がわかるの?!」


 小さな食堂に生まれた、しがない町娘。

 顔立ちには絶対的な自信があるのに、ろくな手入れも出来ないせいで肌はカサつき、髪もひとつにくくるだけ。

 着せられるのはいつだって、薄っぺらい生地で出来たつぎはぎだらけの服と底のすり減った靴。

 家の裏には蛆虫のごとくゴミに群がる人。そして勉強も出来ずに店を手伝う日々。


 ある日たまたま見かけた領主の娘。同い年くらいだった。

 香油の塗られた艶やかな髪は可愛らしいサテンのリボンで結ばれ、着ている服もレースと刺繍がそこかしこに施されたフリフリで。

 

 全然似合ってないじゃない。

 あんなドブスに着せるなら、私が着た方がずっと似合うのに。


 世の中は不公平だ。

 神に祈ったところで何になる?


 あの子を食堂の娘に、私を貴族の娘にしてくれるのだろうか?


 そんな事は絶対にない。


 生まれた時から既に道は決まっている。シルヴィーは生まれてから死ぬまで、ただの庶民として生きていくしかないのだ。


 そう考えていた矢先に、シルヴィーに転機が訪れた。

 聖力の発現だ。

 シルヴィーは庶民から、誰からも尊ばれる大聖女となった。枢機卿から、王族から、貴族から、ありとあらゆる人からの賛美。

 もしかしたら神は、不遇な私を哀れんでくれたのかもしれないとすら思った。


 だが実際には違った。

 大聖女の称号を得たにもかかわらず、王太子の婚約者には侯爵家の娘の名があがり、更にシルヴィーよりも聖力の強い伯爵家の娘まで現れた。


 見えないものに縋るなど時間の無駄。

 本気で欲しいなら、手段を選ばなければいい。

 今が楽しくもないのに、死んだ後のことを考えたところで、その先に悦びがあるとは思えない。それなら今、力ずくで悦びを勝ち取ったらいい。

 だからシルヴィーは悪魔を呼んだ。

 自分が思い描いた通りの、幸せを掴むために。

  

「私は幸せに……! 幸せになるのよ!!」


 ティナーシェを思いっきり突き飛ばして立ち上がったシルヴィーは、トーチのある方向を見て絶句した。

 

「うそ……」

「シルヴィーよ、観念しなさい。悪魔の羽根の使い方なら知っている。これでも枢機卿の地位にいるのだからね。アルテア教と関連の深いユリセス教にも詳しいのだよ」


 トーチの火はどれも、枢機卿の指示によって神官達が消してしまった後だった。トーチの先端からは白い煙がたっている。


「そんな……」

「ティナ、大丈夫か?」


 シルヴィーに突き飛ばされたティナーシェを、マルスが手を貸して立ち上がらせている。


 マルス……。マルス……。


 そう言えばこの契約印が現れる直前、マルスに触れたのだった。

 それにマルスを部屋へと呼んだあの夜――。


『俺にお前のその力は効かないから』


 彼はそう、言わなかっただろうか?


 全てがひとつに繋がったシルヴィーは、ティナーシェの様子を伺うマルスの胸に掴み掛った。

 火事場の馬鹿力とはよく言ったもので、シルヴィーがマルスの騎士服を引っ張ると、勢いよくボタンがいくつも弾け飛んだ。


「やっぱり……あんただったのね」


 あの夜、悪魔に口付けされた場所と全く同じところ。シルヴィーの身体と全く同じ場所に契約印が浮かび上がっている。

 周りが「あれが悪魔か?!」と騒ぐ声は、シルヴィーの耳には聞こえない。

 ただ目の前にいる男に向かって縋りついた。

 

「ねえ、お願いよ。私にもう一度だけ力を貸して。魂でもなんでもくれてやる。だから……」


 涙ながらに訴えるシルヴィーの手を、マルスは鬱陶しそうに払い除けた。

 

「地獄へようこそ。契約者さん」


 臓腑の凍るような冷たい声は、あの夜と同じもの。

 駆け寄ってきた聖騎士に後ろ手に縛り上げられたシルヴィーは、声の限りに叫んだ。


「嫌よ! もう少し! もう少しだったの!! 離せ! 離せーーーーっ!!!」

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